第5話 ゼロ距離なコンビネーション。ーGー

二帆ふたほさん、まずは、俺の真後ろに〝ニトロのビン〟を設置してください」

「りょー!」


 俺の〝ロンリー〟の前に密着して発狂ハリネズミの針をさばき続けていた、二帆ふたほさんのフーターは、〝ロンリー〟をバック宙で飛び越える。

 俺は、すばやくウインドウを開いて、魔法を唱えた。


辛酉かのととり!〟


 マイナーな、陰陽導師の魔法の中でも、さらにドマイナーな魔法に、ギャラリーのコメント欄が活気ずく。


『あ、ぼっち導師、全身銀色に光った!』

『ハリネズミの針を跳ね返してる』

『無敵かよw』

『でも動けないみたいだぞ』

『なーんそれ!』


 そう、〝辛酉かのととり〟は、全身を鋼鉄にして無敵になる魔法だ。ただ、無敵だけど。本来は、初見の敵の行動パターンを調べるときくらいしか使い道がない。だけど……


『お、フーターが、〝ニトロのビン〟しこんでる』

『てことは、バックステップかーらーの』

『〝ニトロのビン〟にワイヤーぶっ刺しw』


 たちまち、〝ニトロのビン〟は爆発して、鉄の塊となった〝ロンリー〟が、ハリネズミに目掛けてふっとんだ。


『ぼっち導師の特攻w』

『いや、ちがうみたいだぞ』

『フーターが、ぼっち導師にワイヤー刺してる』

『で、〝急出〟で密着!』

『すげー、無敵の移動壁かよw』


 〝フーター〟は、鋼鉄の〝ロンリー〟に密着して、ハリネズミにすっ飛んでいく。そしてハリネズミに密着すると、すぐさま〝ニトロのビン〟を仕込んだ。

 発狂モードで針を乱射しているハリネズミは、〝ニトロのビン〟を瞬時に破壊する。


『これ、フーターも自爆じゃね?』

『ワイヤーで、高速離脱、なるほど!』

『いやしっかりまきぞえ喰らってるw 頭にあったマッチョが砕けたんだ』

『〝亡骸の石〟と同じ効果か!』

『おいおい、ぼっち導師、さっきから見てたら結構なチートスキルだらけだな』


 〝ニトロのビン〟の爆風をモロにうけた、〝ロンリー〟とハリネズミは、高々と空中に放り投げられた。

 そこに、〝フーター〟が、ハリネズミにワイヤーを刺して急接近して、ゼロ距離高速斬撃をお見舞いする。


『なるほどw』

『ぼっち導師を壁にして、無理矢理無限コンボを再開させたのか』

『勝負ありw』

『ぼっち導師、ナイスアシスト!』


 ちがうちがう! そうじゃない!!

 ギャラリーよ、驚くのはこれからだ!!


「スーちゃん、弱点のお腹、下向きに調整したよ!」

「ありがとうございます。いくぜ! 本日限定! ウルトラチート魔法!」


 〝辛酉かのととり〟鋼鉄化がとけた〝ロンリー〟は、ハリネズミにとどめをさすべく、とっておきの魔法を発動した!!


 〝庚辰かのえたつ!〟


 地面が「ピキリ!」と裂けたかとおもうと、とんでもなく馬鹿でかい両刃の剣が地面から「シャッキーーーーーーーーーーーーーーーーン!」とせり出して、ハリネズミの土手っ腹を串刺しにした!!


 Finish!

 OverKill!

 OverKill!!

 OverKill!!!


 ハリネズミは、えぐいくらいのダメージを受けて、ハラハラと崩れ去っていく。


『なんじゃこりゃー!』

『オーバーキル判定が、3回も出た!?』

『ダメージ数見たか、完全にぶっ壊れだろ!』

『チートどころのさわぎじゃねぇ』


 そう、チートところの騒ぎではない。〝庚辰かのえたつ〟は、今日、この時間に限っては、普段の16倍の攻撃範囲とダメージを持つ、ぶっ壊れスキルだ。

 陰陽導師は、画面に表示されるゲーム内の日付表示が、他のクラスと違って万年暦まんねんれき、つまり〝旧暦〟で表示される。

 その旧暦は、陰陽導師の魔法とおなじ、二文字の漢字でできている。そして、その漢字が合致した時に限り、魔法の威力が2倍になる。


 そう今は……


 庚辰かのえたつの年、庚辰かのえたつの月、庚辰かのえたつの日、庚辰かのえたつの刻!


 つまり、魔法の威力は、2倍の2倍の2倍の2倍で16倍だ!!!!


 庚辰かのえたつは、通常の16倍のサイズの剣を地面から射出して、ハリネズミに普段の16倍のダメージをお見舞いしたんだ。


「やったね! スーちゃん!!」


 二帆ふたほさんが、VRゴーグルをはぎとって、ゲームングチェアに座っている俺に抱きついてきた。勝利のハグだ。目の前にある二帆ふたほさんの頭から、お風呂上がりのシャンプーのいいにおいがただよってくる。


「いやー、フーちゃんは、スゴ腕の弟くんができてうれしいのだ。エライエライ」


 二帆ふたほさんは、俺にみっちゃくして、頭をいいこいいこしてくれる。

 そして、はいてない安心できない箇所は、俺のカチンカチンになっている場所に、ぶつかっていた。やばい、気づかれたら気持ち悪がられる!!


「ん? なんだか硬いモノがあるのだ」


 ばれた!


 二帆ふたほさんが、俺のカチンコチンに気がついた。もうおしまいだ。嫌われる!!

 そう思っていた。だけど、二帆ふたほさんの反応はずいぶんとちがった。瞳を猫みたいにまんまるにして、ニヨニヨと笑っている。


「いやー、元気だねえ! これに攻撃されたら、フーちゃんも〝OverKill〟されちゃうかも?」

「え? えええええ??」

「じょーだん、じょーだん」


 二帆ふたほさんは、舌をぺろりんと出しながら、はがいじめにしていた俺の上から降りていった。


「と、とにかく、ちゃんとパンツをはいてください! 心臓に悪いです」

「あ、やっぱり見てたんだ。ヘルプに入ってもらった時、いきなりフリーズしたから、ヘンだと思ったんだよねぇ」


 バレてた! 二帆ふたほさんの安心できない箇所を、ガッツリとガン見していたのが思いっきりバレてた!

 二帆ふたほさんは、ニヨニヨと笑いながらつづけた。


「パンツをはくのは、可愛い弟のお願いでも聞くことはできないねぇ。フーちゃんは、『はいたら負け』だと思っているのだ!」

「なに『働いたら負け』みたいな言い方してるんですか! 俺の父さんもいるんですよ!! パンツはしっかりはいてください! あとパンツの上にも何かはいてください!!」

「はーい!」


 二帆ふたほさんは、によによと笑いながら、調子のよい返事をして、クローゼットから、パンツと部屋着のショートパンツをとりだしてはいた。


 そして俺と二帆ふたほさんは、その後も夜の12時くらいまで、ガッツリとM・M・Oメリーメントオンラインをプレイしまくった。


「それじゃ、今日はこれくらいで……俺、明日から学校なんで」

「りょーかい。フーちゃんはその間に素材集めをしとくのだ。欲しい素材があったら言ってちょ」


 俺は、二帆ふたほさんの申し出に、ありがたく素材のリクエストをしながら思った。二帆ふたほさん、『はいたら負け』なだけじゃなくて『働いたら負け』とも思っていない?


 でもまあ、その話をするのは明日以降だ。今日はもう寝よう。俺は、自分の部屋に戻るとベットに潜り込んだ。そして、なんとも抱き心地のよい抱き枕に抱きついて爆睡をした。


 その抱き枕は、本当に抱き心地がよかった。人肌で……そしてとっても柔らかかった。


 

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