第6話 ゼロ距離なモーニング。
夢を見ていた。俺はなんだか知らないけど雲の上にいた。
雲の上は、めちゃくちゃ、やわらかくて、めちゃくちゃ、あたたかかった。
なかでも、ほっぺたに当たる雲は、とびきりにやわらかくて、とびきりにいいにおいで、ちょっとさきっぽがかたかった。
俺は雲の上で顔をうずめていた。ほっぺたに当たる雲はふたつで、俺はそのくもに挟まれた。そして俺は、雲の中にひきずりこまれていった。
い、息が、できない……!?
・
・
・
「……! う、うぶぶぶぶ!?」
おれは、窒息しそうになって目が覚めた。
「……なんだこれ!?!?」
俺は、おっぱいに挟まれていた。目の前には、おっきなおっぱいがある。きれいで思わずさわりたくなるおっぱいが、目の前に広がっている。俺の頭は、目の前のおっぱいで、もういっぱいいっぱいだ。おっぱいで、大混乱だ。
「んー、あー……もう朝か。ふわぁあああ」
え? この声知っている。なんで。
俺は、この声の主を知っていた。そしておっぱいの持ち主を知っていた。
なぜなら、学校で毎日聞いている声だったからだ。毎日、学校で、出席をとってくれる保険の先生だったからだ。
「おはよう、
「お、おおお、おはようございます。
先生の名前は、
保健室登校をする俺にとっては、担任みたいなモノだ。
「ごめんねー。酔っ払ってうっかり部屋を間違えちゃったみたい。昨日、友達の結婚式でさー。お引越し歓迎パーティー参加できなかったんだよねー。二次会で飲みすぎたー。ううーん……ちょっと二日酔いかもー」
やばい、これはいろいろとやばい。俺は、その素晴らしい光景を脳裏にやきつけると、すぐさま視線をはずした。
「あれ、わたし素っ裸だ。まいったなぁー……」
そう言って、
「あ、そういえば、歓迎パーティーのお料理どうだったー?」
「は、はい。めちゃくちゃ美味しかったです!」
「たくさん食べてくれたー?」
「はい! そりゃあもう!!」
「良かったー。がんばって一昨日から仕込んだ甲斐あったよー」
「え? あの料理、
「そうだよー。ウチはパパはささみと卵の白身とプロテインばっかりだし、フーちゃんは、スムージーやスーパーフードやサプリメントばっかりだし、ママは厨房に立つと、殺人兵器ができちゃうからー」
「は、はぁ」
「だから、
そこまで話すと、
「うーん、ところで、学校ではしょうがないとして、家で先生って呼ばれるのはちょっとはずかしいな……一緒に暮らす家族なんだしー」
「じゃあ、
「苗字もへんだよー」
「じ、じゃあ、
「うふふ、せっかくだから〝お姉さん〟ってよばれたいかもー」
「そ、それだけはカンベンしてください!!」
「えーーーーどうしてー」
「じゃ、じゃあ、かわりに俺のことを好きに呼んでいいっスよ」
「ほんとー? うれしー。じゃーあー……
「だいじょうぶっス……
「ほんとに! やったー! えへへ、うーれーしー。じゃ、これからよろしくね、スーちゃん!」
そして、ぴょんぴょんとはねつづける
「ちょ、
「あれー? しっぱいしっぱい。でも、まー、いいや」
なにが良いのか全くもってわからないけど、
「わたしねー。ずーっと弟が欲しかったんだぁ。だからね、ほんとーに嬉しいの。ねぇ、スーちゃん? お願いがあるんだけどー」
「な、なんスか?」
「あたま、いいこいいこしていい?」
「ええ?? あ……はい」
「やったー! ありがとー。えへへー」
そう言うと、
「いいこ、いいこ」
って、俺の頭をやさしくなでた。
なんだかちょっと気恥ずかしい。でも、なんだかうれしい。昨晩、
「えへへ……いいこ……いいこ……チュ!」
「……!?」
え? なにこれ? どういうこと!?
「ごめーん、スーちゃんがあんまりに可愛くて、キスしちゃった」
えええええええええ!!
何言ってるの?
「あ、もうこんな時間。学校に行く支度しなきゃだー。スーちゃんのお母さんが朝ごはんを用意してくれているみたいだから、一緒にいこ? あ、そのまえに部屋に戻って、服をきなきゃだ……」
そう言って、
俺は、絶賛大混乱の頭で、さっきまでのいろんな出来事をプレイバックしていた。そして、
俺のファーストキス……まさか、ずっと片想いしていた人とできるなんて。ずっと夢に描いていた出来事が、いきなりなんの前触れもなく訪れるなんて……。
(あとおっぱいに顔をうずめたり、ここに書いてはよろしくないところを目撃するなんて……)
そう、俺は、ずっと片想いしていたんだ。高校に入学した時から、もうずっと。
学校の〝癒しの聖母〟こと、保険の
俺は、あり得ないくらいのラッキーの連続攻撃で、寝起きでいきなりHPが1桁になってしまった。
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