第39話 音量ゼロのコンタクト。ーGー

「そんじゃ、みんなフーちゃんについてくるのだ! ポチッとな」


 二帆ふたほさんは、相変わらずのマイペースで勝手にミッションをスタートした。

 すぐさま俺と三月みつき、それから一乃いちのさんは、参加申請を出す。


 フィールドには、セクシーな軽装レザーメイルに身を包んだエリアルハンターの〝フーター〟と、布を顔にたらした、全身真っ黒な地味な服装の陰陽導師の〝ロンリー〟。和洋折衷ドレスがあざとカワイイ境界術師の〝マーチ〟。そして、ゆったりとしたローブと学者みたいな四角い帽子をかぶって、魔法の杖をたずさえたバリケーターの〝よろず〟が現れた。


 しばらくすると、観客モードにぽつぽつとユーザーが集まり始める。


『フーター、今朝のリベンジか』

『今度はエリアルハンターなんだな』

『なんで? シノビスナイパーでほとんど攻略できてたのに』

『よろずがいる』

『なるほど、バリケーターとシナジー組むのか』

『よろずが居るのにコジローはいないんだな』

『かわりに、ぼっチートと課金術士か』

『課金術師w』

『ほんと、マーチは、ばんばんペットフードつかってるよな』

『最終進化は性能が別物だからまだしも、他の3つは難易度でそこまで性能変わらんのに……もったいない』

『カネでゴリ押しw』

『本当のど素人なんだろうな』


 観客モードのコメントは、〝マーチ〟が進化した干支モンスターを出しまくっていることで廃課金ユーザーだって見当違いなラベリングをしている。

 ど素人なのはその通りなんだけど、〝マーチ〟は完全無課金だ。あやつる三月みつきが、変態プレイヤーなんだ。


「できた!」


 三月みつきがさけぶと、画面にいきなりふすまが現れて、左右に開く。すると、


『ヒヒーン!』


 中からたてがみが金色にかがやく美しい馬が「スラリ」とあらわれた。2進化の干支えとモンスターの〝セレブレッド〟だ。


「すごいー! 十六夜いざよいさん、パズルめちゃくちゃ上手ー」


 信じられない速さでパズルを完成させた三月みつきに、一乃いちのさんがおどろいた。


「パズル以外はぜんぜんなんです……セレブレッドがいないと、アタシ、二帆ふたほさんの移動スピードについていけないから……」 


『はい出た! マーチの課金二進化!!』

『課金乙w』

『課金乙w』

『課金乙w』

『課金乙w』

『課金乙w』


 三月みつきの常軌を逸した早技に、課金と勘違いしたユーザーがはやしたてる。


「ねぇすすむ、さっきから気になってるんだけど『課金乙w』ってなに?」


 ネットゲームをほとんどやらない三月みつきが、VRゴーグルをかぶったまま、不思議そうに首をかしげる。


「気にしなくていいよ……」


 俺が吐き捨てる様につふやくと、


「えー、そう言われると余計気になるよ」


 って食い下がって来た。困ったな、なんて説明しよう……って思ってたら、二帆ふたほさんが会話に割り込んできた。


「ミーちゃんのパズルプレイがもんのすごいから、みんな、〝マーチ〟におひねりをあげたいって言ってるのだ」

「え、そうなんですか?」

「そーなのだー!!」


 二帆ふたほさんが自信満々で胸を張る。


 うーん……二帆ふたほさん、〝マーチ〟に対するギャラリーの悪口に気を遣ってくれているのかな……それとも、二帆ふたほさん、もしかして本気でそう思っている可能性がある?? わからん!!


 俺がなんともリアクションにこまっていると、一乃いちのさんも会話に参加した。


「そーそー、フーちゃんの言う通りー。あと、ギャラリーはあんまり気にしないほーがいーよー。操作に集中できなくなるからー。気が散るならコメントの表示を〝オフ〟にした方がいーかもー。わたしも表示してないしー」

「そうだよ、三月みつき! 絶対そっちの方がいい!!」


 俺は、絶対に『課金乙w』の意味を知っているはずの一乃いちのさんの意見に全力でのっかった。


「ん、わかった。荻奈雨おぎなう先生と、すすむが言うならそうするよ!

 ……ところで、どうやったらオフにできるの???」


 俺は三月みつきに、観客モードのコメントをオフにする方法を説明しながら、一乃いちのさんのほうを見た。

 一乃いちのさんは、俺の顔をみて、声に出さずにゆっくぅぅぅりと唇を動かした。


「な・い・しょ・だ・よ」


 そして最後にウインクをした。VRゴーグルをかぶっていない、俺と一乃さんだけの秘密のコンタクトだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る