第23話 ゼロ時のドバイと午前6時のエプロン姿。

 俺と二帆ふたほさんは、夜の12時くらいまで、ガッツリとM・M・Oメリーメントオンラインをプレイしまくった。

 そして、布団に入ったけど、なかなか眠れないでいた。三月みつきの水玉パンツとか、はいてない、まる見えのもろ見えの二帆ふたほさんとか、一乃いちのさんとのファーストキスとか、ラッキーな素敵すぎる記憶に、ここには書いていけないようなとんでもない妄想が上乗せされて駆け巡る。


 そうだ、こんな時は駆け巡ればいいんだ!


 俺は気晴らしに1階にある、トレーニングルームのエアロバイクを走らせた。走って走って走りまくって、ペダルの負荷も学校の坂道とおんなじくらいに設定して、全速力で駆けて駆けて駆け巡った。そして学校まで3往復するくらいの距離を駆け巡って、クタクタになってから、そのまま3階の自分の部屋に倒れ込んだ。


 あんなにも夜遅くまで遊んで、あんなにもグッタリするまでエアロバイクで走ったのに、起きたら朝6時前だった。早すぎる。

 俺は、ゲーミングPCを二帆ふたほさんの部屋に置きっぱなしだった。

(なんだか二帆ふたほさんの部屋=ゲーム部屋みたくなってきている)


 スマホでも一応ミッションのプレイはできるけど、やっぱりゲーミングPCには劣ってしまう。それにコントローラーとキーボードの操作に慣れてしまっているので、スマホではどうしてもうまくプレイすることができない。

 しょうがなく、俺はスマホでM・M・Oメリーメントオンラインを立ち上げて、昨日実装された〝お散歩システム〟を確認することにした。


 お散歩システムは、昨日実装された境界術師の12匹の干支えとモンスターをお散歩させて、素材アイテムを持ち帰ってもらうシステムだ。

 M・M・Oメリーメントオンラインは、モンスターを倒して、貴重な素材を集めてアイテムを作るのが醍醐味のゲームだけど、スナイパー職が使う〝ポイズンバレット〟みたいな弾丸系のアイテムは、使い捨てアイテムだから集めるのが大変だ。

 それに、社会人とかの忙しい人は、そもそもまとまった時間を作るのが難しい。


 そんな時間がないユーザーの悩みを解決したのが、この〝お散歩システム〟だった。

 自分の誕生日から決定された1匹の干支えとモンスターに、好きな場所を〝お散歩〟してもらう。(そのプレイヤーがクリアしたことあるミッションに限る)

 すると干支えとモンスターは、一定時間が経過するとお土産として素材アイテムを持ち帰ってくれるのだ。


 でも干支えとモンスターは、ちっちゃいマスコットモンスターで、そのままではほんのちょっとしか素材アイテムを持ち帰ることができない。

 そんなときに活躍するのが、昨日、境界導師のチュートリアルでハッチャン師匠が熱弁していた課金アイテム〝ペットフード〟だ。

 干支えとモンスターは、4段階に進化する。ちなみに俺のパートナーのサルのモンスター〝シンスケ〟は、

 〝ペットフード〟1個で、〝シンノスケ〟

 〝ペットフード〟3個で、〝シンジロウ〟

 〝ペットフード〟5個で、〝ジュンイチロウ〟

に進化する。

 最高進化の〝ジュンイチロウ〟なら、大幅な時間短縮が可能になる。

(お金はかかるけど)


 このシステムは、めちゃくちゃ好評だった。時間がないサラリーマンはもちろん、「お散歩システム実装記念」のプレゼントでしか〝ペットフード〟を貰っていない俺でも、めちゃくちゃ恩恵を受けた。

 〝ジュンイチロウ〟に進化させてお散歩してもらわなかったら、〝砂中金さちゅうきんの砂時計〟の素材は昨日のうちに集まりきらなかった。感動した!!


 俺は、戻ってきた〝シンスケ〟からアイテムを受け取ると、ついさっきログインボーナスでもらった〝ペットフード〟を1個わたして〝シンノスケ〟に進化させると、再び砂漠が舞台のミッションにお散歩をお願いして、観客モードで他のプレイヤーを観覧することにした。


 M・M・Oメリーメントオンラインは、全世界でプレイされているゲームだ。日本では早朝でも、ヨーロッパは夜だし、アメリカなら夕方や真昼だ。プレイヤーはたくさんいる。

 俺は、観客モードで〝ドリルドリュウ〟と入力して、マッチしたミッションのひとつを観覧することにした。


 国籍にはドバイって書いてある。ドバイってことは今は午前0時過ぎか……こいつら結構夜更かしだな。(自分のことは言えないけど)


 俺は、観客モードで、今回実装された3匹のボスのうちの最後の一匹、〝ドリルドリュウ〟にケチョンケチョンにされている、ドバイのプレイヤーを見て頭をかかえていた。


 うーん……。やっぱり、〝マタドール〟か〝バリケーター〟がいないと苦しいかなあ。


 〝マタドール〟と〝バリケーター〟は、どちらもサポートに特化したクラスだ。〝フーター〟は、よくこのクラスを使うふたりとパーティーを組んでいた。ふたりとも〝フーター〟に負けず劣らない神業プレイで、俺はしょっちゅう、観客モードでその3人のレジェンドフレーヤーの芸術的なコンビネーションに驚嘆していた。


 そういや、最近、あのふたりを見かけないな……〝フーター〟つまり二帆ふたほさんが、俺とばっかり遊んでいるからなんだろうけど。他の人とプレイしているのかな?


 俺は気になって、ふたりの最近のプレイ動画を検索しようとしていると、部屋の中に甘いにおいがただよってきた。バターとミルクのなんだか香ばしいにおい……フレンチトーストを焼くにおいだ。


 母さんか一乃いちのさん、ひょっとしたらふたりで焼いているのかな?

 俺は2階のリビングに降りると、キッチンにいたふたりは、すぐに声をかけてきた。


「おはよー。今日もいい天気だねー。酷暑日になるってー困るよねー」


 ひとり目は俺の想像通り、一乃いちのさん。

 一乃いちのさんはゆったーりとした部屋着を着て、ゆったーりとした口調で朝のあいさつをする。


 そしてもうひとりは……


「オハヨ! すすむ!!」


 エプロン姿の三月みつきだった。



 

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