第54話 ゼロ距離おねーさんは頭かくしてアソコかくさず。

 俺が自宅に帰ると、家の前に黒塗りのワゴンが停まっていた。アルファードだ。

 そしてその運転席から、小さな人影が降りるのが見えた。俺はその人物に声をかける。


「おはようございます。武蔵むさしさん。二帆ふたほさん、今日も仕事なんですね」

「はい。年末年始特番の収録時期ですから。でも今日は入りが少し遅くて助かります」


 武蔵むさしさんは、今、大人気のモデル、〝令和のヴィーナス〟ことFUTAHOさんのマネージャーさんだ。


「今日は、二帆ふたほさん、からいくんですか?」

「はい。現場に入ったらすぐに仕事ですし」

「じゃ、二帆ふたほさんを起こしてきますから、あがってください。今日は寒いですし」

「ありがとうございます」


 武蔵むさしさんは、俺に向かって、ていねいに頭を下げた。

 顔をあげた武蔵むさしさんは、童顔で化粧っけのない顔の鼻先に細フレームのシルバーの眼鏡をちょこんとのっけて、腰まであるながい黒髪をひっつめにしている。


 結構ヒールの高いパンプスを履いているからパッと見はわかんないけど、身長は多分、150センチもないと思う。

 一乃いちのさんの大学時代のクラスメイトだったらしいから、年齢は俺の七つ上だ。

 でも、グレーのスーツを着ていなければ、高校生、いや、中学生に間違われるかもしれない。

 年下の俺に向かって敬語をつかってくるからなおさらだ。学校の後輩に話しかけられた気分になる。(保健室登校の俺には知り合いの後輩なんていないけど)


 俺は、武蔵むさしさんをリビングに案内すると、キッチンにある電気ケトルに水を入れてスイッチを入れてから、3階への階段へと向かう。


「お茶をだすの、ちょっと待っててくださいね。すぐに、二帆ふたほさんをつれてきますから」

「はい。おかまいなく」


 武蔵むさしさんは、そう返事をすると、リビングにちょこんと座って背筋をのばして微動だにしないで待っている。


 俺は、階段をトントンと登って、3階に上がると、二帆ふたほさんの部屋をノックした。


 コンコン。


二帆ふたほさん、武蔵むさしさんが迎えにきてくれましたよ。二帆ふたほさん!?」

『…………………………』


 案の定、部屋の奥からは何の返事もない。無理もない。だって昨日は11時近くまで一緒にM・M・Oメリーメントオンラインを遊んで、その後に素材集めをやるって言っていたから。


「素材集めは、自宅警備員のフーちゃんのお仕事なのだ!

 イーちゃんも、ミーちゃんも、スーちゃんも、欲しい素材があったらバンバン頼んでちょ!」


 って、いつも口癖の様にいっていた二帆ふたほさんだけど、今や日本人なら誰でもしっている〝令和のヴィーナス〟が、自宅警備員なわけがない。

 下着姿でのノースタントのアクションが話題のCMで、二帆ふたほさんの知名度は、飛躍的にアップしていた。


 コンコン!


二帆ふたほさん!! 二帆ふたほさん!!」

『…………………………』


 ゴンゴン!!


「ふーたーほーさん!!」

『…………………………』


 うん、ダメだ。これは完全に爆睡状態だ。夢の中の住人だ。

 無理もない。だって11月に入ってからの二帆ふたほさんは、ほとんど休みがない状態だもの。(年末年始の特番に出まくるらしい)


二帆ふたほさん! はいりますよ!!」


 ガチャリ。


 俺は、無断で二帆ふたほさんの部屋のドアを開けると、ベットの上の二帆ふたほさんを見た。

 

 二帆ふたほさんは布団を激しく蹴っ飛ばして、ベットの上で大の字になっている。顔は、だるんだるんのパーカーのフードをすっぽりかぶっていて見えない。

 けれども、それ以外のところが丸見えのモロ見えだ。


 『下着をはいたら負け』の形の良いおっぱいも、ここには書いてはよろしくないところまで、丸見えのモロ見えだ。


「でたな……ヤドカリ……きょうこそ、ぬっころす……」


 俺は、夢の中でM・M・Oメリーメントオンラインで近々実装予定のヤドカリ型のモンスター、〝ガンコ=ゾディアック〟と戦っているであろう、丸見えのモロ見えの二帆ふたほさんの神ボディをありがたくおがんでいると、


「むにゃ? なんだか硬いモノがあるのだ!」


 と、俺の急所のカチンコチンに素早くパンチを繰り出した。


 俺は攻撃を紙一重でかわす。あぶなかった。命中したらオーバーキルは確実だ。


 俺はジョギングで熱った身体が一気に冷えていくのを感じながら、二帆ふたほさんのズリ上がりまくった、だるんだるんのパーカーをていねいに下げて、ふとももまでスッポリと隠してから、二帆ふたほさんをお姫様抱っこした。


 そしてそのまま二帆ふたほさんの部屋を出て、武蔵むさしさんが待っている、リビングのある2階へと降りていった。

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