第4話 ゼロ距離な作戦会議。ーGー

「スーちゃん!!」


 俺は、二帆ふたほさんに叫ばれて「ビクッ」となった。

 二帆ふたほさんの、はいていない安心できない箇所をバッチリとガン見しているのを怒られたのかと思った。


 でもちがった。


 二帆ふたほさんの〝フーター〟は、これでもかと針の刺さった俺の操る陰陽導師の〝ロンリー〟に、ワイヤーガンをぶっ刺した。

 〝ロンリー〟は、お尻にワイヤーをブスリと突き刺されて、キュルキュルと〝フーター〟の元へと引き寄せられていき、たちまち密着状態になった。


 エリアルハンターのスキル、〝救出〟だ。救出相手はワイヤーのダメージを受けるけど、ワイヤーを使うことで、瞬時に、確実に、仲間を救出できる。

(エリアルハンターが味方に急速接近する〝急出〟ってスキルもある)


「スーちゃん!! 大丈夫!?」

「あ、はい、なんとか……」

「よかったー! バグかなんかでフリーズしたのかと思ったよ」

「い、いや、慣れないコントローラーにとまどっただけです……」


 俺が、なんとも苦しい言い訳をすると、VRゴーグルをかぶった二帆ふたほさんは、口元をニヤリとあげる。そして、


「可愛い弟を助けるのが、おねーさんの使命なのだ!」


と、ちょっとドヤった感じのトーンで言った。


 カッコイイ! そして、やさしい。


「じゃ、じゃあ、姉をサポートするのは弟の使命ってことで」


 そう言って、俺は素早くウインドウを広げて、全体回復魔法をかけた。


 〝乙未きのとひつじ


 最大HPの50%を回復する魔法だ。

 そして続け様に、回復魔法を〝フーター〟に唱える。


 〝乙丑きのとうし


 対象1人に、1秒間に1回ずつ、最大HPの1%の回復を、計120回繰り返す継続回復スキルだ。


「とりあえず、これでワイヤーアクション中に針を喰らっても、1回は耐えられます。ところで〝フーター〟は〝亡骸の石〟持ってます?」

「もってるよー」

「じゃあ、こいつも唱えれば、都合3回は耐えられますね」


 そう言って、俺はさらに魔法を唱えた。〝フーター〟の頭のうえに、鉄でできたマッチョのコケシが浮かぶ。


「おー、なんか知らん魔法だ。ってかさっきから知らん魔法だらけだ。陰陽導師はマイナーすぎて、パーティー組んだことないんだよねぇ。で、何? このコケシ。めっちゃパパそっくり。キモい!」


 二帆ふたほさんは、おきらくな声をあげる。そしてそんなお気楽な声をよそに、〝フーター〟は、発狂モードのハリネズミの針の雨を、高速に捌き続けている。人間技じゃない。


「〝辛丑かのとうし〟は、〝亡骸の石〟と同じ効果です。HPが0になった時、身代わりに砕け散ってHP1で踏ん張れます。1日1回しかつかえないですけど。てか、陰陽導師はおんなじ魔法は、全部1日1回しか使えないですけど」


 陰陽導師はキッカリ60個のクセが強いけどハマれば強力な魔法を操ることができる超万能クラスだ。M・M・Oメリーメントオンラインの大型アップデートの目玉として実装された。

 でも、その使いづらさで、めちゃくちゃ敬遠された。なにせ、全ての魔法が1日1回しか使えないのだ。他のプレイヤーとの連携がめちゃくちゃ難しい。

M・M・Oメリーメントオンラインの世界では、実時間の1時間で、ちょうど1日が経過する。つまり1時間に1回だけ使えるって仕様)


 そして、協力な魔法だけど、それが、本当にやっかいだった。連携には絶望的に向いてなかった。つまりはソロプレイ向きのクラスだった。

 パーティーを組んで戦うことが前提のこのゲームで、そんなクラスを喜んで使うのは、ボッチ属性の人間くらいだろう。でも今日はついている……俺は、ある作戦を実行するべく、二帆ふたほさんに質問した。


「さっきボスって、どうやって浮かせたんですか?」

「〝ニトロのビン〟だよー」

「残数は?」

「えっへん、なんとふたつも残っている」

「じゃあ、俺の指示で、〝ニトロのビン〟を仕込んでください。俺が壁になってギリギリまで近づきますんで、」

「りょうかい! あのハリネズミを、もいっかい浮かせれば、ぬっころせるのだ」

「……いや、ここはオーバーキルを目指しましょう。トドメは俺に任せてくれませんか?」

「オーバーキル! そういうのもあるのか!! ならそれを注文します!」


 さて、作戦は決まった。俺は、さっきからずっと机の上で足をバタバタさせている、二帆ふたほさんの安心できない箇所の見納めをすると、モニターの角度を調整して、二帆ふたほさんに背を向けた。


 やってやる! 

 はいてないところを見ている場合ではない!!

 俺は、二帆ふたほさんに……いや、お姉さんに、カッコイイところを見せるんだ!!!

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