第50話 遠い遠いゼロ距離な彼女。

 俺は砂漠を歩いていた。360°見渡す限りの砂山だった。

 俺は喉が渇いていた。俺はなんだか知らないけど喉が渇いていた。

 そしてHPは一桁だった。このままでは死んでしまう。


 俺は、ガクリとヒザをつき、息も絶え絶えにつぶやいた。


「だれか……助けてくれ! 飲み物をくれ……!!」


「……助けてあげよっか?」


 聞き慣れた馴染みの声がする。みあげると、そこには、えんじ色の矢絣やがすりの柄の着物に、ふわっふわでフリッフリのスカートを合わせた和洋折衷コーデのあざと可愛いドレスを着た三月みつきがいた。


「頼む! 三月みつき

 は、はやく干支えとモンスターを!! 〝メグミルクルクル〟を召喚してくれ!」


「うーん……どーしよっかなー」


 三月みつきは俺の前にしゃがみこんだ。リスの様なクリクリとした瞳をイジワルに細めている。そして、ふわっふわでフリッフリのスカートからは、えんじ色のしましまパンツがくっきりハッキリと見えていた。(衣装と同じ色のパンツだ。芸が細かい)


 俺は「パン」と手を合わせると、おもいっきり頭を下げた。


「な、なあ、頼むよ! お願い、三月みつき! 三月みつき様!!」

「しょーがないなぁ。じゃあ、特別だよ♪」


 そう言うと、三月みつきの前に突然「スタリ」と障子が出てきた。障子からは、三月みつきのシルエットが透けて見える。


「い、今、準備するから、絶対開けないでよ!!」

「わかったよ……」


 障子しょうじの向こうの三月みつきは、ゆっくりと和洋折衷ドレスを脱ぎ始めた。


 え? どういうこと??


「絶対開けないでよ!!」


 突然、あたりは暗くなり、なんだかムーディーと言うかセクシーと言うか「あっは〜ん❤︎」なBGMが流れ始める。

  障子しょうじはいつの間にかピンク色にかわっている。


 え? え?? どういうこと?? どういうこと???


「できた!」


 三月みつきが叫ぶと、障子しょうじが「スラリ」と左右に開いた。そこには一糸まとわぬ三月みつきがいた。


「さあ! めしあがれ!!」


 三月みつきはおっぱいを押し付けてくる。い、息ができない!!

 ってあれ? 三月みつきってこんなにおっぱいおっきかったっけ!???


 ていうかこのおっぱい……知ってるぞ!!


 ・

 ・

 ・


 俺は、目を覚ました。

 

「……やっぱり!!」


 俺は、おっぱいに挟まれていた。目の前には、おっきなおっぱいがある。きれいで思わずさわりたくなるおっぱいが、目の前に広がっている。俺の頭は、目の前のおっぱいで、もういっぱいいっぱいだ。おっぱいで、大混乱だ。


 そしてこのおっぱいの持ち主は……!!


「んー、あー……もう朝か。ふわぁあああ」

「い、いいいいい、一乃いちのさん!!」

「あれー。また部屋を間違えちゃったみたい。ごめんねー」


 ベットの上には、一乃いちのさんの服がていねいに畳んであって、その上にこれまたていねいに淡いグリーンのブラジャーとパンツが置かれていた。


 一糸まとわぬ姿の一乃いちのさんは、おおきくのびをした。のびやかにのびる両腕にひっぱられて、おっきなおっぱいが、しなやかに、おおらかに、形よくはりだしている。


 ガチャリ。


 突然、背中の向こうでドアが開く音が聞こえた。そして、


すすむー。 朝ごはん、一緒につ……く……ろ……」


 三月みつきは、しばらくかたまっていた。だけど、


 バダン!!!!!!!!!!!


 三月みつきは、ありったけの力をこめて思いっっっきりドアを閉じた。そしてドカドカと大きな足音を立てて、その足音は少しずつ遠くなっていく。


 ふりむくと、一乃いちのさんは慌てていた。

 こんなに慌てている一乃いちのさんを見るのは初めてだった。


「ゴメンなさい! スーちゃん!! 十六夜いざよいさんを誤解させちゃった! スーちゃん、迷惑だよね!! だってスーちゃん、十六夜いざよいさんのこと好きなんだもんね! 付き合ってるんだもんね! ゴメンね! わたし、十六夜いざよいさんの誤解をとかなくっちゃ!!」


 一乃いちのさんはおお急ぎで服を着て、腕に着けていたヘアゴムで髪の毛をひとつに縛ると、部屋のドアをガチャリと開ける。そして振り向くと、


「わたし、絶対絶対! 十六夜いざよいさんの誤解を解くから!!! 本当にゴメンね!!」


 バタン!


 ドアを閉じて三月みつきを追いかけていった。


「……………………」


 俺はせつなかった。とてつもなく、やるせなかった。

 だって……一乃いちのさんは、俺が三月みつきのことを好きだって勘違いしているんだもの。付き合っているって、勘違いしているんだもの。

 そして一乃いちのさんは、俺のことを、これっぽっちも男としてみてくれていないんだもの。


 ただの弟としてしか……見てくれていないんだもの。



  ゼロ距離な彼女。

   第一章 ゼロ距離な家族。

 

     − 了 −

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