第28話 ゼロイチなネーミングセンス。ーGー

 〝ドリルドリュウ〟のステージは、深い深い地中の中だ。遥か上空に真っ青な空と太陽がのぞいていて、光が差し込んでいる。

 いかにもモグラがモチーフのモンスターの住処すみかってかんじだ。


「キャ! なに??」


 三月みつきがぴくんと肩をふるわせる。

 ボスステージに突然地震が起こったからだ。揺れはだんだんとおっきくなって、「ゴゴゴゴ」と地響きもおっきくなっていく。そして、


『ギギギーギギギー!』


 きしむような叫び声をあげて、地中から〝ドリルドリュウ〟があらわれた。

 おっきなモグラの上半身。下半身は地面埋まったままだ。


 〝ドリルドリュウ〟が手をめちゃくちゃに振り回すと、大量の石つぶてが舞い上がる。

 そして、パーティーメンバーの〝ロンリー〟と〝マーチ〟をガン無視してひとり突っ走っていた〝フーター〟に降りかかっていった。


「あらわれたな! モグラ!! お前はこのフーターがぬっころす!!」


 二帆ふたほさん操る〝フーター〟は、石つぶてを華麗に避けると、背中にしょったスナイパーライフルを構えた。

 射程と照準性能が悪いけど、威力と装填速度はピカイチの、通好みなスナイパーライフルだ。(いつのまにつくったんだろう……)


『お! 今回は普通にスナイパーするんだな』

『違和感がパナイw』

『でもすごいな、しっかりモグラの弱点の「目」にダブルインパクトを決めて、毒ダメージを貯めまくっている』

『変態w』


 よし、俺も戦闘に加わろう。でもその前に……


三月みつき、今度は〝ひつじ〟をおねがい!」

「難易度は?」

「〝むずかしい〟で」

「まかせて!」


 三月みつきは、縦5マス、横5マスの、「1」から「24」の数字がランダムに配置された難易度〝むずかしい〟の〝16パズル〟を、ものすごい勢いで解き始めた。


 俺は三月みつきに指示を出し終えると、ウインドウ画面を開いて、画面の時刻表示が切り替わるタイミングで魔法を唱えた。


戊寅つちのえとら


 たちまち、俺のあやつる陰陽導師〝ロンリー〟の装備している武器が、ショートソードから爪に変化する。


 陰陽導師は、実は武器を装備できない。だから武器も魔法で召喚する必要がある。さっき使っていた剣は、〝戊辰つちのえたつ〟。

 陰陽導師の〝つちのえ〟の魔法は2時間(実時間で5分)だけ、武器を召喚できる魔法だ。全6種類の武器を、モンスターに合わせて召喚して戦うことができる。


 そして今の時間は、〝庚辰つちのえたつ年〟〝壬午みずのえうま月〟〝壬午みずのえうま月〟〝戊寅つちのえとら刻〟。


 俺は、唯一まともに使いこなすことができる、威力と制限時間が2倍に増加したとらの爪で、〝ドリルドリュウ〟を攻撃し始めた。


『お、ぼっチート導師は爪使いか!』

『なるほど、インファイターもソロ向きだもんな』

『孤独のロンリーw』

『そうです。わたしがぼっちなロンリーです』

『だっふんだw』


 ギャラリーモードの書き込みは、完全に俺の本性を見破っている。すごい。


『でも、陰陽導師って回避スキルないよな』

『ひょっとして、ロンリーも神業ゲーマーの変態プレイヤーなのか?』


 ちがいます。変態プレイヤーは俺ではありません!


「できた!」


 そうです。三月みつきが変態プレイヤーです。


 三月みつきは、ちょっと普通では考えられないスピードで「1」から「24」の数字を並べると、画面に突然障子しょうじが現れる。そして障子が左右に開くと、とんでもなくおっきな、ふわっふわの、もっこもこのヒツジが、障子しょうじのすきまから窮屈きゅうくつそうににじり出てきた。


『めぇーーーーーー』


 ひつじのモンスター〝シャメリ〟が二段階進化した〝シャンシャンメリー〟だ。


『うわ、また二進化境界術かよ!』

『廃課金w』

『はい課金w』

『課金乙w』

『課金乙w』

『課金乙w』

『素人丸出し』

『課金乙w』

『課金乙w』

『課金乙w』

『いや理論上はボス開始時からでも組める』

『なわけねーだろw』

『素人乙w』

『素人乙w』

『素人乙w』

『素人乙w』

うまに乗ってんだ。移動中に仕込んでたんじゃない?』

『あーそれなら、ギリ考えられる』


 コメント欄は滝のようにながれている。

 そして、観客モードの書き込みは、完全に三月みつきのプレイスキルを見誤っていた。

 まさか、ボス戦が始まって、しかも登場した後から難易度〝むずかしい〟の〝16パズル〟を解いたとは、ほとんどの人が気づいていないようだった。

 まあ、仕方がない。俺だって観客モードで見ていたら、すぐ隣で三月みつきの変態プレイを目の当たりにしていなかったら、課金アイテムのペットフードを使ったって思う。


『ところで、ヒツジって何するモンスター?』

『デコイモンスターだよ。ロンリーのダメージを肩代わりするんじゃね?』

『ほんとだ。ヒツジ、めちゃくちゃダメージうけてるな』

『いやでもロンリー、攻撃を避けるの下手すぎだろw』

『ほんとだ、俺でももっと上手いw』

『だな』

『下手杉』

『素人乙w』

『素人乙w』

『素人乙w』

『素人乙w』


 コメント欄は滝のようにながれている。

 そして、観客モードの書き込みは、完全に俺のプレイスキルを見破っていた。

 そう、俺はアクションゲームはてんで苦手なんだ。


 だから、要求されるアクションスキルが少ない、インファイターや陰陽導師を使っているんだ。


 でもこれだけはハッキリと言わせてもらう!

 〝ロンリー〟の名前の由来は、〝lonely〟ではない!!


 『論理演算』。日本語からつけたんだ。


 プログラミングのいしずえになっている『論理演算』からつけたんだ。

 ま、俺がインキャのぼっちだって自虐ネタも、ちょっとだけ入っているけど……。

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