第27話 課金ゼロのチートスキル。ーGー

 コンコン!

 コンコン!


 俺は、三月みつきといっしょに二帆ふたほさんの部屋をノックした。


「はいはい〜空いてマッスル」


 ドアの向こうから、おとぼけた声が聞こえてくる。


 ガチャリ


 俺がドアを開けると、二帆ふたほさんはもうVRゴーグルをかぶっていた。素早い。


「早く始めるのだ! 今日はモグラをぬっころす!」


 そう言って二帆ふたほさんは、〝ドリルドリュウ〟のミッションを選択しようとしていた。選んでいるクラスは、〝シノビスナイパー〟だ。


「あ、二帆ふたほさん、シノビスナイパーは、ドリルドリュウとの相性が悪すぎ……」

「ポチッとな!!」


 二帆ふたほさんは、俺の声をガン無視してミッションを始める。

 しかたがないので、俺と三月みつきも、あわてて参加申請をだしてミッションに加わった。

 しばらくすると、観客モードにぽつぽつとユーザーが集まり始めた。


『今日はついにドリルドリュウか』

『フーター、シノビスナイパーなんだな』

『ぼっチート導師のロンリーも一緒か』

『あと、境界術師の……マーチ? 知らないプレイヤーだな』

『でも、よりにもよって、シノビスナイパーと陰陽導師か……』

『こんなクラスで大丈夫か?』

『大丈夫だ、問題ない!』

『フーターとロンリーなら、絶対なにか企んでいるはずだしな』


 いや、問題だらけだ。そして全くのノープランだ。正直言って勝てる気がしない。一昨日までならこのパーティーは超鉄板パーティーだったんだけど、相性が悪すぎる。

 俺はそのことを素直に告げることにした。


二帆ふたほさん、ぶっちゃけ今回、勝ち目ないですよ……」

「なにー! あきらめたらそこで試合終了なのだ!!」

「そのとおりです、二帆ふたほさん! カッコイイ!!」


 うん、ダメだ。全然とりあってくれない……。

三月みつきに至っては、これから何をするのかも、理解しているか怪しい)


 でもまあ、やるしかない。

 俺は、ボスエリアまでの行手をはばむ雑魚モンスターを装備している剣を使って攻撃しながら、三月みつきに指示をだした。


三月みつき、とりあえず、〝うま〟を召喚して!」

「昨日とおんなじだね? 難易度は?」

「〝むずかしい〟で」

「え? 〝むずかしい〟を遊んでもいいの? やったー!!」


 振り向くと三月みつきは、ゲーミングチェアに体育座りをして、Bluetoothのコントローラーを器用に操っていた。

 キュロットスカートだから一応は安心だけど、ふとももに食い込んだニーソックスがおりなす絶対領域も破壊力は抜群だ。


  モニターに視線を移すと難易度〝むずかしい〟のスライディングパズルゲーム〝箱入り娘〟が表示されている。

 箱入り娘は、横4マス、縦5マスのフィールドから、横2マス、縦2マスのおっきなコマを、外に出せばいいゲームだ。

 その難易度は、パズルに配置された『長方形のコマ』の数で決まる。


 〝むずかしい〟は、『長方形のコマ』が4つもある。まともにやれば、10分くらいは余裕でかかる。

 でも、三月みつきは、そんな『長方形のコマ』だらけの窮窟きゅうくつ極まりないフィールドを、ちゅうちょなく、一切の迷いなく、パネルを超高速でスライドさせていく。

 そして、あっという間に、赤字で〝うま〟と描かれたおっきなコマを外へと脱出させた。


「できた!」


 三月みつきがさけぶと、画面にいきなりふすまが現れて、左右に開く。すると、


『ヒヒーン!』


 中からたてがみが金色にかがやく美しい馬が「スラリ」とあらわれた。


「すごーい! カッコイイ!! 難易度〝やさしい〟で出てくる〝ポニーレット〟も可愛くって好きだけど、こっちもいいな」


 そう言いながら、三月みつきがあやつる境界術師の〝マーチ〟は、和洋折衷のミニ丈の袴をヒラリとなびかせて、袴の中にある純白の布地をわずかにチラリと見せながら金色のたてがみの馬にあざとカワイクまたがる。


「〝ポニーレット〟が二段階進化した〝セレブレット〟だよ。とりあえずこれで移動はオートでやってくれるから。スタミナがあるから、長期戦でもへっちゃらさ」


 俺のあやつる〝ロンリー〟と、セレブレットにまたがった〝マーチ〟は、二帆さんがあやつる、雑魚的を高速に蹴散らして進んでいく〝フーター〟を追いかけていく。


『うわ、二進化境界術!』

『パズル解いたのかな?』

『あの時間で……!?』

『まさか! 課金プレイだろw』

『ペットフードの課金プレイ。運営に踊らされてる家畜ユーザーw』

『あわれw』

『でも、変態プレイヤーの〝フーター〟と、ぼっチートの〝ロンリー〟と一緒にプレイするには、課金しないとむりだよな……』


 ギャラリーは、ちょっと尋常じゃないスピードで〝セレブレット〟を呼び出した〝マーチ〟を、勝手に廃課金プレイヤーだと決めつけてはやし立てている。

 うん、ごめんなさい。三月みつきも変態プレイヤーなんです。運営さん、課金しないでごめんなさい……。

 三月みつきが本格的に、M・M・Oメリーメントオンラインをやり込むようになったら、せめて980円の〝ドロップブーストパスポート〟くらいは購入するよう説得してみます……。


 凡人の俺は、ウルトラチート級ゲームスキル持ちの、カリスマモデルと美少女幼馴染に囲まれて、なんだかとっても申し訳ない気分になりながら、ボスの〝ドリルドリュウ〟が待つエリアへと足を踏み入れた。

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