第41話 逃した魚は無限大数。ーGー

三月みつき! ヒツジを難易度〝むずかしい〟でおねがい!」


 〝フーター〟と、〝よろず〟の神業連携プレイを見ながら、俺は三月みつきに指示を出す。すると三月みつきは、


「イヤだよ! だってヒツジが可哀想だもん!」


 と反論した。ご飯をつめこんだリスみたいなまんまるなほっぺたを、ことさらにプックリとふくらましている。


「わかるー、可哀想だよね。シャンシャンメリー」


 一乃いちのさんが同調した。


「でも、ドリルドリュウの攻撃をさばききれませんよ?」

「だいじょーぶー。だってそれがバリケーターの本職ー」


 そう言いながら、一乃いちのさんは、ペンデバイスと、左手デバイスを高速に動かし始めた。

 すると、〝ロンリー〟と〝マーチ〟、そして〝よろず〟を取り囲む様に、ブロック塀が積み重なっていって、あっという間に砦が出来上がった。

 そして信じられないことに、ずっと〝フーター〟との連携プレイをノーミスでこなしている。人間技じゃない!!


「すごい! お城みたい」


 VRゴーグルをかぶった三月みつきがはしゃぐ。三月みつきは、俺の部屋からクッションをもってきて、あぐらをかいた膝の上に乗っけている。随分とリラックスしたポーズだった。


 俺は知ってしまった。ついさっきまで体育座りをして無邪気に無防備な格好をしていたの……あれ、全部だったんだ。

 俺の視線を意識して、ワザと制服のスカートから水玉のパンツを見せつけたり、ニーソックスの絶対領域としましまパンツをチラ見せしていたのか……。


十六夜いざよいさーん、ヒツジの代わりに、ネズミをおねがいー。難易度は〝むずかしい〟でー。いいかな?」

「わかりました!」


 三月みつきは、一乃いちのさんの指示を受けて、スライディングパズルに挑戦をする。赤い文字で〝〟と書かれたおっきなパネルを外に脱出させるスライディングパズル〝箱入り娘〟だ。


 三月みつきは、絶対にパンチラをしない安心安全な体勢でBluetoothのコントローラーをあやつって、〝〟のパネルを外へと解放した。


「できた!」


 三月みつきがさけぶと、〝マーチ〟の前に、ふすまが現れて、「スラリ」と左右にひらく。すると、


『♪チューチューチュー チュチュチューチュー

  チュチュ チューチュチュー

  チュチュ チューチュ チューチューチュ〜〜〜〜〜〜♪』


と、歌いながら大量の黒いネズミがワチャワチャとあふれだしてきた。


「え? なにこれ??」

「二進化干支モンスターのチュウチュウレインだよー。フィールド上のアイテムを拾ってきてくれるのー」

「なにそれ、かわいい!!」

「画面に出ている、ネズミのアイコンあるでしょー。そこをクリックしてー」

「はい」

「そしたらー、わたしが使っている〝よろず〟をえらんでほしーのー。モグラが地面にちらかしてある〝石のかけら〟が、バリケーターが召喚するブロックの材料だからー」

「わかりました!」


 三月みつきは、一乃いちのさんに親切に教わって、迷うことなく〝チュウチュウレイン〟に命令を下す。


 すごい。一乃いちのさんは、ゲームを教えるのがめちゃくちゃ上手い。そして戦略を立てるのも上手だし、ゲームの腕も神技クラスだ。M・M・Oメリーメントオンラインで、俺なんか勝てるところなんてひとつもない気がする。


 頭の中で、ダイアログが開いた。


 ピロリン。

—————————————————

荻奈雨おぎなう一乃いちの〟ルートの難易度が、

ベリーハードから、

ウルトラハードに変更されました。


注意:

 〝十六夜いざよい三月みつき〟ルートへの

 変更は受け付けません。

—————————————————


 俺は、M・M・Oメリーメントオンラインのレジェンドプレイヤーの〝よろず〟をあやつる一乃いちのさんが、今までよりも、もっともっと高嶺の花になった様な気がした。


 ちっちゃなネズミのチュウチュウレイン達は、ドリルドリュウがまきちらした〝石のかけら〟をひとつ逃さずかき集めて、〝よろず〟のアイテムボックスに収納しつづけている。


 俺は、こんなことわざを思い出していた。


『逃した魚は大きい』


 三月みつきは、三月生まれの魚座だった。

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