第63話 課金ゼロの境界術師。ーGー

 俺と三月みつき、そして二帆ふたほさんは、二帆ふたほさんの部屋に移動すると、〝ガンコ=ゾディアック〟のミッションをスタートした。

 俺たちがミッションを開始すると、観客モードには、たちどころにコメントがあふれかえる。


『さすがフーター、いきなりガンコ=ゾディアックに挑むのか』

『よく予備知識なしで挑むよな』

『ん? フーター、境界術師なの?』

『いや、ワイヤーガン装備してる。エリアルハンターだな』

『てことは、コスプレか!?』

『まじか! 北斗星のかけらを、境界術師のコスプレに使ったのかよ!』

『さらに、カラーも紫に変えてるw』

『よく〝北斗星のかけら〟を趣味アイテムにくだけるよな……』

『さすがフーター! 俺たちにはできないことを平然とやってのける!』

『そこにシビれる!』

『あこがれるゥ!』


「えっへん! 新コスは高評価なのだ!」


 VRゴーグルをかぶった二帆ふたほさんが、胸を張る。

 ゴーグルをかぶって見えないけど、その表情はドヤってるに違いない。


 二帆ふたほさんはゴキゲンだった。本当にゴキゲンだった。

 今日、新ボスの〝ガンコ=ゾディアック〟の実装の他にも、〝北斗星のかけら〟で交換できるアイテムのラインナップが更新されたからだ。


 二帆ふたほさんは、使い道がほとんどなくて大量にストックしていた〝北斗星のかけら〟を豪快に16個も砕いて、〝境界術師のコスプレレシピ〟をゲットすると、すぐさまアイテムを使って、コスプレコスチュームを作成していた。

 〝境界術師のコスプレレシピ〟は、クラスの装備はそのまんまで、を境界術師のコスチュームに変更できるアイテムだ。


 二帆ふたほさんは、チュートリアルすらクリアできない絶望感なパズルスキルのせいで、実戦では絶対に着ることができなかった矢絣やがすりの柄の着物に、ふわっふわでフリッフリのスカートを合わせた和洋折衷コーデのあざとカワイイ境界術師のコスチュームを、念願かなって着用することができていた。

(しかも〝北斗星のかけら〟を4個砕いて、紫色にカラーカスタムするこだわりようだ)


二帆ふたほさんの〝フーター〟めっちゃ可愛いです!」


 VRゴーグルをかぶっている三月みつきが、ごきげんに声をはずませる。


「えっへん! これでフーちゃんも理力フォースを自在にあやつるコスプレ使いなのだ!!

 ミーちゃんの〝マーチ〟も、水色が似合ってさらなる理力フォースを感じるのだ!」

「えへへ、思い切って〝北斗星のかけら〟を使っちゃいました♪」


 二帆ふたほさんがあやつる〝フーター〟と、三月みつきがあやつる〝マーチ〟は、紫と水色のあざとカワイイふたごコーデで、蜃気楼にかげる一面の砂漠を走っていく。

 そしてその後ろを、俺があやつる、全身黒ずくめのロンリーが追いかける。


『ふたごコーデ結構いいな』

『完全に趣味アイテムかと思ったけど、色違いで揃えたら、意外とバエる』

『オーバーキルボーナス狙うなら重複クラスが使えないし、要望多かったのかもな』

『わかりみ』

『ロンリーも着れば、もっとバエるのに』

『わかりみ』

『ロンリーは空気が読めない子』

『しゃーない。ロンリーは効率厨だし』

『わかりみ』


 コメント欄に俺に対する勝手なラベリング(でも事実)が書き込まれ続けるなか、俺たちはひたすらに砂漠を走る。

 すると遠くに、雑魚モンスターが見えてきた。


「できた!」

ヒヒーン!


 三月みつきは、すばやく難易度〝むずかしい〟のパズルゲーム〝箱入り娘〟をクリアして、移動をサポートできるうまの二進化干支えとモンスター〝セレブレッド〟を召喚すると、すばやくその背中に乗って、次のパズルに挑戦する。


 三月みつきは、もうすっかり上級プレイヤーだった。いや、境界術師に限って言えば、間違いなく世界の5本の指に入るレジェンドクラスのプレイヤーだ。 


「できた!」

コケコッコー!


 三月みつきは、あっという間に難易度〝むずかしい〟の〝16パズル〟をクリアして、羽を飛ばして遠距離攻撃するとりのの二進化干支えとモンスター〝キンチョチョール〟を召喚すると、攻撃にも参加する。


『あいかわらず、マーチのパズルテクはとんでもないな』

『だな、一切の迷いがない』

『さすが、運営泣かせの無課金術師w』


 この三ヶ月の間、境界術師には割と大きな仕様変更があった。

 でもその仕様変更は、境界術師の性能に関してではない。


 その変更内容は、『他のプレイヤーにも境界術師がプレイしているパズルが表示される』ことだった。

 運営は、『境界術師と連携をやりやすくするため』と公表していた。


 でも、そのほかにも、三月みつきには格別の恩恵があった。


 三月みつきの超絶パズルテクニックを、観客モードのプレイヤーたちも鑑賞できるようになったことで、誰も三月みつきを〝課金術師〟って誹謗中傷を書き込まなくなっていた。


 かわりに、運営泣かせの〝無課金術師〟ってニックネームがついて、あっという間に、二帆ふたほさんがあやつる〝フーター〟と肩を並べる、大人気レジェンドプレイヤーになっていた。

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