第21話 警戒心ゼロの水玉模様。

「なんだか思ったより簡単かも! あとめちゃくちゃ楽しい!」


 チュートリアルをプレイしおわった三月みつきがはずんだ声をあげる。

 よかった。楽しんでくれているようで本当によかった。


「基本操作も覚えたし、試しに一緒にミッションやってみる?

 とりあえず、簡単なやつを遊んで……っ!!?!!」


 俺は、大草原を映したディスプレイから、ゲームを遊んでいる三月みつきに向き直った。そして三月みつきに釘付けになった。


 三月みつきは、ゲーミングチェアに足をのっけて可愛く体育座りをしていた。三月みつきのとっても健康的なふとももが、無防備にむき出しになっている。

 そして、はちきれんばかりの健康的なふとももの付け根にある、白地で水玉模様のパンツまでまる見えのもろ見えになっていた。


 三月みつきの水玉パンツには、健康的なふとももがこれでもかと食い込んでいた。

 そして肌触りが良さそうな伸縮性のある素材は、三月みつきの大事なところをていねいに包み込んで、水玉柄がちょっとだけ横長にのびていた。


「どうしたのすすむ?」


 自分が今、とんでもない魅惑的なポーズをしていることを全く自覚していない警戒心ゼロの三月みつきは、無邪気に首をかしげて聞いてきた。

 三月みつきは今、VRゴーグルをかぶって大草原を見ているのだ。抜けるような青空のもと、大草原の中で純粋無垢に首をかしげているのだ。


 やばい。これ、破壊力がとんでもない。そして背徳感がとんでもない!!


「な、なんでもないよ!!」


 俺は、慌てて返事をする。あきらかに動揺して、声がうわずってしまう。カッコ悪い。そして、あわてて視線をそらした先で、俺は心臓をつかまれるような恐怖にかられた。


 二帆ふたほさんに見つめられていたからだ。


 超難易度ミッションをクリアして、VRゴーグルをはずした二帆ふたほさんが、俺を見ながらニヨニヨと微笑んでいた。


 ヤバい! 最悪の場面を見られた! 女の子の無自覚なパンチラ(というかまる見え)をガン見している、インキャぼっち野郎の最悪に最低な瞬間を二帆ふたほさんに目撃された!


 二帆ふたほさんは、あぐらをかいて座っているゲーミングチェアからそっとたつと、三月みつきの肩を「ぽん」とさわって話しかけた。


「ミーちゃん、その体制は腰に負担がかかる。当然美容にも良くない。ちゃんと床に足をつけて座るのだ!」


 二帆ふたほさんは、いつもあぐらをかいてゲーミングチェアに座っている自分のことを棚上げして、三月みつきのイスの座り方を注意した。


「はーい」


 三月みつきは、可愛らしい返事をして素直に二帆ふたほさんの忠告にしたがって足を床につける。水玉のもろみえは、たちどころに安心安全な校則違反のないスカート丈の中に隠れた。


 それを見届けた二帆ふたほさんは、今度は俺にツカツカと近よってきた。表情はずっとニヨニヨ笑いだ。


 ニヨニヨ笑いの二帆ふたほさんは、俺の横に立つと口もとに手をあてて耳元でそっとささやいた。


「こっそり見るのは、いただけないゾ」


 俺は、顔から血が引いていくのがわかった。真っ青になるのがわかった。終わった。完全に終わった。完全に二帆ふたほさんに嫌われた。そう思っていたら俺は突然「バッシーン」と背中を叩かれた。

 二帆ふたほさんは、


「いーな。青春。うらやましいのだ!」


と、大声でさけぶ。


「え? え? なに? 青春がどうしたの?」


 VRゴーグルをかぶった三月みつきが、ビックリしてあたりをキョロキョロとみまわしている。三月みつきの視線をうつしたディスプレイは、チュートリアルの役目を終えたハッチャン師匠がチラチラと見切れている。


「なーんでもないのだ! それじゃあミーちゃん! チュートリアルが終わったところで、本格的に冒険の始まりなのだ! ミーちゃんの戦いはこれからだ!」


「はい!」


 三月みつきはほがらかに返事をした。


 ・

 ・

 ・


 それから、俺たちはM・M・Oメリーメントオンラインを三人で遊びまくった。

 遊んだのはまだ基本操作がおぼつかない三月みつきの練習のための初心者ミッションだから、ギャラリーもほとんどいなかった。

 たまーに、〝フーター〟の神業プレイ目当てのプレイヤーが観戦モードで入場しても、ミッション内容と、初心者まるだしの境界術師のサポートに徹している〝フーター〟を確認すると、すぐに去っていった。


 そして、ミッションを何度かこなして三月みつきが操作に慣れてきたころ、


十六夜いざよいさーん、そろそろ親御さんが心配すると思うのー」


って、学校から帰宅した一乃いちのさんに声をかけてもらって、外が、もう随分と暗くなっていることに気がついた。


 俺は、自転車で三月みつきを夏休みまで自分も住んでいたマンションに送っていった。

 マンションの入り口で、別れ際に三月みつきが話しかけてきた。


「ねぇ、すすむ、明日も遊びに行っていいかな? 今日の続きを遊びたい! 明日は土曜日だし、せっかくだから、お泊まりしてもいい?」

「もちろん。あ、でも一応親に了承とっとく。父さんと母さんは大丈夫だろうけど、パパとママは三月みつきのこと知らないから。でもまあ、大丈夫だと思う」

「えへへ、久しぶりだね。すすむの家にお泊まりなんて」

「だな。許可がとれたらLINEするから!」

「うん! 明日が楽しみだなぁ……」


 そう言うと、三月みつきは無邪気に手を振って、軽い足どりでマンションの中に入って行った。

 俺は、自転車をこいで家路にへと向かう。そして、家が近づくにつれ、ちょっと、いやかなりドキドキしていることに気がついた。

 三月みつきが俺の家にお泊まり。学校一の美少女が俺の家にお泊まり。よくよく考えたら、とんでもない状況なんじゃないかな?


 俺はドキドキしながら、脳内に焼きついた白地に楕円形の水玉模様を思いだしていた。ドキドキがさらに早くなっていく。


 ひょっとして俺、三月みつきのこと好き……なのかな?

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