第19話 知識ゼロの幼馴染。ーGー

 俺が二帆ふたほさんの部屋に入ると、三月みつきはもうすでにVRゴーグルをかぶっていた。ディスプレイには、VRゴーグルで三月みつきが見ている画面がそのまま映っている。


 三月みつきは、自分にそっくりな肩までの黒髪のボブの丸顔で、でも三月みつきよりも随分とスレンダーなキャラをメイキングしていた。

 名前は〝マーチ〟って表示されてある。三月生まれの三月みつき。だから〝マーチ〟。うん、わかりやすい。


「なにこれ? おもしろーい?」


 〝マーチ〟は手を振ったり、手でハートを作ったり、すねて足元の石をけったり、じたんだを踏んだりと、いろんなジェスチャーを使って喜んでいる。カワイイ。


「次は、クラスを選ぶのだ!」

「クラス、なんですか? それ?」

「お仕事みたいなモノなのだ、ミーちゃんが好きなものをえらぶといい」


「あの二帆ふたほさん……初心者の三月みつきが、自分で考えて選ぶってのは……ハードルが高くないですか?」


 俺はたまらず口をはさんだ。


「大丈夫だ! 問題ない!!」


 二帆ふたほさんは、VRゴーグルをかぶって、激ムズミッションをひとりでこなしながらスタイルの良い胸をはる。


「考えるな! 感じろ!! なのだ」

「感じる……! なるほどですね!!」

理力フォースを感じるのだ!」 

「わかりました!」


 VRゴーグルをかぶった三月みつきは力強くうなずくと、Bluetoothのコントローラーを操ってクラス選択をしはじめた。クラスを変更するたびに、画面の中の〝マーチ〟は、ころころと衣装を変えていく。

 三月みつきは、そんなファッションショーを繰り広げている〝マーチ〟の横に書いているクラスの説明文を声に出して読みながら、しきりに首をかしげていた。


「『インファイター? 先行入力のアイキ? やカウンター? が強力なクラス?? 敵の攻撃を第六感で察知して? 華麗なカンフーアクションを決めろ???』 

 あ、あの……二帆ふたほさん。説明文が、ちょっとなに言ってるかわかんないんですけど」

「大丈夫だ! 問題ない!! ミーちゃんは、そのクラスからは理力フォースを感じ取れないからわかんないのだ!」

「なるほどですね!!」


 ……うん、だめだ。問題だらけだ。二帆ふたほさんは、人にゲームを教えるのがめちゃんこ下手なタイプの人だ。感覚でゲームをやる完全に天才タイプの人だ。


 M・M・Oメリーメントオンラインは結構なアクション操作を要求されるゲームだ。

 二帆ふたほさんが愛用している、〝エリアルハンター〟や〝シノビスナイパー〟はその最たるモノで、俺でさえまともに扱える自信はない。


 でも、M・M・Oメリーメントオンラインには、アクションゲームが苦手なプレイヤーでも楽しめるクラスもある。

 俺が使ってる〝陰陽導師〟や昔使っていた〝インファンター〟がその代表的なクラスだ。操作はスキルや魔法がメインで、ほとんどアクションゲームのスキルが必要ない。攻略動画や攻略サイトで事前知識をたくわえて、スキルや魔法を計画運用して戦うのが本領だ。


 とはいえ、この手のゲームを全く遊んだことがない、まったくの初心者の知識ゼロの三月みつきには、正直言ってどっちも向いていない気がする。だから「初心者でも楽しめる」っていう新しいコンセプトでゲームデザインされた〝境界術師〟を三月みつきにはお勧めしたかったんだけど……


「これにしようかな……」


 ディスプレイにうつった〝マーチ〟は、えんじ色の矢絣やがすりの柄の着物に、ふわっふわでフリッフリのスカートを合わせた和洋折衷コーデのドレスをまとったクラスを選んだ。〝境界術師〟だ。


「境界術師! 三月みつきにおすすめだよ! 絶対これがいい!!」


 俺は、三月みつきが初心者向けの〝境界術師〟を選んだことにホッとして、強く強くお勧めした。


「うーん、でもなあ……」


 三月みつきが決めかねていると、VRゴーグルをずらして、モニターに映っている画像を二帆ふたほさんが見た。


「おー、カワイイ! めちゃんこカワイイ!!

 〝マーチ〟にとっても似合う!! 理力フォースをギンギンに感じるのだ!」

「ありがとうございます。アタシ、このクラスを使います!!」


 三月みつきはほがらかに叫ぶと、力強く決定ボタンを押した。

 たちまちディスプレイから大袈裟なファンファーレが鳴り響いて、〝マーチ〟がかわいらしく内股気味でひかえめなガッツポーズを決める。


 え? どういうこと?? 

 つまりは、理力フォースってってこと?


 ちょっとなに言ってるか、わからない。

 本当に俺には理解不能な世界だった。


 

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