第12話 ゼロ距離な地獄突き。ーGー

 〝リトルヨウコ〟に召喚された虎、馬、そして狼のモンスターが、二帆ふたほさんが操作する〝フーター〟と、俺の操る〝ロンリー〟に襲いかかる。そして〝リトルヨウコ〟は、洞窟の中を逃げ惑っている。


「役割を分担しましょう。二帆ふたほさんはキツネ、召喚獣は俺が引き受けます!」

「りょー!」


 〝フーター〟と〝ロンリー〟は二手にわかれる。そして、十分に距離をとったところで、〝フーター〟は懐から、ふろしきを「ブワサ!」と広げると、たちまち岩のオブジェに変化した。


『でた! 隠れみの術!』

『明らかに怪しいのに、なぜか気づかれない隠れみの術w』


 そして俺は、三匹の召喚獣を十分にひきつけてから、ウインドウを開いて魔法を唱える。


辛酉かのととり!〟


 召喚獣たちは、鋼鉄になったロンリーを攻撃し始めた。


『こっちもでた! 動けない無敵の鉄塊!』

『なるほど、ボスと雑魚を分散する作戦か』


 その通り、鋼鉄になった〝ロンリー〟が、召喚獣たちの攻撃をくらい始めると、〝フーター〟はすばやく術を解いて、ボスモンスターの〝リトルヨウコ〟を爪で攻撃し始める。

 〝フーター〟は爪に〝ポイズンバレッド(使い捨てアイテム)〟を仕込んで、逃げ惑うリトルヨウコに、毒の状態異常を付与していく。


『あ、やっぱり、直接攻撃なんだ』

『ゼロ距離スナイパーw』

『でもすげーな、キッチリ〝ダブルインパクト〟を急所のミゾオチに決めてる』

『フーターの変態プレイはシノビスナイパーでも健在か……』


 そして〝フーター〟の攻撃に召喚獣が気がついて、〝フーター〟に向かってくると、すばやく〝隠れみの術〟を使用する。


『なるほど面白い!』

『ヘイト値を操って、キツネにだけダメージを与える作戦か!』

『いや、でもこれ1回しかつかえないだろ』

『ぼっチート魔法は、一時間に一回しかつかえないもんな』


 昨日のトリプルオーバーキルで、にわかに注目された陰陽導師は、ギャラリーにも使い手が増えてるみたいだ。


『あとこんなのんきな戦い方じゃ、召喚獣が発狂するぞ?』

『だよな。発狂がマジやっかい』

『だから召喚獣を手早く倒して、次の召喚獣までにキツネをフクロだたきにするのがセオリーなんだし』


 そう、俺と二帆ふたほさんは、セオリーを完全に無視して戦っている。

 新しく実装された三種のボスのなかで、〝リトルヨウコ〟は一番攻略難易度が低い、攻略動画も大量にアップされていて、ダブルオーバーキルを達成したプレイヤーも結構いる。

 攻略動画では、もれなく召喚獣を速攻で倒して、〝リトルヨウコ〟をフクロだたきにする戦法ばかりだ。


 コーン!!!


 逃げ惑いながら〝フーター〟に毒を注入され続けていた〝リトルヨウコ〟が、叫び声をあげた。


 ガオオオ!

 ヒヒーン!

 ガルルルゥ!


 すると、干支えとがモチーフの虎、馬、そして狼のモンスターは、真っ赤な炎に包まれた。


『はいきました! 発狂モード』

『三匹も残して……どうすんだこれw』

『あ、ロンリーの無敵がきれたw』


 無敵が切れた〝ロンリー〟は、火属性に変化した三匹の召喚獣に集中砲火にあう。

 俺は、つとめて冷静に、準備していた魔法を唱える。


癸亥みずのとい


 〝ロンリー〟と〝フーター〟が、淡くて青いシャボン玉に包まれる。

 パーティー全員に、「水属性無効」を少しの間付与する魔法だ。


『は? なんで水?』

『おれ、わかったかもw』


 俺は、つとめて冷静に、連続で魔法を唱える。

 

壬寅みずのえとら


 俺の背後に、一面の濁流が発生する。そしてあっという間に、淡くて青いシャボン玉につつまれた〝ロンリー〟と三匹の召喚獣を巻き込んで行った。


「やっぱり、壬寅みずのえとらか」

「今なら効果4倍だもんなw」


 そう。今の時刻は、庚辰かのとたつ年、辛巳かのとみ月、壬寅みずのえとら日、壬寅みずのえとら刻。

 「日」と「刻」の恩恵を受けて、4倍の濁流が、〝ロンリー〟と水属性が弱点の炎に包まれた三匹の召喚獣を巻き込んでいく。

 そして、淡くて青いシャボン玉につつまれた〝フーター〟とボスモンスターの〝リトルヨウコ〟も巻き込んでいく。


 効果4倍の濁流は、洞窟の端まで届くと、召喚獣三匹を昇天させてもなお、激しさを増していく。青いシャボンにつつまれた〝ロンリー〟と〝フーター〟、そして〝リトルヨウコ〟は、濁流に押し込まれて、洞窟の隅っこに密着状態になった。


二帆ふたほさん、チャンスです!」

「りょーかいのすけ!!」


 二帆ふたほさんはおとぼけた返事をすると、あぐらをかいて座っていたゲーミングチェアから飛び降りた。そして、床の上に仁王立ちをすると、すばやくふたつのBluetoothコントローラーをシャドーボクシングのごとくはげしく前後にふりはじめた。


「あーーーーーーーーちゃちゃちゃちゃちゃちゃちゃちゃちゃちゃちゃちゃちゃちゃちゃちゃちゃちゃちゃちゃちゃちゃちゃちゃちゃちゃちゃちゃちゃちゃちゃちゃちゃちゃちゃちゃちゃちゃちゃちゃ……」


 〝フーター〟は、〝リトルヨウコ〟のみぞおちに、超高速の毒爪を地獄のように突き刺し続ける。

 そして、二帆ふたほさんのだるんだるんのスエットショートパンツは、ズリズリとずりおちて床の上にパタリと落ちた。


「あーーーーーーーーちゃちゃちゃちゃちゃちゃちゃちゃちゃちゃちゃちゃちゃちゃちゃちゃちゃちゃちゃちゃちゃちゃちゃちゃちゃちゃちゃちゃちゃちゃちゃちゃちゃちゃちゃちゃちゃちゃちゃちゃ……」


 そして、両肩がむき出しになったパーカーもずりずりと下がっていって、にの腕にからまって、形の良いおっぱいをまるだしにした。


「ちゃちゃちゃちゃちゃちゃちゃちゃちゃちゃちゃちゃちゃちゃちゃちゃちゃちゃちゃ、うわっちゃーーーーーーーーーーーーーーーぁぁぁあ!


 とどめに、パーカーのすそは、すこしずつ、すこしずつ、ずり上がって、二帆ふたほさんのここには書いてはよろしくないところを、むきだしのもろだしにした。


二帆ふたほ百烈毒手拳!!」


「〝ポイズンバレッド〟は最大で99個しか所持できないから、九十九つくも毒手拳だと思いますけど……」


 俺はどうでもいいツッコミをしながら、二帆ふたほさんのおっぱいとか、ここには書いてはよろしくないところをガン見して、ここには書いてはよろしくない所をカチンコチンにしていると、〝壬寅みずのえとら〟の起こした濁流は静かにおさまった。代わりに観客モードのコメント欄に、濁流のようにコメントが書き込まれていく。


『えぐいw』

『直接攻撃の高速連打で、ゲージ半分もってった』

『そして、毒で一割減少とw』

『このまま放置で自滅か……』

『勝負有り!』

『ひでえw』

『キツネはもう死んでいる』

『ひでぶw』

『キツネカワイソスw』

『フーターとロンリー、てめーらの血はなに色だーーーっ!』


 いや、まだだ。キツネにはもっとひどい目に遭ってもらう。

 俺は、つとめて冷静に、視線を二帆ふたほさんのここには書いてはよろしくない所からモニターに戻すと、アイテムウインドウを開いて、〝松煙しょうえん古代墨こだいぼく〟を使用して、〝庚辰かのとたつ年〟を、〝辛巳かのとみ年〟と書き換える。


 そして、つとめて冷静に、魔法ウインドウを開いて魔法を唱えた。


辛巳かのとみ


 機械の蛇が、〝リトルヨウコ〟に噛み付く。効果は「アナフィラシキーショック」。現在の毒の効果を1.5倍にする。でもって、今は〝辛巳かのとみ年〟の〝辛巳かのとみ月〟だから、1.5倍の1.5倍の1.5倍で毒の効果は3.375倍。


 これで、うまいことダメージ調整をすれば、ダブルオーバーキルが確定。


 でもそれだけじゃない。

 俺は、アイテムウインドを開いて、今度は〝砂中金さちゅうきんの砂時計〟を使用した。


辛巳かのとみ


 機械の蛇が、〝リトルヨウコ〟に噛み付く。


 〝砂中金さちゅうきんの砂時計〟は、陰陽導師が唱えた直前の魔法をリピートする。毒の効果はさらに、1.5倍の1.5倍の1.5倍で11.390625倍。


 これで、毒の永続ダメージによる〝リトルヨウコ〟のトリプルオーバーキルが確定した。






 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る