第32話 ゼロ被害じゃないと意味がない。

 二帆ふたほさんがあやつる〝フーター〟が、ドリルドリュウを倒したのは、セレブレット、そして俺のあやつる〝ロンリー〟と、三月みつきがあやつる〝マーチ〟が真っ二つになった直後だった。


 Finish!


 めっちゃ発音のいい、イケメンボイスが響きわたって、画面内にカッコイイフォントが踊っている。


『ぐおおおおおおおおぉぉぉぉぉ!!』


 ドリルドリュウは、発狂モードのむらさき色から、元の茶色に戻って、まるで土でできたゴーレムみたいにガラガラと崩れ去っていった。


『ナイスバトル!』

『でもおしかったな!』

『だな』

『残念、オーバーキルが見たかった』

『それはしゃーない。オーバーキル判定はパーティ全員生存が絶対の条件だし』

『最後のは運が悪すぎた_(┐「ε:)_ 』

『まったく』

『みんなよく頑張った』

『ええもん見れた』

『エライ!』

『888888888』

『おつかれさまでした』


 ギャラリーは、俺たちの健闘をたたえて、ひとり、またひとりと立ち去っていく。


「むっきゃーーーーーーーーーーー!!」


 VRゴーグルをはぎとった二帆ふたほさんが、めちゃくちゃ悔しがっている。

ドリルドリュウの発狂モードみたいだ。


「フーちゃんは、おねーさん失格なのだ!

 大切な弟と、その彼女を護れなかったのだ!!!」


「いやいや、全然そんなことないッスよ。俺の責任です。

 あと、三月みつきは彼女じゃなくて幼馴染です」


 俺は、二帆ふたほさんの自責の念を務めて冷静に否定した。

 あと、俺と三月みつきの関係を務めて冷静に否定した。


 確かに二帆ふたほさんの反応がもうちょびっとだけ早ければ〝庚辰かのえたつ〟は避けれたかもしれなかったけれども、戦犯はどう考えたって俺だ。

 〝庚辰かのえたつ〟が8倍ダメージになることが気づかなかったこの俺だ。


 それから三月みつきの彼氏だなんておそれおおい。

 だって、三月みつきは、ただの幼馴染なんだもの。俺みたいな保健室登校のぼっち野郎が学園一の美少女と付き合おうモノなら、秘密結社みたいな三月みつきのファンクラブにみぞおちをボコボコに地獄突きされてしまう。あと、首の付け根にだってエンズイ斬りを食らわされてしまう。


 俺は、三月みつきを見た。


 三月みつきはVRゴーグルをかぶったまま、ゲーミングチェアの上で体育座りをしてふさぎこんでいた。気分がよくなさそうだ。

 やっぱり、〝フーター〟の変態的な動きに、絶えられなかったんだな……VR酔いをしてしまったんだ。


「大丈夫? 三月みつき??」


 俺は、心配になって声をかけた。すると……。


「え!? 

 ……あ、うん、大丈夫。ちょっと気持ちが悪くなっただけ……」


 って、ちからなく返事をした。


「無理させてごめん……ちょっと、横になる?」

「うん。じゃあ……せ、せっかくだからヒザまくらして!」

「え……」


 なんで? 俺はぶっちゃけ二帆ふたほさんとM・M・Oメリーメントオンラインの続きがしたいんだけど……。

(〝砂中金さちゅうきんの砂時計〟と、〝松煙しょうえん古代墨こだいぼく〟の素材を集めないといけない)


 でも、


「スーちゃん、レディーはいたわらないとダメ!!

 素材集めは、おねーさんにまかせるのだ!」


って、二帆ふたほさんに言われて、しぶしぶ三月みつきをひざまくらした。


「えへへ……」


 俺のふとももに頭をのっけた三月みつきは、ずいぶんとご機嫌だ。でも、ちょっと顔が赤い。やっぱり気持ちが悪いんだと思う。


 俺は、二帆ふたほさんの激ムズプレイを見ながら、三月みつきと他愛もない話をはじめた。


「今日、いつの間に家にきてたんだ?」

「6時ちょっと過ぎ」

「全く気が付かなかったよ」

「えへへ、昨日のうちに、荻奈雨おぎなう先生にLINEしといたの。朝ごはんをごちそうしたいって。インターホン押すと失礼になるから、家に着いた時も先生にLINEして玄関を開けてもらったの」

「どーりで、全く気が付かなかった」


 それから俺と三月みつきはフレンチトーストの焼き具合の話をちょこっとして、三月みつきの素人丸出しなM・M・Oメリーメントオンラインの質問に答えたりしていたら、三月みつきはいつのまにか眠ってしまっていた。


 そりゃそうだ。聞けばフレンチトーストの液は家で仕込んだみたいだし。5時前には起きた計算になる。

 俺は、お昼ごはんになるまで、三月みつきの頭をふとももの上にのっけたまま、二帆ふたほさんの、M・M・Oメリーメントオンラインの超絶、神業、変態プレイを観戦することにした。

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