第43話 プレッシャー(ほぼ)ゼロのシャボン玉。ーGー

 〝フーター〟は、ドリルドリュウの豆粒みたいな瞳に、ワイヤーをを打ち込んでからの連続斬撃をつづけている。すると、


『ギ……ギ……ギーギーーーーーーーーー!』


 HPゲージが三分の一になったドリルドリュウが突然苦しみ始めた。身体をビタンビタンと地面に打ち付けて、自分でダメージを食らっている。そしてその振動で、地面は激しく揺れて、上から落石が降り注ぐ。

 その落石、つまり〝石のかけら〟を、めざとくチュウチュウレインたちが〝よろず〟のアイテムボックスへと格納していく。


「わーい。ありがとー。べんりべんりー」


 一乃いちのさんが緊張感なく喜ぶなか、ドリルドリュウは発狂モードへの準備をはじめていく。


『ギ……ギ……ギーギーーーーーーーーー!』


「今度こそモグラをぬっころす!!」


 二帆ふたほさんのあやつる〝フーター〟は、すばやくドリルドリュウの背後にまわって、背中にワイヤーを突き刺した。


『グオおおおおおおおおおおぉぉぉおおお!!』


 茶色から、むらさき色へと変色したドリルドリュウが、奇声をあげながら地中から飛び出す。そして、ドリルドリュウとワイヤーで繋がっていた〝フーター〟は、ドリルドリュウのジャンプの最高到達点直前で、ワイヤーを解除した。


 慣性の法則によって上空へと放り投げられたフーターは、すばやくドリルドリュウの新しい弱点、首の付け根にワイヤーをぶっ刺して、連続攻撃をあびせる。

 そしてそのさらに上空には、一乃いちのさんがあやつる〝よろず〟が、ブロックを召喚していた。


『すごい!』

『お遊びなしかよw』

『空気が読めねー』

『最短ルートで攻略、ドリルドリュウはそれが一番いい』

『あとはだれが剣を受けるかだよな……』

『ほんとだ、よろずがブロック積んでない』


 観客モードが攻略法を議論している中、俺もすばやく行動する。


 〝己丑つちのとうし


 陰陽導師の守備力を高める魔法だ。

 今の時刻は、〝庚辰かのえたつ年〟〝壬午みずのえうま月〟〝戊子つちのえね日〟〝己未つちのとひつじ刻〟。

 あいにく、〝暦の運〟はない。でもそれがいい! ちょうどいい!!



 ドリルドリュウは、顔の前の布切れに浮かび上がっている砂時計の砂を完全に落とし切ると、エコーのかかった野太い声でさけんだ。


 『庚辰かのえたつ!!』

 シャッキーーン!


 地面から両刃の剣がせりだして、〝ロンリー〟を串刺しにする。

 〝ロンリー〟のHPゲージがたちまち点滅をはじめた。HPは一桁だ。


『おー、剣はロンリーが受けるのか』

『なるほど、よろずはその間にシェルターをゆっくり構築するのね』


 その通り!

 俺と一乃いちのさんは作業を分担した。

 次の津波攻撃は、バリケーダーがブロックでつくる密閉状態のシェルターでやりすごす。


 そして俺は、今回の戦いで一番重要な仕事をする。

 俺のあやつる〝ロンリー〟は、〝フーター〟のあとを追ってドリルドリュウの背後に回ると、ウインドウを開いてアイテムを使う。〝煙松しょうえん古代墨こだいずみ〟だ。

 書き換えるのは、〝庚辰かのえたつの年〟。こいつを〝壬午みずのえうま〟に書き換える。


 〝壬午みずのえうま!〟


 俺は、威力4倍のぬるチート魔法を唱えた。

 〝ロンリー〟の目の前に、ちょっとおっきなシャボン玉が浮かぶ。


『あ、酸性シャボン玉使うんだ』

『まー、短期決戦みたいだしな』

『でも4倍だぞ?』

『4倍でも強いだろw』

『エリアルハンター、ふつーに攻撃力あるもんな』

『でかいシャボンは操作がムズイ……』

『わかりみ』

『シャボンは何かに当たれば即破裂だから』

『それな。前回の戦い見てたけど、ロンリーけっこう上手いよ』

『同意、クソデカシャボンを首の付け根まで割らずに持ってくの、かなりのプレッシャーだし』

『わかりみが深い』

『1時間に1回だし、失敗できないんだよなー』

『そ、結構メンタルにくる』

『でも4倍なら、かなり雑にあつかえるw』


 観客モードの陰陽導師使いが、地味に前回の戦いのことをほめてくれている。うれしい。(最後にちょいディス入ったけど)

 俺は、かなり雑に4倍の大きさのしゃぼん玉を操作して、ドリルドリュウの首の付け根まで運んでいくと二帆ふたほさんに声をかけた。


二帆ふたほさん! 割っちゃってください!!」

「りょーかいのすけ!」


 二帆ふたほさんがおとぼけな返事をするやいなや、〝フーター〟は、ワイヤーガンを射出して、シャボン玉のど真ん中を貫いた。シャボン玉は「パチン!」とはじけとぶ。そしてすかさずワイヤーと縮めての連続斬撃だ。

 

 背中にシャボン玉の液を浴びた〝ドリルドリュウ〟の首の付け根は、赤くただれて煙が吹き出している。

 俺は、二帆さんがドリルドリュウの首のつけねから離脱するのを見計らって、〝砂中金さちゅうきんの砂時計〟を使って、〝壬午みずのえうまをリピートする。

 シャボン玉は〝ドリルドリュウ〟の首のつけねに現れると「パチン!」とはじけとぶ。


『え? 砂時計を使うんだ』

『これは意外』

『てっきり〝乙卯きのとう〟のHP回復のために残しておくんだと思っていた』

『完全に短期決戦なんだな……』


 観客モードの考察が進む中、


壬寅みずのえとら!!』


 ドリルドリュウのエコーのかかった野太い声が響きわたって、背中から、大量の水があふれ出す。


「スーちゃんー。急いでー」


 一乃いちのさんが、のんびりとせかしてくる。

 おれは〝ロンリー〟をダッシュさせて、一乃さんの〝よろず〟がブロックで作った、かまくら型のシェルターを目指す。

 中には、〝よろず〟と、セレブレットに乗った〝マーチ〟、そしてちっちゃなネズミのチュウチュウレインたちが待機している。

 〝ロンリー〟がかまくらのなかに入ると、一乃いちのさんは素早くタブレットを操作して、シェルターを完全に密封した。


 水位は、どんどんと増していって、やがてシェルターはじゃぶじゃぶと水没する。


 俺がほっと一息ついている中、二帆ふたほさんがあやつる〝フーター〟は、ドリルドリュウの首の付け根に延々と連続斬撃を繰り返していた。

 ワイヤーガンの設置場所には、一乃さんが毎回ブロックを配置している。


 今は、シェルターの中に入っているから、一乃いちのさんのタブレットが写している画面はブロックに囲まれている状態だ。

 にもかかわらず、一乃いちのさんは確実に、〝フーター〟の頭上にブロックを配置しつづけていた。二帆ふたほさんが観ているVRゴーグルの視点を、モニターに表示しているからできる芸当だ。

 離れたユーザーとも同時にプレイできるM・M・Oメリーメントオンラインだけど、やっぱり同じ部屋で声がけをしたり、VRユーザーの視点を共有できるのは本当に強い。


 俺が、〝フーター〟と〝よろず〟の息のあったプレイの秘訣に考察をめぐらせいている間に、守備力が下がったドリルドリュウのHPゲージはあっという間に減少していって、HPゲージはピカピカと点滅をはじめていた。



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