第44話 余裕ゼロのぼっチート。ーGー

 ドリルドリュウは、二帆ふたほさんあやつる〝フーター〟の連続斬撃を首のつけねに喰らい続けながら、もくもくと顔の布に浮かんだ砂時計の砂を落としつづけた。そして津波が引いたタイミングで、砂時計の砂を落とし切る。


乙巳きのとみ!』


 ドリルドリュウの野太い声がひびきわたると同時に、俺は〝ロンリー〟をあやつっって、密閉されたかまくらの天井をぶちやぶった。


  装備したのは棍。武器を実体化する〝つちのえ〟系の魔法だ。


 〝ロンリー〟は天井から飛び出すと、スルスルと忍び寄ってきた緑色のヘビにからみつかれた。最大HPの半分を奪い取るドレイン攻撃だ。


 〝ロンリー〟の体に、緑色の「8」の文字がピコリンと表示される。すると、頭の上にある鉄でできたマッチョのコケシが砕け散った。


『ここで〝辛丑かのとうし〟か!』

『一番HPが少ないロンリーが、HP1残しでふんばると』

『にしてもダメージ一桁かよw』

『8w』

『ギリギリw』

『最初の剣、よくしのげたなー』

『どーせ偶然だろ?』

『だなw』

『フーターやよろずとは役者が違う!』

『ちがうって!』

『あれは完全に計算』

『うん。バクチでHP一桁は不可能だ。怖すぎる』

『ロンリー、恐ろしい子!』

『しろめw 』

『白目w(本日2回目)』

『しっかし、ダメージコントロールすげーな』

『ああ、ロンリーのダメージコントロールはガチ』

『俺もハリネズミの時から思ってた』

『キツネんときも、ロンリーは古代墨と砂時計は1回ずつしかつかってない。絶対計算ずくだよ』

『ロンリーはかなりやる』

『88888』

『被ダメ8だけにw』


 なんだか観客モードの掲示板がにぎわっている。でもぶっちゃけ見ているヒマなんてない! 一刻も早く回復しないと次の直接攻撃でおだぶつだ!


 俺は、魔法ウインドを開いて、陰陽同時の能力をアップする〝つちのと〟系の呪文と、回復系の〝きのと〟の呪文を唱える。


 対象のHP回復効果を1.5倍にする〝己卯つちのとう〟。


 そして1秒間に1回ずつ、最大HPの1%の回復を、計120回繰り返す継続回復スキル〝乙丑きのとうし〟だ。


 一乃いちのさんも、〝ロンリー〟の回復に協力してくれる算段だ。


 一乃いちのさんは、魔法のリングに〝めっちゃいい薬草〟をセットする。そしてタブレットを指で操作した後、ペンデバイスで「トン!」と、〝ロンリー〟をタップした。

 すると、〝めっちゃいい薬草〟は瞬間移動して〝ロンリー〟の傷を回復させる。


 バリケーターが遠隔召喚できるのは〝石のかけら〟を消費するブロックだけじゃない。実はアイテムならなんでもセットして瞬間移動できる。

 バリケーターが操作するリングに薬草をセットすれば、遠くの相手を回復することだって可能だ。

 アイテム消費は激しいけど、バリケーターは仲間のサポートにおいては最強のクラスなんだ。


 俺は一乃さんに〝ロンリー〟の回復をしてもらっているスキに、次の攻撃の対策をする。


 〝ロンリー〟〝フーター〟〝マーチ〟〝よろず〟に、魔法の鏡が張られる。魔法系のダメージを1回だけ無効にする〝辛亥かのとい〟だ。


 ドリルドリュウは、顔の前にある黒い布に浮かんだ砂時計の砂をサラサラと落とし切ると、エコーのかかった野太い声でさけんだ。


丁卯ひのとう!!』


 ホーミング性能が高い、12匹の燃え盛るウサギが、3匹ずつ襲いかかる。

 魔法の鏡は、一匹のウサギをかきけして消滅する。残りの2匹は食らうしかない。それでもかなりのダメージ軽減だ。

 もともとノーダメージの3人は軽症だし、〝ロンリー〟もHPゲージを点滅させつつもしっかりと踏ん張っている。


 そして今度は、境界術師の〝マーチ〟に回復をお願いする算段だ。


「できた!」


 三月みつきが叫ぶと、〝マーチ〟の前に突然、障子しょうじが現れて左右に開く。すると、まるまると太って、はちきれんばかりの4つのおっぱいを持ったウシが、「のっそり」現れた。

 ウシの二進化干支モンスター、〝メグミルクルクル〟だ。

 

 俺は〝ロンリー〟を操作して、大急ぎで〝メグミルクルクル〟のおっぱいに吸い付いた。するとみるみるとHPが回復していく。これでHPは完全回復だ。

 おっぱいをすわれた〝メグミルクルクル〟は「もおおおおー」と、のんきにさけんで、開きっぱなしだった障子しょうじを再びくぐって去っていった。


 ふう。これでようやく一安心だ。余裕ができた俺は、掲示板のコメントに目をやった。


『でた! おっぱいちゅーちゅー!』

『すげー。あっという間に全回復だ!』

『これ強いけど、ちょっと恥ずかしいよな』

『かなり恥ずい』

『うんw』

『あかちゃんプレイw』

『おっぱいちゅちゅちゅ』

『おっぱいがいっぱい』

『ロンリーは巨乳好きと見た!!』

『うん、間違いない!!』

『メグミルクルクルへの食いつきがとんでもなかった!』

『巨乳好き確定!!』

『おっぱいw』

『おっぱいw』

『おっぱいだいちゅきー!!』

『俺は貧乳派!』

『しらんがなw』

『ロンリーちゃん、おいしかったでちゅかー?』


 掲示板は、俺を勝手におっぱい好きの巨乳好きとラベリングしてはやしたてている。完全にその通りだから余計に腹が立つ。


 そうさ! 俺は巨乳好きだ!! 大の巨乳好きだ!!!

 俺は一乃いちのさんのおっきな低反発なおっぱいが大好きなんだ!!

 あ、で、でも、俺が一乃いちのさんを好きなのは巨乳だからじゃない!

 好きになった人が偶然、たまたま巨乳だっただけだ!!!

 俺が一乃いちのさんを好きになったのは、いじめられていた俺に唯一救いの手を差し伸べてくれたのが一乃いちのさんだったからであって、決して一乃いちのさんの巨乳に目がくらんだわけではな……


 ドガーーーーーーーーーーーーーーーーーーン!!


 俺が、掲示板の勝手な(でも事実)の悪口に釘付けになっていると、トラの爪を装備したドリルドリュウのメガトンパンチをモロにくらった。〝ロンリー〟はめっちゃ吹っ飛ばされて、壁にしたたか背中を打ちつける。せっかく回復したHPは半分近く減っていた。


すすむ!?」

「スーちゃん、大丈夫ー??」


 心配して、三月みつき一乃いちのさんが声をかけてくれる。


「ご、ごめん。ちょっと油断した……」

「スーちゃん、今は集中なのだ!! 巨乳談義はあとでゆっくりやればいい!」


 観客のコメント機能をONにしている二帆ふたほさんが大真面目な声でさけんだ。


「ちょ、やめてください!!」


「え? なにー? スーちゃん? 巨乳談義ってなにー? 気になる気になるー」

「な、なななな、なんでもないです!! 忘れてください一乃いちのさん!!」

「そっかー、すすむ、巨乳がすきなんだー(棒読み)」

「う、うううううるさいなあ! 三月みつき!!」


 だ、だめだ、動揺が半端ない……俺は、素早く観客のコメントをOFFにした。

 情報収集がリアルタイムにできるから、普段は絶対コメントをONにしておくんだけど、今だけは、ドリルドリュウを倒す瞬間までは、コメントをOFFにすることにした。



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*ご報告:陰陽導師の魔法名変更。境界術士の干支モンスター一部仕様変更につきまして。(2021/12/23)


 HP1で踏ん張る鉄のマッチョコケシの魔法名を、〝癸酉みずのとり〟から、〝辛丑かのとうし〟変更いたしました。過去回も修正しております。


 界術師のウシの干支モンスターの効果をHP回復に設定したため「第20話 ゼロ距離の境界線」において、チュートリアルで登場した干支モンスターを、〝ウシ〟から〝トリ〟に変更いたしました。


 連載を追っていただいている方の中には、混乱された方もいらっしゃると存じます。誠に申し訳ありません。

 

(なお、物語の大筋には一切関係ありません)——————————————————————————

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