第20話 ゼロ距離の境界線。ーGー

 三月みつきがクラスを選択すると、可愛くガッツポーズをしていた境界術師がフェードアウトして、画面は大平原になった。抜けるような青空の中、みわたすかぎりの大草原だ。

 そして、その大草原に、真っ白なフレンチブルドッグが突然二足歩行で近寄ってきて、


『よくきたノウ! 新しい戦士よ!』


って、なんだか始めにゲットするモンスターを、3匹の中から選ばせてくれる博士みたいな声で語りかけてきた。


「なに? このフレブル、カワイイ!!」


 犬好きの三月みつきはご機嫌ではしゃいでいる。

 俺は、再びVRゴーグルをかぶって超難易度ミッションに挑戦している二帆ふたほさんに声をかけた。


「じゃ、三月みつきのプレイは俺が手伝うんで、二帆ふたほさんは、素材集めやっといてください」

「りょー! なんか欲しい素材ある?」

「昨日と同じ、〝砂中金さちゅうきんの砂時計〟と、〝松煙しょうえん古代墨こだいぼく〟の素材をお願いできますか?」

「わかったのだ!!」


 ……さてと、手伝うっても今日実装されたクラスだしな。どんなチュートリアルになってるんだろ? 俺は、ガイドキャラクターのフレンチブルドッグに注目した。


『ワシはこの世界の境界術を研究しているハッサクじゃ!

 ハッチャン師匠と呼ぶが良い!

 ワシが〝境界術師〟のイロハを教えてしんぜよう!!』


 うん。えらいちゃんとしたチュートリアルだ。このゲームにしては、結構、いやすんごく意外だ。インファイターのガイドキャラクターなんて、奇声をあげながら、いきなり飛び蹴りで襲いかかってきたのに……。

(あの真っ黄色な服着た人は本当に怖かった)


『〝境界術師〟は、この世と、かくり世を、つなぐ番人じゃ!

 これよりワシが、この世と、かくり世を、繋ぐ境界線を引く!

 その境界線を、お主の力でこじ開けるのじゃ!!』


 ハッチャン師匠がそう叫ぶと、モニターに突然、〝いぬ〟と書かれたふすまが左右から現れて「ピシャン!」と目の前に立ちはだかった。

 そして、そのふすまの上に、横4列、縦5列のパズルゲームが浮かんでくる。


「え? これって……」


 戸惑う三月みつきに、俺は答えた。


「そう、〝箱入り娘〟さ。得意だろ? 三月みつき

「うん!」


 VRゴーグルをつけた三月みつきは、力強くうなずくと、器用に1マスだけ開いた隙間にパネルをスライドさせていって、一番上にあった〝いぬ〟の文字が書かれたおっきなパネルを一番下の出口まで運んでいく。すると、


『ガオオオオオ!』


 ふすまが「スラリ」と開いて、みおぼえのあるオオカミが飛び出してきた。〝リトルヨウコ〟が召喚していたオオカミだ。


『見事じゃ!! お次は〝とり〟の境界線をこじ開けるのじゃ!!』


 ハッサク師匠が叫ぶと、今度は〝とり〟と書かれた障子しょうじが左右から現れて「ぴしゃん!」と目の前に立ちはだかった。そして、9つのマス目のパズルゲームが浮かび上がる。


「今度は〝15パズル〟。これは練習用だから8個しかないけど。これも、イケるだろ?」

「まかせて!」


 VRゴーグルをつけた三月みつきは、力強くうなずくと、器用に1マスだけ開いた隙間にパネルをスライドさせて、「1」から「8」の数字を左上から順番通りに並べていく。秒殺だ。

 パズルを完成させると障子が「すらり」と開いて、


『こけーーー!』


と、トリのモンスターが飛び出してきた。


『うむ、おぬし、なかなか見どころがあるの!!

 では、さっそく呼び出したモンスターに敵を攻撃してもらうのじゃ!!』


 ハッチャン師匠がそういっている間に、召喚されたオオカミとウシは、わざとらしく登場した雑魚モンスターに飛びかかっていく。


『なに、心配にはおよばん! なんかいい感じに勝手に自分で戦ってくれるわい!!』


 そう。境界術師は、パズルゲームで呼び出したモンスターに代わりに戦ってもらうクラスだ。モンスターの種類は干支えとと同じ全部で12種類。

 状況に応じて、モンスターを召喚して簡単な命令をするだけでフルオートで戦ってくれる。

 つまり、パズルゲーム。具体的には、〝箱入り娘〟と〝15パズル〟の2つのスライディングパズル上手ければ、他のクラスと同レベルで戦える。


 しかも!


『あ、ちなみに、お勧めはせんが、「難易度」を調整すれば、ごっつい干支えとモンスターも呼び出せるぞい。ま、お勧めはせんが!』


 ハッチャン師匠がそう言うと、〝〟と書かれたとんでもなくでっかい障子が左右から現れた。そして「ぴしゃん!」と目の前に立ちはだかる。

 浮かんできたのは「1」から「35」の数字。難易度マックスの〝15パズル〟だ。


『はっはっは! そう気負うでない!!

 ま、ふつうはこんなパズル解いておったら日が暮れるわい!

 だ!

 か!!

 ら!!!

 こんなこともあろうかと、モンスターを強くする〝ペットフード〟を開発したのじゃ! このフードを食べさせることによって…………』


「できた!!」


 ハッチャン師匠の説明が終わる間も無く、三月みつきはものすごいスピードでパズルを完成させると、とんでもなくでっかい障子しょうじが「すらり」と開いて、まるで山脈のようなイノシシのモンスターが現れた。


『ぶひひひーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーん!!』


 山脈のようなイノシシは激しい地響きを立てながら雑魚モンスターに襲いかかっていく。

 そして、「ぷちり」とアリンコみたいに雑魚モンスターを踏み潰すと、そのまま猛スピードで、はるかかなたに走り去っていった。

 ついでにオオカミとトリも、イノシシを追っかけて、はるかかなたに走り去っていった。


『……といった具合に、モンスターを楽々〝進化〟させることができるぞい!

 ちっちゃく召喚したあとに、〝ペットフード〟で「ババーン」と進化させればよいのじゃ! まずは、1回限定のとってもお得な初心者セットを買ってみるのがよいじゃろう!!』


 なんもない、みわたすかぎりの大平原には、ハッサク師匠オススメの課金アイテム紹介の声が、むなしく、わびしく、せつなく、ひびきわたっていた。


 俺は思った。


 うん。三月みつきは、スライディングパズルが。もはや人間技じゃない。

 境界術師の〝マーチ〟には、で活躍してもらおう。

 そうしないと、せっかく新しくできたクラスが、すぐに使用禁止クラスになってしまう気がする……。

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