第47話 待機ゼロの呼び出し時間。

 一乃いちのさん、慌てて二帆さんの部屋を出て……どうしたんだろう?

 

 気になる。気になるけれど、俺は同じくらい気になることがあった。

 観客モードの書き込みだ。


 俺は、OFFにしていたコメントをONにもどすと、ドリルドリュウを倒した直後までコメントをさかのぼる。


『課金乙』

『課金乙』

『課金乙』

『課金乙』

『課金乙』

『課金乙』

『あ! 障子しょうじでとどめをさした』

『そして、トリのゼロ距離発射かよ!』

『でたオーバーキル!」

『しかもダブル!!』

『いやトリプルかよw』

『こりゃ、また緊急メンテじゃね?』

『運営も課金で倒されちゃたまらんよな』

『いや、メンテは入らないよ。あとマーチは課金してない』

『知ったかぶり乙』

『その根拠は?w』

『境界術師を、ドリルドリュウの首まで連れてくのが困難』

『あーたしかに』

『フーターが救出して、よろずが足場作ったから可能になったゼロ距離だもんな……』

『そ。境界術師はパズル中は動けないから、ドリルドリュウへの密着は仲間にサポートしてもらわないといけない』

『でも、マーチ、パズルはしてないでしょ』

『課金術師だもんなw』

『だからペットフードじゃないって。これは断言できる』

『だから根拠はw』

『適当こくなよw』

障子しょうじふすまが出た後の、干支モンスターの出現スピードが根拠』

『は?』

『ペットフードで干支モンスター呼んだ場合は通信がはしる。課金アイテムだから、その辺が厳密。サーバーでペットフードを消費して、その結果をクライアントに反映してからじゃないと発動しない』

『ソースは?』

『はい。ボクがアップした検証動画。

 https://www.youtube.com/gaming/watch?v=XXXXXXXXXXX』


 俺は、URLをコピペして検索動画を確認した。

 そこでは、書き込みの主の主張どおりの検証が行われていた。

 確かに、ペットフードだと、発動までの時間にムラがある。

 そして俺は、この検証動画の製作者の名前を見てビックリした。


『え? おまえコジロー!?』

『そだよ』

『まさかコジローだったとは……』


 〝マーチ〟が課金していないと主張していたのが、レジェンドプレイヤーのコジローだと知って、〝マーチ〟を課金術師と誹謗中傷していた書き込みが、まるで潮が引いていくみたいに一気に消えていった。


 よかった。これでもう、三月みつきがあやつる〝マーチ〟に『課金乙』とか、『課金術師』とか、テキトーな悪口を書き込むユーザーはいなくなるはずだ。


 本当によかった。


 観客モードのコメント欄には、コジロー(と思われる)プレイヤーの書き込みが続いていく。


『気になってペットフード使った時と、パズルで出した時の召喚タイムを計測したんだよね。

 通信だと、呼び出すまでのタイムが安定しないけど、パズルだと待機ゼロですぐに呼び出せる。

 障子のダメージのあとにタイムラグがでちゃったら、ドリルドリュウのやられモーションが始まってキンチョチョチョールの鋼の羽が全弾ヒットしない。完全に計算ずくだよね。多分ロンリーの作戦じゃないかな? マーチはパズルは神業クラスだけど、他の動きはぎこちがないから。

 フーターとよろずは、そこまで作戦立てて戦うタイプじゃない。パーティ組む時は、いつも作戦立てるのボクだし』


 すごい。カンペキな考察だ。

 やっぱり〝コジロー〟すごいな……俺なんかじゃ、足元にも及ばない。

 だって俺は、ペットフードで召喚するとタイムラグが出ることなんて知らなかったし(三月みつきがペットフードを一回も使ったことないから)、もっというと障子しょうじに当たり判定があるのも知らなかった。


『ボク、ロンリーに興味あるんだよね。ボクなんかじゃ考えつかない攻略方法を編み出すから。今度フーターに頼んで、パーティーくませてもらおっかな……』


 え? お、恐れ多い!!

 まさか、〝コジロー〟からお誘いが来るなんて!

 何を隠そう、俺は〝コジロー〟の大ファンだ。


 レジェンドプレイヤーの〝フーター〟〝よろず〟も確かにすごいけど、どちらかというとその強さは操作テクニックに依存する。

 特に〝フーター〟……つまり二帆ふたほさんのゲームスキルは変態の域に達している。感覚だけでプレイしている。その証拠に……


「むっきゃー! わかんにゃいーーーーーー!!」


 二帆ふたほさんが突然叫び声をあげてBluetoothのコントローラーを投げ捨てた。


『ほれほれ、頑張って境界をこじあけるのじゃ!!』


 画面には、境界術師のスライディングパズルと、境界術士のチュートリアルキャラクター、はっちゃん師匠が映っている。


「フーちゃん、あきらめる……境界術師の理力フォースを感じるコスチューム着たかったけどあきらめる……」


 そう言うと、二帆ふたほさんはVRゴーグルを外して、ゲーミングPCのリセットボタンをしょんぼりと押した。


「だ、誰にだって、不得意なものはありますよ!」


 三月みつきが、二帆ふたほさんをなぐさめると、


「ぐすん。ミーちゃん、その胸で泣かせてください」


 と言って、三月みつきの控えめなおっぱいにぐりぐりと顔をおしつけていた。

 ……うらやましい。


 俺は、そんなうらやましい二帆ふたほさんを見ながらドキドキしていた。


 観客モードの書き込みで、〝コジロー〟が、俺とパーティーを組みたいって言ってくれていたからだ。


 〝コジロー〟のプレイスタイルは、敵の行動パターンを完全に解析して、理詰めで戦うタイプだ。

 めちゃくちゃ憧れる。アクションゲームが苦手な俺にとって、〝コジロー〟のプレイスタイルは、理想以外の何者でもなかった。


 俺はドキドキしていた。さっき、二帆ふたほさんと一乃いちのさんのおっぱいに挟まれた時とおなじくらい、胸がドキドキしていた。

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