第42話 被害ゼロへの作戦会議。ーGー

 観客モードの書き込みは、もうさっきからずっと高速で流れつづけている。


『はー。しかしすごいな』

『ホント。もうずっとお手玉状態だ』

『ん? それちょっと表現おかしくね?』

『確かに、空中に浮かんでるのはモグラじゃなくてフーターだもんな』


 〝フーター〟は、〝よろず〟が召喚するブロックに巧みにワイヤーを刺し続けながら、ずっとドリルドリュウの急所の目に、高速斬撃をあびせつづけていた。

 タイミング的には、〝フーター〟がワイヤーを射出する前には、すでにブロックを仕込んでおかないといけないのに、一乃いちのさんは操作を全くミスらない。


 二帆ふたほさんがあやつる〝フーター〟が、まるでロボットみたいに正確に、規則正しく動いているからだ。


 ワイヤーをブロックに刺す

   ↓

 ワイヤーを縮めて上昇

   ↓

 ワイヤーをブロックから外す

   ↓

 ワイヤーをドリルドリュウの目に突き刺す

   ↓

 連続前転をしながらのショートソードでの高速斬撃

   ↓

 攻撃が終わる瞬間の身体が上に向いたタイミングでワイヤーを射出

 (そこに、一乃いちのさんがブロックを設置する)


 この、信じられないセットプレイを、二帆ふたほさんはほとんど誤差なくこなしている。

 多分、0.1秒以下……つまりは、誤差6フレーム以内だ。トンデモない。


 そして、その場所に毎回ブロックを設置している一乃いちのさんもトンデモない。

 しかも、本職の防御壁づくりもしっかりとこなしている。

 しかも、しかも、〝ロンリー〟と〝マーチ〟と〝よろず〟3人分をカバーリングしているんだ。トンデモなくトンデモない。


 俺は、M・M・Oメリーメントオンラインのレジェンドプレイヤーの神技をただただ愕然がくぜんととながめていた。レベルが違いすぎる。


 とはいえ、ちょっと悔しい。

 いやかなり悔しい!!

 いやいや悔しすぎる!!!

 悔しいなんて、もんじゃない!!!!


『いやしかしミスんねーな……』

『まったく、どーなってるんだろうねこのふたり』

『ぼっチートと課金術師のでる幕ねー』

『いや課金術師はキッチリ仕事してる』

『だな、壁3人分だ。さすがに資源がきつい。ネズミは美味しい』

『てことは、仕事してないのは、ぼっチートだけか』

『4人パーティでぼっチートw』

『♪女の中に男がひとり♪』

『w』

『うけるw』

『うまい! 座布団一枚!!』

『笑点の新メンバーになってくれwwww』


 俺は観客モードのギャラリーの書き込みの悪口(でも事実)が、悔しくてしかたがなかった。いいとこ無しは悔しすぎる!!


 悔しくてたまらない俺は、一乃いちのさんに相談を始めた。


「そろそろ発狂モードです。〝庚辰かのえたつ〟の剣、どうさばきましょう?」

「んー、一番カタイのはー、ブロック積んでみんなで避難なんだけどー……」

「資源が不安……ですか?」

「そーなのー! でもー2倍〝庚辰かのえたつ〟を受けれる装甲ある人いないしー。しょうがないかなーって……」

「いや、陰陽導師ならいけるっス! 〝己丑つちのとうし〟あるんで!!」

「そっかー!! それなら、2倍〝乙巳きのとみ〟も陰陽導師で受けれるねー」

「ですです!!」

「助かるー! あとでご褒美の『いいこいいこ』だねー」


「え? なにそれ!?」


 作戦会議をぼけーと聞いていた三月みつきがめざとく『いいこいいこ』を喰いついた。


「頭なでなでー。スーちゃん、『いいこいいこ』大好きなんだよー」

「ちょ、やめてください!」

「ふーん、そうなんだあ(棒読み)」


 VRゴーグルをかぶった三月みつきが肩をぷるぷると震わせている。

 ん? 三月、笑っている? いや絶対、俺のこと笑ってる!!

 恥ずい。めちゃくちゃ恥ずい。三月みつきの表情がわかんない分、余計に恥ずい!


「そ、そうだ!! 三月みつきにもお願いがあるんだ!! 干支モンスターを〝ちょうむずかしい〟で召喚してもらいたいんだけど。召喚する直前に二帆ふたほさんに〝救出〟してもらって………………………………」


 俺は、作戦を説明した。


「それー、おもしろいー!!」


 作戦を完全に理解した一乃いちのさんが即座に反応する。


「おもしろくなってきたぜなのだ!!」


 作戦を完全に理解したかどうか怪しい二帆ふたほさんが理解に苦しむ反応する。そして、


「よくわかんないけど、まかせて!」


 作戦を全く把握していないであろう三月みつきが、とても素直に反応した。


 やってやる!

 観客モードで俺の悪口(でも事実)を言っていたやつら……いや、そんなことよりも!!

 三月みつきのパズルゲームの腕前を知りもしないくせに、ただの想像で好き勝手悪口を言っていた奴らを、「あっ!」と驚かせてやるんだ!!!

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