第15話 ゼロ距離おねーさんの「はいたら負け」な理由。

 俺は、少女漫画の『信長のおねーさん』をあっという間に読み終えた。

 主人公の、やえさんの癒しオーラにほくほくとしながら、あっという間に読み終えた。

 信長が〝うつけもの〟になった新章以降、信長のラブのパワーによる迷走に拍車がかかってどんどん面白くなっている。あとついでに、勝三郎かつさぶろうの不遇さにも拍車がかかって可哀想になってくる……。


 俺は、恥ずかしくて自分じゃ買えないでいる少女漫画を貸してくれる、やさしい幼馴染に感謝を述べた。


「ありがとう、三月みつき


 すると、三月みつきは、


「ん……そこに置いといて」


と、みょうにそっけない返事を返した。雑誌の特集ページに夢中なのだ。そして俺は、その特集ページに掲載されている人物を見て、心底驚いた。


「え!? 二帆ふたほさん??」

すすむ、FUTAHOさんに興味あるの!?」


 三月みつきは、心底驚いた声をあげた。


「う、うん、まあ……ちょっと」


 そこには、逆光をあびて、背中をむけてたたずんでいる、一糸まとわぬ姿の二帆ふたほさんがいた。

 ヌード写真なのに全然エッチな感じがしない。むしろ、芸術的って言えばいいのかな? とても美しくて……カッコイイ。


「な、なあ三月みつき、その雑誌、あとで読ませてくれない?」

「FUTAHOさんの下着姿とかヌード目的じゃ無いでしょうね……」

「ち、ちがうよ!!」


 冗談じゃない! そんな目的だったら、女の子の目の前で見れるわけないじゃないか!


「まあ……いいよ。アタシはもう読み終わったから。それに、この雑誌買ったのって、FUTAHOさんプロデュースのポーチと、雑誌限定のスペシャルインタビュー目当てだったから。FUTAHOさんがインタビュー受けるなんて今までなかったもん」


 そう言って、雑誌を閉じてわたしてくれる。

 表紙には、デカデカと二帆ふたほさんが映っている。三月みつきが保健室に持ってきた時は、『信長のおねーさん』で隠れてみえなかったのか……。


 俺は、すぐに二帆ふたほさんの特集ページを開いた。


 なんでも、下着のイメージキャラクターをつとめる記念のスペシャルインタビューらしい。

 そしてそのインタビューには、二帆ふたほさんのポリシーが、デカデカと書かれていた。


『はいたら負けって思っているんです』


 俺は、インタビュー記事をくい入るように読んだ。

 そこには、俺の知らない、とても大人っぽい表情で、とても大人の受け答えをする二帆ふたほさんがいた。


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—— FUTAHOさんは、自宅では下着をはかないというのは本当ですか?


FUTAHO:はい。ブラもショーツも「はいたら負け」だって思っています。下着メーカーのキャンペーンガールにあるまじき行為なのですが……私がキャンペーンを務める下着は、〝理想のスタイルをアシストする〟がコンセプトですから、私は、その理想のスタイルに自分を少しでも近づけたいんです。


—— つまり、脱いでも理想のスタイルだと。


FUTAHO:それを目指しています。下着の素晴らしい機能を、自分の筋力で再現したい。だからそれを支える相応の筋力は必要なわけでして……私、BMIだときっかり20あるんですよね(笑)


—— そうなんですか!? 全然見えませんよ。

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 俺は、二帆ふたほさんが、大人の……というかごくごく普通の受け答えをしていることに衝撃を受けていた。


 ちゃんとしている。


 ちゃんと仕事をしている大人だ。

 今までゲーム中毒の、自宅警備員だとばかり思っていました。ごめんなさい。


「FUTAHOさん、BMIの数値20なんだ……いいなぁ」


 俺が、二帆ふたほさんに勝手につけたラベルングを反省していると、横に座っている三月みつきがぽつりとつぶやいた。


 三月みつきは、俺のとなりにピッタリとゼロ距離で密着して、一緒に雑誌を読んでいる。まるで食べ物をつめたリスのようにふっくらとハリの良いほっぺたを、ぷにぷにとひっぱりながら、一緒にファッション誌を読んでいる。


三月みつき……おまえさっき読んだんじゃないのか?」

「読んだけど……もう一回読みたくなったの! ほら、アタシこのページ読み終わったんだから、次のページめくってめくって!!」


 俺は、言われるがままに、次のページをめくった。


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—— スタイルの維持に気をつけていることはなんですか?


FUTAHO:一応、食生活もそれなりに気を使っていますが、やっぱり日々のトレーニングですね。ウチは父親が自宅でパーソナルトレーナーをやっているので。


—— 知ってます! 名だたる女優やアーティストのパーソナルトレーナーを務める仁科にしな弥十郎やじゅうろうさんですよね!


FUTAHO:そうです。ワークアウトメニューを組んでもらっていますし、毎朝、ボディチェックもしてもらっています。同居人の役得ですね(笑)。

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 昨日のあれ、ボティチェックだったんだ。素っ裸の二帆ふたほさんの体を、パパが大真面目な顔をしてべたべたと触っていたから「なにこれ?」って思ってたんだよな……。

 でも正直、ダイニングでやられると心臓に悪い。これからは1階でパパがやっているパーソナルジムでやっていただきたい。


「読み終わった! 次めくって!」


 俺は、言われるがままに、次のページをめくった。


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—— FUTAHOさんのスタイルにあこがれる読者もたくさんいると思います。そんな読者にアドバイスをいただけますか?


FUTAHO:まずはっきりと言えるのは、中学生や高校生には、無理なダイエットはお勧めしたくありません。

 どうしても太っちゃう時期ですし、中高校生は、ちょっとふっくらしているくらいの方が断然カワイイ(笑)。

 BMIが平均の22なら全く問題ないし、平均範囲の25未満であれば、全然気にしないで欲しいですね。

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 三月みつきは、スマホを取り出して電卓アプリをピコピコ叩くと「はぁ……」とため息をついている。電卓には、22.6と表示されていた。


「ちょ! すすむ! なに勝手に見てるのよ!!」

「ご、ごめん……」


 俺はこんなところで計算する、三月みつき三月みつきだろ……と思いながらも、口には出さずに次のページをめくる。


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—— つづいて、FUTAHOさんのプライベートについてお聞きしたいと思います。お休みの時間は何をしていらっしゃいますか。


FUTAHO:じつは私、カンペキなインドアの引きこもり体質なんです(笑)


—— へぇ。意外ですね。


FUTAHO:ゲームがとにかく大好きで。有酸素運動もバイクのペダルを踏みながらずっとゲームやってます。

 トレーニングも、ちょっとゲーム感覚というか、目標を決めてそれに向かってやっています。たぶん、負けず嫌いなんだと思います。それとも生粋のドMか(苦笑)。


—— そんなFUTAHOさんが今ハマっているゲームはなんでしょう?


FUTAHO:ズバリ! M・M・Oメリーメントオンラインです! VRゴーグルをかぶって遊ぶRPGなんですけど……(以下20分にわたり熱く語るFUTAHOさん)

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 俺は、なんで一番面白そうなところをカットするんだろう? と、雑誌の編集者の編集センスを疑っていると、


ガラリ


「購買でプリン買ってきちゃった。3つセットのプッチンするやつー。みんなで食べよー」


一乃いちのさんが職員室から戻ってきた。そして、


「うふふふ、仲がいーなー。恋人どうしみたいー」


と、体を密着させて、雑誌をみている俺と三月みつきをからかった。


「ちょ、やめてください」


 俺が慌てて否定をすると、すぐ隣の三月みつきはうつむいて、まるで食べ物をつめたリスのようにふっくらとハリの良いほっぺたを真っ赤にしていた。


 え? どういうこと??

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