第29話 縛りゼロの暴走モード。ーGー

 〝ドリルドリュウ〟の攻撃手段は以下の3パターン。


 手をめちゃめちゃに振り回しての石つぶて攻撃。

 貫通能力のあるドリル爪を飛ばす飛び道具。

 地面に潜ってから、いきなり飛び出してくる奇襲攻撃。


 この3パターンをセットプレイとして繰り返す。割と単純だ。


 この単純な攻撃を、〝フーター〟は見事にかわし、〝ロンリー〟は半分くらいかわし、〝マーチ〟の前に壁のように立ちはだかっているヒツジのモンスターの〝シャンシャンメリー〟は、もれなくくらっていた。


 〝シャンシャンメリー〟は、防御特化のモンスターだ。境界術師を護衛しつつ、味方一人のダメージを肩代わりする。

 ヒツジのモンスターは、進化するほど身体が大きくなっていき、それに比例してHPも増える。


 〝シャンシャンメリー〟はアクションゲームが苦手な俺と、アクションゲームはほとんど遊ばない三月みつきの身代わりとなって、健気にダメージをくらいまくっていた。


『めぇえええええ』


 〝シャンシャンメリー〟は、ダメージをくらうたび、とっても悲しい弱々しい悲鳴をあげる。


「なんだかかわいそう……」

「うん……なんだか申し訳ない」


 三月みつきのとても素直な感想に、俺も乗っかった。

 とはいえ、〝シャンシャンメリー〟がいなければ、俺も三月みつきもとっくにHPゲージは点滅をしているはずだ。


「何を弱気になっているのだ! ヒツジのしかばねを超えてゆけー!」


 二帆ふたほさんは、なんだかぶっそうなことを言いながら、〝ドリルドリュウ〟の豆粒みたいな瞳に、銃弾を打ち込むぶっそうな攻撃をつづけている。すると、


『ギ……ギ……ギーギーーーーーーーーー!』


 HPゲージが三分の一になった〝ドリルドリュウ〟が突然苦しみ始めた。身体をビタンビタンと地面に打ち付けて、自分でダメージを食らっている。そしてその振動で、地面は激しく揺れて、上から落石が降り注ぐ。


『ギ……ギ……ギーギーーーーーーーーー!』


「え? え? どうなっているの?? このモグラ、このまま死んじゃうの?」


 〝ドリルドリュウ〟の仕様をしらない三月みつきが不安そうな声をあげる。

 苦しんでいる〝ドリルドリュウ〟の方に感情移入するのが三月みつきらしい。


「いや、ここからが本番だ!」

「そうなのだ! フーターたちの戦いはこれからだ!!

 モグラの暴走モードにご期待ください!!」


 苦しみつづけた〝ドリルドリュウ〟は、死んだようにまったく動かなくなった。〝フーター〟は、構わず「目」にダブルインパクトを決めまくっている。

(ヒドイ……二帆ふたほさん……鬼だ)


 動かなくなった〝ドリルドリュウ〟は、みるみるうちに茶色から、むらさき色へと変色していく。そして、


『グオおおおおおおおおおおぉぉぉおおお!!』


 突然、奇声をあげたかと思うと、地面からとびだした。


「え? モグラの下半身て、こんなだったっけ!?」


 三月みつきが驚くのも無理はない。地面から飛び出した〝ドリルドリュウ〟は、猫背でヒョロヒョロガリガリの人型形態だった。そして、頭のてっぺんには半透明の輪っかが浮かんでいる。

 残酷な天使のようなその紫色の〝ドリルドリュウ〟は、モグラとは似ても似つかない生命体になっていた。


「なるほど、暴走モードはこうくるのか!」


 二帆ふたほさんは、ご機嫌ではしゃいでいる。初めて見るみたいだ。やっぱり観客モードで予習していなかったのか……。


「はい。攻撃方法も一新されます。状態異常も全リセットです」


 俺は、二帆ふたほさんがこれでもかと食らわしていた毒ダメージが、水の泡になった事実を伝えた。


「なにぃ! ほとばしる毒ダメージをあついパトスで思い出を裏切られたのだ!」


 二帆ふたほさんは、ここには書いてはよろしくない文章のスレスレのラインの感想を述べると、〝ポイズンバレット〟を〝ドリルドリュウ〟の「目」にめがけて発射する。


 すると〝ドリルドリュウ〟は、天使みたいな輪っかから、真っ黒な布をスルスルと降ろしてを完全に顔をおおった。


 カキン!


 〝ドリルドリュウ〟は、正確無比な〝フーター〟の目を狙った狙撃を「布」で弾き返す。


「ありゃりゃ??」


 予想外の出来事に、VRゴーグルをかぶった二帆ふたほさんは首をかしげる。


「暴走モードの〝ドリルドリュウ〟は、弱点が首の付け根にかわります。顔は、完全無敵です。そして攻撃方法も……」


『グオおおおおおおおおおおぉぉぉおおお!!』


 〝ドリルドリュウ〟がさけぶと、顔の前の布切れに砂時計の絵が浮かんだ。

 砂時計に入った砂は、さらさらと下に落ちていって、その砂が全部落ち切ると、突然、


庚辰かのえたつ!!』


 と、エコーのかかった野太い声でさけんだ。

 すると地面が「ピキリ!」と裂けて、両刃の剣が地面から「シャッキーーン!」とせり出して、〝シャンシャンメリー〟の土手っ腹を串刺しにした。


『めえええええええええ!』


 〝シャンシャンメリー〟は、苦しそうなうめき声をあげる。


 そう。陰陽導師の攻撃魔法〝庚辰かのえたつ〟そのものだ。


 新しく実装されたボス3体は、M・M・Oメリーメントオンラインに新しく実装された「ジャポネクスシリーズ」の3種類のクラスをモチーフにされていた。


 シノビスナイパーがモチーフで、素早い動きと、さまざまな毒素を含んだハリを発射する〝オンソワネズミ〟。

 境界術師がモチーフで、12種類の干支えとモンスターを呼び出す〝リトルヨウコ〟。

 そして、今、目の前にいる、陰陽術師がモチーフの、「同じ魔法は1日1回」の制限をガン無視して空気を読まずに魔法を唱え続ける〝ドリルドリュウ〟の3体だった。

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