第49話 匂いだけならカロリーゼロ。

 俺と三月みつきが庭にでると、バーベキューはすでにはじまっていた。

 剣の刺さったお肉を強火の遠火にかけている。


 それを父さんがナイフで器用に切り取って、二帆ふたほさんが持っているお皿の上に乗っけていた。


「よかった。二帆ふたほさんも食べさせてもらえるんですね」


 俺が言うと、返事をしたのはパパだった。火加減を見ながら剣にささったおっきなブロック肉を、くるくると回している。


「ああ。あぶらの少ないイチボとランプ肉だからね。それから鳥のササミも焼いてある。

 量さえ適量なら、問題ないよ」


 パパはそう言いながら、ウイスキーのロックに舌鼓をうっている。顔は既に赤ら顔だ。


「スーちゃんと、十六夜いざよいさんも、食べて食べてー」


 一乃いちのさんがお皿を持ってきてくれた。もう、かなりお酒がすすんでいるのか、色白の顔が真っ赤になっている。


 俺と三月みつきは、父さんにこれでもかと皿に盛り付けてもらった焼きたてのお肉を食べた。


「やわらかくて美味しい!」


 三月みつきはご満悦だ。無茶なダイエットはやらないと宣言した三月みつきは、山盛りのお肉をもりもりと食べている。


「うれしーどんどんたべてー」

「頑張ってお料理したかいがあったわ」


 一乃いちのさんと、母さんが喜んだ。父さんに切り分けてもらったお肉をつまみながら、お酒を飲んでいる。一乃いちのさんは、ビールをトマトジュースで割ったレッドアイ。母さんはアルコール少なめの缶に入ったカクテルだ。


「シェフ、おかわりをお願いするのだ!」


 あっという間にお肉を平らげた二帆ふたほさんが父さんにお皿をつきだした。

 するとそのお皿を「ひょい!」とパパがとりあげて。大量のささみとゆでたまごの白身を乗っけた。


「はい。二帆ふたほは、パパ特製のスペシャルプレートだよ!」

「うえー」


 二帆ふたほさんは、うんざりとした顔をしてその皿をうけとると、もうもうとけむりのあがるシュラスコの前で大きく深呼吸をしながら、パパのスペシャルプレートを食べ始めた。


「けほけほ! 匂いだけなら、カロリーゼロなのだ!」


 二帆ふたほさんは、煙がしみたのか、それとも食事制限が辛いのか、涙がキラリと光っていた。


 その後、俺は、お肉をたらふく食べた。二帆ふたほさんにはちょっともうしわけないけれど、ニコニコ顔ですすめてくる一乃いちのさんの誘いは断れない。


「さあさあ、どんどん食べてー」

「い、いや……さすがにもう限界です」

「そんな、ひどい。わたしの手料理がたべられないのー?」

「だから、限界ですってば……」

「そんな、ひどい」

「……………………」


 うん……一乃いちのさん、これはもうかなり酔っ払っているんじゃないかな。


 俺は、一乃いちのさんに飲み過ぎはほどほどにと告げると、さっきから煙の中で涙をながしつづける二帆ふたほさんと、ダイエットをやめたにしてもさすがにちょっと食べ過ぎが心配な三月みつきといっしょに、バーベキューを切り上げた。


 すると、ママが声をかける。


三月みつきちゃん、きょうはお泊まりでしょう? お風呂がわいているから、入りなさい。一番風呂は、お客様のものよ」


 それを聞いた二帆ふたほさんは、


「なにー! フーちゃんも、ミーちゃんと一緒にはいるのだ! 美少女高校生と一緒にお風呂に入って、ボディチェックをしたいのだ」


と、三月みつきのパツンパツンのお尻をモニュモニュともみながら言った。


「わあ、光栄です!!」


 感激する三月みつきをみながら、ママはため息混じりで了承をする。


「まあ……そんなバーベキューの煙が染みまくった身体でリビングにいるのも問題よね……二帆ふたほ、くれぐれもそそうのないようにね」

「りょーかいのすけ」


 二帆ふたほさんは、スタイルの良い胸を張った。


 そっからの俺は、そわそわとドキドキがとまらなかった。


「はずかしがっちゃダメだのだ! もっと思い切り「くぱぁ」と開くのだ!」

「こ、こうですか!?


 バスルームから、二帆ふたほさんが三月みつきのボディチェックをしている声が聞こえてくる。


「ふ、二帆ふたほさん、そ、そこはダメ……です……あぁああん」

「よいではないか! よいではないか!」


 ……これ、健全なんだよね、大丈夫なんだよね。


 しばらくして、顔を真っ赤にしている三月みつきとさっぱりした顔つきの二帆ふたほさんがお風呂からあがってきた。


「す、すごい体験しちゃった」

「あーさっぱりしたのだ。スーちゃんも、お風呂に入りなよ!

 そしたら、M・M・Oメリーメントオンラインの続きなのだ」


 ふたりの声に、変な妄想をしてしまった俺は、落ちつきなくお風呂をすませると、俺と二帆ふたほさん、それから三月みつきは、その後も夜の12時くらいまで、ガッツリとM・M・Oメリーメントオンラインをプレイしまくった。


「それじゃ、今日はこれくらいで……三月みつきはもう寝ちゃったし」


 朝が早かった三月みつきは、二帆ふたほさんのベッドですやすやと眠っている。


「りょーかい。フーちゃんはその間に、イーちゃんの素材集めをしとくのだ。スーちゃんも、欲しい素材があったら言ってちょ」

一乃いちのさんの素材集め、いつも二帆ふたほさんがしてるんですか?」

「そーなのだ。イーちゃんは色々忙しいから、フーちゃんが集めてあげるのだ! だってフーちゃん、自宅警備員だし!」


 二帆ふたほさん、確かにずっと家にいるけれど……自宅警備員はちょっと意味が違う気がする。けれども家の中では、M・M・Oメリーメントオンラインを一番プレイできるのが二帆さんなのはまぎれもない事実だ。


 俺は、二帆ふたほさんの申し出に、ありがたく素材のリクエストをすると、眠い目をこすりながら自分の部屋のベットに潜り込んだ。そして、なんとも抱き心地のよい抱き枕に抱きついて爆睡をした。

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