第48話 気付く気配は永遠のゼロ。

 ひょっとしたら、あこがれの〝コジロー〟と一緒にM・M・Oメリーメントオンラインをプレイできるかもしれない……。

 俺は、ドキドキしながら、三月みつきの控えめなおっぱいに顔をグリグリとうずめている二帆ふたほさんにたずねてみた。


「あの、今日は〝コジロー〟とM・M・Oメリーメントオンラインをプレイしないんですか?」


 二帆ふたほさんは、三月みつきのおっぱいから顔をあげると、首をふりながら答えた。


「しないよ? だってフーちゃん、遊ぶ派だから」

「同室で遊ぶってことですね」

「そーなのだー。そーしないと連携が難しいもん」


 M・M・Oメリーメントオンラインは普通に音声チャットもあるけれど、やっぱり同室で遊んだ方が連携は取りやすい。

 とくに、VRゴーグルユーザーがいる場合はそうだ。VRゴーグルユーザーは、ディスプレイやタブレットのプレイヤーに比べると、圧倒的に視点切り替えがやりやすい。

 そりゃそうだ。だって首や視線を動かすだけで、瞬時に見たい場所を見ることができるんだもの。

 VRゴーグルユーザーが同室に一人いるだけで、見張りや観察役を完全に一任することができる。これは協力プレイがメインのM・M・Oメリーメントオンラインにおいては、とてつもないアドバンテージだった。


「〝コジロー〟も、VRゴーグル派ですか?」

「二刀流! 使用クラスによって、VRゴーグルとディスプレイを変更してるのだ」

「すごい……」


 俺は興奮していた。二帆ふたほさんが〝コジロー〟と同室で協力プレイをしている……ってことは、つまり、二帆ふたほさんは〝コジロー〟と会ったことがあるってことだ。しかも、結構、割と頻繁に!


「あ、あの……二帆ふたほさん、〝コジロー〟ってひょっとして……」


「バーベキュー始めるよ!」

「バーベキュー始めるよ!」

「バーベキュー始めるのー!」


 外から、父さんと、パパ、そして一乃いちのさんの声が聞こえてくる。


「な、なんだってー!!」


 二帆ふたほさんは、あぐらをかいたゲーミングチェアから「スチャリ!」とおりたつと、部屋の窓を開けた。窓から、むわんとした残暑の熱気と、お肉が焼ける香ばしい匂いがただよってくる。


「こうしちゃいられない! すぐにお肉を食べに行かないと!!」


 二帆ふたほさんは、窓をピシャリとしめると、スキップしながら部屋を出ていった。


 残念。〝コジロー〟のこと聞きそびれちゃった。ま、いいや、聞くチャンスはいくらでもある。それはそうと二帆ふたほさん、あんなにはしゃいでいたけれど、お肉、食べさせてもらえるのかな? CM撮影にさしさわると思うけど……。

 俺が、せっかくはしゃぎながら部屋を飛び出ていった二帆ふたほさんが、ママとパパに残酷なおあずけのテーゼを喰らわないかと心配していると、三月みつきが声をかけてきた。


「その、〝コジロー〟ってひとだれ?」

M・M・Oメリーメントオンラインのトッププレーヤーだよ!

 〝マタドール〟や〝インファイター〟の使い手で、二帆ふたほさんの〝フーター〟や一乃いちのさんの〝よろず〟とトリオを組んで、オーバーキルを連発するんだ!

「……ふーん」

三月みつきも、本格的にM・M・Oメリーメントオンラインを始めるなら、〝コジロー〟のYouTubeは絶対チャンネル登録したほうがいいって! 〝巌流島チャンネル〟!!」

「……ふーん」

「………………」


 うん。これ、三月みつきが全く興味がない時のリアクションだ。

 俺は知ってるんだ。このリアクションをしている時の三月みつきは、俺の話に全く興味を抱いていない。

 いっくら熱心に説明をしても、俺の説明をガン無視して、スマホでInstagramやTikTokを見ている時のリアクションだ。


 俺は、三月みつきM・M・Oメリーメントオンラインにもっと夢中になってくれる方法を真剣に考えていると、しばらくたってから、三月みつきが、


「はーーーーーーーーー!」


 っておっきなため息をついた。


「そんなことより、もっと重要なことあると思うんだけど……」

「あ、そっか! バーベキューはじまってるんだ!」


 俺は、いそいそと、ドアに向かっていった。すると、三月みつきはまたおっきなため息をついて、なんだかボソボソと、意味不明な事をつぶやいていた。


「……おぎ…………せい、せっかく脈アリな感じなのに……ホント、おこちゃまなんだから……」


 

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