第25話 ゼロカロリーのわけが無い。

 朝食を済ませた後、俺と一乃いちのさんと三月みつき、そして二帆ふたほさんは、しばらく談笑をした。


「スーちゃんと、ミーちゃんのフレンチトーストは絶品なのだ、さすが、カロリーゼロ。いくらでも食べれちゃうのだ。そういうわけで、シェフ、もう2つお願いします!」


 二帆ふたほさんは、スタイルの良い胸をはってピースサインをする。


「マドモワゼル、本日は閉店です!」


 俺は、丁重ていちょうにお断りした。いくらなんでもこれ以上は食べ過ぎだ。もうすでに、女性の一日の平均摂取カロリーを超えてしまっている。


「むー、しょうがない。だったらM・M・Oメリーメントオンラインやろう! 今日は、モグラをぬっころすのだ! スーちゃんミーちゃん! われに続け!!」


 二帆ふたほさんはすばやく席をたって階段へと向かっていく。


「さきに、おかたずけだよー!」


 一乃いちのさんだ。3階にあがろうとする二帆ふたほさんを、のんびりとしたトーンで、でもピシャリとしかりつけた。この家のカーストの最上位のママのすぐ下は一乃いちのさんなんだ。(同率で母さんも並ぶ)


 俺たちは、みんなで食器を洗ってきれいにかたずけてから、一乃いちのさんを残してダイニングをあとにした。

 階段をのぼる順番は、二帆ふたほさん、三月みつき、そして俺の順。安心の安全のジェットストリームアタックだ。


 おそらくはいていない、二帆ふたほさんのだるんだるんのパーカーの中身を見なくて済むし、すぐ前にいる三月みつきはミニ丈だけどキュロットスカートだから、パンツがチラリする危険もない。(ふとももに、わがままに食い込んでいる黒のニーソックスだけでも、十分に破壊力はあるけれども)


 俺が、階段をトントンとリズムカルに登ろうとしたら、中腹で三月みつきが突然足を止めた。

 父さんとママとすれちがったからだ。

 昨日はお楽しみだったと思われる父さんとママ。そのすぐ後ろには、これまたお楽しみだったであろう母さんとパパがいる。階段は大渋滞だ。


「おはようございます!」


 三月みつきがお行儀よくあいさつをすると、


「おはよう三月みつきちゃん」

「ごめんねー。突然の引っ越しだったからちゃんとしたご挨拶もできなくて」


父さんと母さんが返事をする。


「ああ、この子がすすむくんが昨日、話していた」

すすむくんの幼馴染ね?」

「はじめまして。十六夜いざよい三月みつきです」


パパとママの言葉に、三月みつきはハキハキと返事をする。


「カワイイ! すすむくんが言っていたとおりだわ」

「……え!?」


 ママの言葉に、三月みつきが俺の方へと振り向く。三月みつきは、階段の一段上にいるから、ちょうど視線がバッチリと合う。


「え? お、俺、そんなこと言ってましたっけ?」

「ああ。一乃いちの二帆ふたほすすむくんも、口をそろえて『カワイイ』って」

「そ、そうですよね! 俺と一乃いちのさんと二帆ふたほさん。言いましたよね! どちらかというと、一乃いちのさんと二帆ふたほさんが言っていた言葉に、俺はたんにあいづちしただけって言うか!!」


 パパの言葉に、俺は念を押した。俺からはそんなに「カワイイ」って主張していなかったニュアンスに改ざんした。


 だ、だって……恥ずかしいじゃない。目の前にいる女の子を「カワイイ」って思ってるなんて知られちゃったら、恥ずかしいじゃない。せっかく普通のいい感じの幼馴染なのに、三月みつきのことを意識しているとバレちゃったら、気持ち悪がられて、避けられるかもしれないじゃ無い。


「んー? そう……だった……け?」

「はい!! はいはいはーーーい!」


 パパの疑問系に、俺は力強くうなずいた。それはもう、首がもげるくらい何度も何度もうなずいた。


「んー。よく覚えてないけど……ま、いいや。それじゃ三月みつきちゃん、ごゆっくり」


 パパの返事に、三月みつきは俺からくるりと背中を向けて、無言でコクリとうなずいた。そんな三月みつきに今度は母さんが語りかける。


「ねえ、三月みつきちゃん、お昼は一緒に食べるでしょ? 晩御飯も!

 一乃いちのちゃんと一緒に腕を振るうから、楽しみにしといて!」


 母さんの言葉に、ダイニングテーブルで健康に良さそうなハーブティーを飲んでいる一乃いちのさんがつづく。


「朝は、十六夜いざよいさんが、とっても美味しいフレンチトーストをつくってくれたからー。お昼と晩ごはんはおもてなしさせてー」


 その言葉に、ニコニコしていたパパとママの表情がとたんに険しくなった。


「ん? フレンチトースト??」

「まさか、二帆ふたほは、食べてないだろうね……?」


 そんなふたりに、三月みつきが満面の笑顔で答える。


二帆ふたほさんなら、しっかり6人前食べましたよ。すっごく喜んでくれました」


「な、なんですって!」

「な、なんてこった!」


 ママはたちどころに赤くなり、パパはたちどころに青ざめた。そして二帆ふたほさんは、ぬきあしさしあしとその場から逃げ去ろうとする。


二帆ふたほ! 今週はCM撮影があるから甘いものは控えなさいってあれほど言ったのに!!」

「ああ、ワークアウトメニューと食事メニュー、イチから見直さないとだ……かなりハードにしないと撮影に間に合わない!!」


 赤鬼になったママのカミナリが二帆ふたほさんに放たれて、青鬼になったパパは冷や汗をかきながら頭をかかえた。


「に、逃げるのだ!!!!!!!」


 二帆ふたほさんは大急ぎで、自分の部屋に走っていった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る