第45話 計算違いのゼロ距離発射。ーGー

 壁まで吹き飛ばされた俺は急いで戦線に復帰する。俺も攻撃に加わらないと。

 ちょっと計算は狂ったけど、回復効果アップ魔法の〝己亥つちのとい〟と、自動回復魔法のスキル〝乙丑きのとうし〟のおかげで、HPはたちどころに回復していく。このまま押し切ろう!


 俺は、ドリルドリュウからかなり離れて背後にまわると、画面を照準モードに切り替えて首の付け根に狙いを定める。そして、コントローラーのアタックボタンを押しっぱなしにして心の中でカッコよくさけんだ!


(伸びろ、如意棒にょいぼう!!)


 すると、〝ロンリー〟の装備した棍が「ぎゅーーーいん」と伸びて、ドリルドリュウの弱点である首の付け根を「コンコンコンコンコンコン!!」とこづき始める。

 魔法の名前は、〝戊申つちのえさる〟。サル。そう、孫悟空の武器、如意棒にょいぼうがモチーフの伸縮自在の棍だ。

 〝戊申つちのえさる〟は、延々と伸び続けて、さきっちょが当たり判定にぶつかると、その部分に高速の突きを喰らわせることができる。射程と攻撃速度を兼ね備えた、高性能な武器だ。

 ただし標的を外すと、縮めてからじゃないと再攻撃できないから、外した時のスキは絶望的にでかい。(マトが小さいリトルヨウコや、動きの素早いオンソワネズミ相手にはとうてい使いこなせない。弱点が小さい発狂前ドリルドリュウも無理)


 大変なのは、一乃いちのさんだった。今までは、ずっと立ちっぱなしだったドリルドリュウが動き回るから、〝フーター〟がワイヤーガンを刺す場所を予測するのが難しい。だからペンデバイスをドラッグして、フーターの上空に大量のブロックをばらまいて、なんとか落下を防いでいる。

 そのうえ、ドリルドリュウの目線にはいって囮をこなし、しかもその動きをトレースするセレブレッドにまでも気を配る。


『すげーな、ブロックつかいまくりだよ』

『よく石のかけらが持つよな……』

『チュウチュウレインの存在がマジでかい』

『そ、無駄撃ちしたのを回収してもらわないととっくに在庫切れ』

『はー考え抜かれてんなー』


 俺は、オフにしたコメント欄をチラリとみる。総コメント数はどんどん増えていって、ついには5000を超えている。戦闘が終わったら、さかのぼって確認しないと……有益な書き込みがあるかもしれない。

 って、だから気を抜くな! 俺は雑念が多すぎる!!


 俺は軽く息を吐くと、三月みつきを見た。三月みつきはコントローラーをピクリとも動かしていなかった。


「パズル、準備できたんだ!」

「うん! あとワンスライド! 「35」を左に動かせば呼び出せるよ!!」

「じゃあ、出して欲しいタイミングで声をかけるから。あ、その前に二帆ふたほさんと一乃いちのさんに声かけするから、その時に目をつむった方がいいかも……」

「わかった! じゃあ、もう目をつむっておく!!」

「了解!!」


 よし、切り札は準備万端だ。あとはギリギリまでドリルドリュウのHPゲージをけずればダブルオーバーキルは確定だ!!

 二帆ふたほさんはもうドリルドリュウの攻撃をやめている。攻撃力の高いエリアルハンターがこれ以上攻撃したら、タイミングを図るのが難しくなるからだ。

 俺はコントローラーの攻撃ボタンを押しっぱなしにして「コンコンコンコンコンコンコンコン!」と高速連打をかます〝戊申つちのえさる〟を縮めると、二帆ふたほさんと一乃いちのさんに合図をした!


「ここで、〝救出〟です!!」


「りょーかいのすけ!」

「わかったのーーー!」


 俺が叫ぶやいなや、SSR美人ゲーマー姉妹は、緊張感なく返事をする。


 〝フーター〟は、ワイヤーガンを地上めがけて射出した。ワイヤーはするすると伸びて、セレブレットに乗っていた〝マーチ〟のお尻にブスリと刺さる。そしてまたたくまに、あざとカワイク短いふりっふりのスカートを押さえる(でもあざとくパンチラしている)〝マーチ〟を自分の元によびよせて「スタリ!」と、〝よろず〟がうずだかくつみあげたブロックの上に着地した。


三月みつき!」

「りょーかいのすけ!!」


 三月みつきは、あこがれの〝令和のヴィーナス〟FUTAHOのマネをして、おとぼけに返事をすると、思いっきりBluetoothのコントローラーの左ボタンを押した!


 すると、「ずにゅり!」と、生々しい効果音がして、障子しょうじがドリルドリュウにめりこんだ。


 Finish!


 え?? 


 めっちゃ発音のいい、イケメンボイスが響きわたって、画面内にカッコイイフォントが踊っている。障子しょうじに当たり判定あったんだ……。 


『ぐおおおおおおおおぉぉぉぉぉ!!』

『コケ! コケ! コココ! コケコッコー!!』


 ドリルドリュウが苦しむ中、障子ショウジから召喚された、最大進化のトリの干支モンスター、〝キンチョチョチョール〟が首にめり込んで、鋼の羽を超高速で射出する。


 OverKill!


 めっちゃ発音のいい、イケメンボイスが響きわたって、カッコイイフォントが踊っている。


 〝キンチョチョチョール〟は、360°全方向に鋼の羽を乱射する超広範囲攻撃だけど、ゼロ距離で全弾命中させたら、その火力は最大進化干支モンスターのなかでもトップだ。


 OverKill!!


 よし、ダブルオーバーキル達成!!


 OverKill!!!


 ……え?


 おれは、とんだ計算ミスを犯していた。〝キンチョチョチョール〟の全方向乱射は、障子ショウジによる予期していないダメージが上乗せされて、トリプルオーバーキルのダメージを叩き出していた。

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