第18話 ゼロ距離の神対応?

 二帆ふたほさんは、カチンコチンに固まった三月みつきを、猫のようにニヨニヨとした笑顔でなでまわしている。

 そして、スカートの中に手を突っ込んで、おしりをモニュモニュとさわりはじめた。


「ちょ、ちょっと、二帆ふたほさんなにやってんですか!」


 俺は、目の前のパラダイスな光景に一瞬固まるも、流石に止めに入った。ママから二帆ふたほさんをしっかり見張っていてちょうだいって言われていたからだ。


「ごめんごめん。はじけんばかりの健康美にムラムラきちゃったのだ」


 ムラムラって……悪い予感が当たった。「大丈夫だ問題ない」は、ゲーマーにとっては、問題が発生する時におったてるフラグなんだ。


三月みつきにイヤラシイことしないでください!」

「イヤラシクないのだ。ボティチェックなのだ。この美少女は将来スーパー美ボディーになる! スーちゃんが保証するのだ!」


 そう言いながら、二帆ふたほさんは、三月みつきのぷにぷにとした、はちきれんばかりのほっぺたをスリスリしている。


 ボティチェック? 本当かなあ……怪しい。

 でも、さっきからずっと体をべたべたとさわられている三月みつきは、


「ありがとうございます! アタシ、FUTAHOさんにボディチェックされるのが、ずっと夢だったんです! 嬉しい!」


と、リスのようなクリクリとした瞳を涙でにじませている。マジで?


TGC東京ガールズコレクションでさわった、おんにゃの子の中にも、こんな逸材はいなかったのだ。ぶっちぎりなのだ」

「本当ですか!? 嬉しい!!」


 なにこれ? 本当になにこれ??

 TGC東京ガールズコレクションでは、女の子どうしが触りっこするのが決まりなんだろうか……わからん。


 俺は、階段をトントンとリズミカルにのぼっていく二帆ふたほさんと三月みつきを見ながら、しきりに首をかしげた。



「うわー、さすが二帆ふたほさんのお部屋! 白が基調で大人っぽい!」


 三月みつきは、二帆ふたほさんの部屋に招待されてはしゃいでいる。


「パソコンがたくさん。YouTubeの撮影機材ですか?」

「ちがうよ。フーちゃんは、YouTubeは事務所の人につくってもらっているのだ。台本どうりにしゃべるだけ。フーちゃん、ふだんは〝私〟って言わないもん」


 三月みつきの質問に、二帆ふたほさんは、なんだか秘密事項っぽいことをあっけらかんとぶっちゃけている。


「そうなんですか……じゃあ雑誌のインタビューも……?」

「あれは、バッチリ答えたのだ! それを、マネージャーのムーちゃんとママがチェックしたみたいなのだ」

「そうなんですね。じゃあ、中高生は過度なダイエットはよくないってのも……」

「トーゼン、フーちゃんの考えなのだ。パパから授かった家訓なのだ。ミーちゃんの、この神がかったパッツンパッツンボディーにダイエットをすすめるヤツは、このフーちゃんがぬっころすのだ!!」

「じゃあ、アタシ、ダイエットしなくても……」

「大丈夫だ、問題ない!」


 二帆ふたほさんは親指をおっ立てて、三月みつきにウインクした。



 そこから、二帆ふたほさんと三月みつきの距離は一気にちぢまった。


「アタシ、雑誌の時より普段のしゃべりかたの二帆ふたほさんの方が好きです。なんだか、親しみがあって。でも、どうしてなんですか?」

「イメージ戦略がどうとか言ってたのだ。フーちゃん、ちょっとなに言ってるか、わからない」

「ちょっとなに言ってるか、わかるかもです。アタシも文化祭の時に、フレンチトーストが作りたかったのに、勝手に接客にされちゃったし。でもちょっと困りますよね。そーゆーの。自分のやりたいことを、周囲が勝手に決めちゃうんだもん」


 三月みつきはさっきからずっと笑顔だ。いつも間にか緊張がほぐれているみたいだった。よかった。


「ところで、パソコンがたくさんあるんですけど、撮影機材じゃないとすると、なににつかってるんですか?」

「これは、ゲーム用なのだ! スーちゃんといっしょに、M・M・Oメリーメントオンラインをあそぶためのモノなのだ!!」

M・M・Oメリーメントオンライン? あ、雑誌で言っていたゲームですね」

「ミーちゃんもやる?」

「え? いいんですか!! ぜひ!!」


 二帆ふたほさんは、すっかりうちとけて、三月みつきを〝ミーちゃん〟なんて呼び始めている。

 そして普段スマホのパズルゲームくらいしかやらない三月みつきは、二帆ふたほさんに誘われてM・M・Oメリーメントオンラインにノリノリだ。

 信者パワー、おそるべき!!


「決まりなのだ! スーちゃん、ここで三人で一緒にあそぶのだ!」

「じゃあ、俺は、自分の部屋からPCと椅子をとってきます」


 俺は、ほっとしていた。よかった。二帆ふたほさんと三月みつきがなかよくなれて。そしてまさか三月みつきM・M・Oメリーメントオンラインを遊ぶなんて思ってもみなかった。

 夏休みの間中、俺がずっとM・M・Oメリーメントオンラインに夢中にやっているのを横でじーっと眺めていただけの三月みつきが遊びたいって言い出すなんて。


「こんな難しいゲーム、アタシには無理だよ」


って、とりつくしまもなかった三月みつきが「遊んでみたい!」って言い出すなんて。


 俺は、自分の部屋に入ると、机の上に置いてあるゲーミングPCをゲーミングチェアーに乗っけた。そして、ドアを開けてろうかに出ると、ガラガラとゲーミングチェアを押して二帆ふたほさんの部屋に向かっていった。


 今日はタイミングがいい。普段、パズルゲームしか遊ばない三月みつきも、今日、実装されるクラスなら、きっと楽しめるハズだ。


 そう。昨日からやっているあの長期メンテは、「毒ハメ」のロールバックのためだけじゃない。新クラスの実装も兼ねていたんだ。

 本来であれば、今日の深夜から早朝にかけてを予定していた新クラスの実装も、あの長期メンテと同時に行われていたんだ。


 新しいクラスの名前は〝境界術師きょうかいじゅつし〟。


 〝シノビスナイパー〟〝陰陽導師〟とならぶ、「ジャポネスクシリーズ」と銘打たれた3種類の新実装クラスの中で、一番最後に実装されたクラスだった。

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