第24話 ゼロカロリーのフレンチトースト。

「ちょうどよかった。荻奈雨おぎなう先生とフレンチトーストを作ったの。一緒に食べよ」


 そう言って、三月みつきはお皿を置いた。

 バケット……フランスパンで作ったフレンチトーストだ。


十六夜いざよいさん、すっごく手際がよかったのー。わたしは見てただけだったよー」


 一乃いちのさんはニコニコしながら、健康に良さそうなハーブティをれている。


「あ、ナイフとフォーク出しますね」


 俺は、キッチン棚からてばやくナイフとフォークを3セット取り出すと、ダイニングテーブルにセットした。


「スーちゃんは、いつものようにコーヒーの方がいい?」


 一乃いちのさんが、ニコニコ顔のまま首をかしげる。


「俺もハーブティーにします。今からコーヒーの準備をしていたら、せっかくのフレンチトーストが冷めちゃうし」


 俺は知ってるんだ。三月みつきのバケットフレンチトーストは絶品なんだ。


「いただきます」

「いただきます」

「いただきます」


 俺は、バケットフレンチトーストにナイフを入れる。ナイフは抵抗感なく入っていって、しっとりと一口大に切れていく。俺はそれをフォークにさして、口の中に放り込んだ。たちどころに口の中にバターと牛乳の滋味と、メープルシロップと砂糖のほのかな甘みが、渾然こんぜん一体となって広がっていく。


「おいしー」


 一乃いちのさんが、ほっぺたをおさえて喜んだ。ニコニコ笑顔がさらにニコリニコリとする。

 三月みつきもご機嫌でぱくぱくもりもりと食べている。

(昨日ダイエットがどうとか言ってなかったっけ?)


「ですよね! 去年の文化祭のために、すすむとたくさん練習したんですよ!」


 そう。これは去年メイド喫茶で、俺と三月みつきがメニューに出そうとしていたフレンチトーストだ。何度も何度もふたりで練習したんだ。


「レンジを使うと忙しい朝でもかんたんー。これは良いこと知ったかもー」


 一乃いちのさんは、ハーブティをこくりと飲んでひとりごちた。


「レンジで、フレンチトースト液をしみこませると、バケットもしんなりするし、一石二鳥なんです。普通のトーストだと、しんなりしすぎちゃって……」


 俺は、自分では作ってもいないクセにうっかりとウンチクを言ってしまった……ちょっとはずかしい。


「おっはよー! なんだか良いニオイなのだ!! フーちゃんも食べたいのだ!」


 二帆ふたほさんも起きてきた。そりゃそうだ。こんな良いニオイがただよってきて、ゆっくり眠れるわけが無い。

(眠り続ける父さんと母さんとパパとママは、よっぽどの夜更かしをしたのだろう。うん? ひょっとしたら、昨晩は、学校3往復分のエアロバイクをこいだ俺よりもはるかに激しい運動をしたのかもしれない。お楽しみだったのかもしれない)


 俺が、ここには書いてはよろしくない妄想をよぎらせていると一乃いちのさんが、


「ごめーん。フーちゃん、みんなで全部食べちゃったー」


と、ニコニコしながら首をかしげた。


「シェフだ! シェフを呼べ!! 一刻もはやくもう一回つくるのだ!!」


 二帆ふたほさんが駄々っ子のようにじたんだを踏む。


「じゃあ、今度は俺が焼きます」


 俺が席を立つと、二帆ふたほさんは素早く席に座って、


「ではシェフ、こんだけお願いするのだ!!」


と、ダブルピースを大きく前に突き出した。


「承知いたしました。マドモワゼル」


 俺は、調子に乗って、うやうやしく会釈をすると、ご注文通り4人前のバケットをフレンチトースト液にひたしてレンジで温めた。(30秒チンして裏返して、さらに30秒チン)

 それから中火にかけたフライパンで、ちょっと焦げ目がつくくらいに焼き上げて、たーーーーーーっぷりとメープルシロップをかける。


 できあがった4人前のフレンチトーストは、大人気モデルの朝食としては、ちょっと信じられないくらいカロリーがある。だけど、


「美味しければカロリーゼロなのだ」


って、二帆ふたほさんはどっかで聞いたことある謎理論を展開して、四人前のフレンチトーストをペロリと平らげた。


 二帆ふたほさんのスタイルに厳しいパパとママは、昨夜はよっぽどのお楽しみだったのか、いっこうに部屋から起き出してこない。(もちろん父さんと母さんも起きてこない)


 二帆ふたほさんは調子に乗って、フレンチトーストをさらにもう二人前たいらげた。

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