第17話 ゼロ距離おねーさんのLINEスタンプ

 三月みつきは頭をさげて、手を「ずいっ」と俺の前に差し出してお願いをしている。


「ちょ、ちょっと待って、二帆ふたほさんに聞いてみる」

「お願い!!」


 三月みつきは、頭をさらにさげて、両手を合わせた手を「ずずずいっ」を上にあげてくる。その力のこもった両腕は、今にも俺の額に突き刺さりそうな気迫がこもっている。


 俺はポケットからスマホを取り出した。そして家のグループラインで質問してみることにした。

 よくよく考えたら、二帆ふたほさんは芸能人で有名人な訳で、そんな雲の上の人に、その人をまるで神のようにあがめている三月みつきを、有名人の大ファンをホイホイと会わせて良いのだろうか……決められない。俺の一存で決めるのは怖すぎる。


 俺は、生来の事なかれ主義な、日和見ひよりみ主義な、ヘタレ精神全開で、僕の父さんと母さん、そして、一乃いちのさんと二帆ふたほさんのパパとママにお問い合わせをすることにした。決めてもらうことにした。


 すると、


母さん『え!? 三月みつきちゃん、二帆ふたほちゃんのファンなの!?』

パパ 『誰だい? 三月みつきちゃんって』

父さん『前の家のお隣さんです。すすむとは幼馴染なんですよ』

一乃いちの 『あとー、スーちゃんのクラスメイトー。そしてすっごくカワイイのー♪』

二帆ふたほ 『なんだってー! フーちゃん会いたい! すぐ会いたい!! スーちゃんの美少女幼馴染にすぐ会いたい!! もうすぐ家に着くからおもてなしをするのだ!!』


って、ものすごい勢いでコメントが帰ってきた。そして、最後に、家のカーストの最上位にいるママから返信があった。


ママ 『なるほど……すすむくん、二帆ふたほが歓迎ムードみたいだし問題ないわ。二帆ふたほがお客様に失礼がないようにしっかり見張っていてちょうだい』

すすむ  『わかりました』

ママ 『二帆ふたほ! お客様がくるんだから、全裸待機はダメよ! ちゃんと服を着て待ってなさい』

二帆ふたほ 『下着をはいたら負けじゃない?』

パパ 『大丈夫だ、問題ない』

二帆ふたほ (スタンプ)


 知らない人から見たら、さっぱり意味のわからない怪しい会話がやりとりされている謎のグループラインは、最後に二帆ふたほさんのアイコンで終わった。


 そのスタンプは、金髪ロン毛の男の顔面ドアップで、「大丈夫だ問題ない」と自身満々に言い切っていた。


 うん。悪い予感しかしない……。


 俺は、そのまったく安心できないスタンプに、背筋をゾクゾクさせながら、三月みつきと一緒に自転車に乗って坂道をくだった。目の前には見渡す限りの美しい水平線が広がっている。

 三月みつきが、なんだか話しかけてきている気がするけど、強い浜風のおかげでよく聞こえない。

 俺は、この長い長い下り阪を、ブレーキをほどよく握りしめてくだってく。そしてそのまま安全運転で自転車を走らせて帰路についた。


「ただいまー」


 俺はおそるおそる声をあげる。すると、トントンとリズムカルな音を立てて、階段をおりる音が聞こえてくる。二帆ふたほさんだ。


「スーちゃん! おっかえりー!」


 二帆ふたほさんは、朝見た時と同じ服装だった。

 体のラインがハッキリとわかる、セクシーなノースリーブのトップスとタイトなパンツルックだ。セクシーだけど、とっても安心できるとってもおしゃれなファッションだ。カッコイイ。


「は、はははははは初めまして! ア、アタシ、すすむさんのクラスメイトで夏休みまでお隣に住んでいた、十六夜いざよい三月みつきです! FU、FUTAHOさんの大ファンなのれす!」


 三月みつきは、めっちゃ緊張していた。言葉なんてカミカミのヨレヨレだ。

 二帆ふたほさんは、猫のような瞳を細くして、緊張している三月みつきを、じーっと見つめている。そしてしばらく見つめた後、おもむろに目を閉じて「スンスン」と胸の辺りの匂いをかいだと思ったら「ガバッ!」っといきなり三月みつきをはがいじめにした。


「なんじゃこりゃー! なんだこの可愛すぎる美少女は! 今すぐお持ち帰りなのだ! お持ち帰りでおもてなしなのだ!!」

「は……はひ?」


 あこがれの人物に抱きつかれた三月みつきは、真っ赤になっていた。耳まで真っ赤になって、カチンコチンに固まっていた。

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