第34話 手ぶらのゼロ円プレゼント。

「確かにちょっと広くなったけど、あんま変わんないね」


 三月みつきは、俺の部屋に入ると、そのまままっすぐベットに行ってボフンと座った。その上に置いてあるクッションを抱いて俺の部屋を見回している。


「だろ。数日で劇的にかわるワケないって。しいていえば、PCが二帆ふたほさんの部屋に移動したぐらい」


 俺の部屋に来た時は、ベッドが三月みつきの指定席だ。でもってベッドに置いてあるクッションを膝の上に置いてあぐらをかく。いつもどおりの光景だ。


「雑誌、まだとってるんだ。引越したとき、雑誌は捨てちゃったのかと思ったよ」


 俺の部屋は至って普通の部屋だ。ふつーにゲームと漫画とカードゲームがちょっとあって……しいていえば物持ちがいいから、小学生の時に買っていた、やたらと分厚い、ホビー情報満載の雑誌を未だに持っていて、それを本棚にすしづめにしているくらいだ。

(その裏には、ここには書いてはいけない雑誌を忍ばしているのは絶対に秘密だ!)


「ああ。いきなりの引越だったから、荷物整理をするヒマとかなかったし、そのままもとに戻したって感じ」

「ふーん……雑誌の裏のも?」

「え!?」


 バレてる! 俺の、ここには書いてはいけない雑誌の隠し場所が三月みつきにガッツリばれている!!


「やっぱり。すすむはすぐ顔にでるから……あと、声にも。

 すすむはテンパるとすぐ声が上ずっちゃう」


 三月みつきは、リスみたいなクリクリした瞳をあやしく光らせながら話をつづけた。


「昨日、ゲームしている時に見てたでしょ。アタシのパンツ」

「ええ!?」

「やっぱり。すすむ、ホントーにわかりやすい」


 そう言うと、三月みつきのリスみたいなクリクリした瞳はさらに輝きをました。

 三月みつきは抱えたクッションをベッドの脇に置くと、体育座りをして首をかしげる。


「今日のパンツも見てみたい?」

「そ、そんなわけ、ないだろう!」

「えーほんとにぃ?」


 その体勢だと、すでにもう、キュロットスカートの隙間から水色のしましまがチラチラと見えてしまっているのを知ってか知らないでか、三月みつきはイタズラっぽく微笑んだ。


 な、なんだ? なんだ?? なんだ???

 なんだか、ヘンなフラグが立ってない??


「そ、そんなことより! 早くプレゼントくれよ!!

 買ってくれたんだろ!! プレゼント!!」

「あ、うん。持ってきてるよ。ちゃんと持ってきてる。

 せっかくだから、ちょっとそっち向いててよ。準備するから!」


 三月みつきはドアの方をゆびさした。

 俺は、言われるがまま三月みつきに背をむける。


「い、今、準備するから、絶対こっち見ないでよ!!」

「わかったよ……」


 本当になんなんだ? 俺の部屋に来てからというもの、明らかに怪しい。

 でもまあ、プレゼントはなんとなく予想ができる。

 だって、三月みつきは手ぶらで部屋に入ってきたモノ。

 つまりプレゼントは、ポケットに入るサイズってことだ。

 

 本命はやっぱ『あつ森』のダウンロードコンテンツかな?

 あとは……うーん、ひょっとしてカードゲームのキラSSRか!

 嬉しいけど! そうなってくると、来年の、三月みつきの誕生日のお返しがヘビーになってくるな。


 俺は、かなりゆっくりプレゼントの予想をしていると、


「い、いいよ」


って、ようやく三月みつきが声をかけてきた。


 俺が振り向くと、三月みつきは手ぶらだった。

 そればかりか、下半身は、キュロットスカートを脱いでいて、むっちりとしたニーソックスと、水色のしましまパンツが丸見えのもろだしだった。そしてそして上半身にいたってはなんにもつけていなかった。


 そう。三月みつきは、手ブラだった。


 顔を真っ赤にして、両腕で胸を隠していた。

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