第38話 欠員ゼロの4人パーティー。ーGー

「そんじゃ、フーちゃんはシャワーをあびてくるのだ!

 サッパリしたあと、今度こそモグラをぬっころす!!」


 プロテインドリンクでHPが回復した二帆ふたほさんは、軽い足取りでリビングの奥のバスルームへと消えていった。


「モグラってー、ドリルドリュウのことー?」

「え? あ、はい。M・M・Oメリーメントオンラインの新実装ボスです」


 一乃いちのさんの質問に、俺はおどろきながら返事をした。一乃いちのさん、M・M・Oメリーメントオンライン知ってるんだ。(意外だ……)


「パーティーはー?」

「俺が陰陽導師で、二帆ふたほさんはシノビスナイパー。でもって三月みつきが境界術師です」

「すごーい。全部新クラスだ。たのしそー。でも、ドリルドリュウにはちょっと相性悪いかもー。攻略動画にそのパーティーはいなかったしー」


 え? 攻略動画まで見ているの!? ひょっとして一乃いちのさん……ガチ勢??


「は、はい。タンク職か回避スキル持ちがいないと、正直きついかなーって。マタドールとかバリケーターがいないと、発狂モードをさばききれない」

「うんうん。津波からのHPドレインの回復ループはひどいよねぇ」


 俺は胸が高鳴った。ドキドキした。もちろん一乃いちのさんが好きだからだ。でも、それと同じくらい興奮していた。M・M・Oメリーメントオンラインの攻略について語れる人が、こんな近くにいたなんて!


 俺は、一乃いちのさんとM・M・Oメリーメントオンラインのめちゃくちゃマニアックな話に夢中になってると、母さんが口をはさんだ。


一乃いちのちゃんも、すすむたちと一緒に遊んだら? その、メリーメンがLINEするゲーム??」

「えー、でも晩御飯の用意をお母さんだけにしてもらうのは悪いですよ……」

「何言ってるの、今夜はバーベキューよ。もう下ごしらえはおわっているんだから」


 母さんの言葉に、ママが乗っかる。


「そうそう! 火の番をするのは男の仕事! あとはパパと父さんにまかせなさい!」


「そういうこと!」


 パパはムキムキと胸を動かしながら丸太みたいな腕にチカラコブを作って頼もしく言い放った。そして父さんはそのたくましい腕にぶらさがって、


「ここは私たちに任せて一乃いちのちゃんは先に行くんだ!!」


 って、頼もしく? 言い放った。


「……じゃあ。お言葉にあまえちゃおっかな……スーちゃん、十六夜いざよいさん。わたしもM・M・Oメリーメントオンラインに参加させてもらって、いい?」


 一乃いちのさんは、犬の様に黒目がちな瞳を輝かせながら、ほっぺたを人差し指に当てて首をかしげる。


「もちろんです!」

「も、も、もちろんです!!」


 三月みつきは喜んだ声で、俺はてんぱった裏返った声でオッケーした。


「えへへ、すすむうれしいんじゃない? 荻奈雨おぎなう先生にいいとこ見せようとしてはりきっちゃってるでしょ!」

「う、うるさいな三月みつき!!」


 ものの見事に図星を指摘された俺は、顔が真っ赤になる。三月みつき、たしかに応援してくれるって言っていたけど、こんな露骨に言わなくたって……。


「おおー、イーちゃんも、参加するのか!!

 今日は満塁ホームランなのだ!!」


 バスタオルで髪をわしゃわしゃと拭きながら、見慣れただるんだるんのパーカー姿(でも色違い)の二帆ふたほさんがバスルームから戻って来た。

 「はいたら負け」がポリシーの、ノーブラノーパンスタイルだ。


「遊ぶのは、フーちゃんの部屋だよね。わたしは自分の機材をとってくるから、みんなは先に3階にいっててー」


 そう言って、一乃いちのさんは、軽い足取りで1階へと降りていった。


「よーし、イーちゃんがいれば百人力なのだ!! 今度こそモグラをぬっころす!!」


 俺たちは、はいてない二帆ふたほさんを先頭に、三月みつき、俺の安心安全なジェットストリームアタックで階段をどやどや上がると、すぐさまM・M・Oメリーメントオンラインを再開させた。


「……あれ? 今度はエリアルハンターですか?」


 二帆ふたほさんのあやつる〝フーター〟は、エリアルハンターにクラスをチェンジしていた。画面に映っている〝フーター〟は、さっきまでワークアウトに勤しんでいた二帆ふたほさんそっくりの、身体のラインがハッキリとわかる軽装に身を包んで、ショートソードとワイヤー銃をたずさえていた。


「そうなのだ! フーちゃん、イーちゃんと遊ぶ時は、エリアルハンターって決めているのだ!」

「え、てことは……」


 ガチャリ。


 俺がちょっと考え込んでいると、背中でドアが開く音が聞こえた。一乃いちのさんだ。


「おまたせー。それじゃ、はじめよっかー」

「……やっぱりだ。一乃いちのさんは、それを使ってM・M・Oメリーメントオンラインを遊ぶんですね」

「そー、わたしはVRゴーグルをかぶると画面酔いしちゃうからー。これなら普段から使いなれているしー」


 一乃いちのさんが持っていたのは、最新鋭のハイスペックタブレットとペンデバイス、そしてコマンドショートカットをサポートする左手デバイスだった。


 この環境でプレイするクラスなんてひとつしかない。


「ひょっとして、一乃いちのさんのプレイヤーネームって、〝よろず〟ですか!? バリケーダー使いの!!」

「そうだよー。一と乃をくっつけたら、〝よろず〟って漢字に近いでしょ? それをひらがなにしているのー。でも、よく知ってるねー。わたしのプレイヤーネーム」


 そりゃ知っている。バリケーターの〝よろず〟は、マタドールの〝コジロー〟、そしてエリアルハンターの〝フーター〟とパーティーを組んで、数々の高難易度ミッションを、信じられない神業プレイでクリアしまくっている、レジェンドプレイヤーのひとりなんだもの。

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