第2話 ゼロ距離なバスタイム。

「ところで……あなた、だあれ?」


 湯船で密着しているおねーさんは、俺のことをじーっとみると、「はっ!」と、驚いた顔をした。いまさらかい!!


「イーちゃんかママだと思ってたのに、よく見ると知らない男の子だ! フーちゃん、知らない男の子とお風呂に入っている!!」


 やばい! やばいのではないかい?? いまさらだけどやばいのではないかい?

 俺は冷や汗をかいた。風呂に入っているのに背筋がぞくぞくとしてきた。


「ごめんねー、フーちゃん、めっちゃ近眼で乱視持ちだから……メンボクナイ。

 だから安心してください! 見てませんよ!!

 フーちゃんは君の大事なところはみていませんのです」


 え? どういうこと?

 このおねーさん、なんで俺がおねーさんの裸を見たことじゃなくて、俺がおねーさんに裸をことを心配しているの??


 だめだ、頭がぐるぐるする。

 そしてぐるぐるするなか、おねーさんは改めていまさらの質問をしてきた。


「そう言うわけで、もいっかい質問。あなた、だあれ?」


「……か、かぞえすすむです」

「あー。ママの再婚相手の! すいぶんと若いねぇ」

「いや、俺はその息子で……」

「あ、そうなんだ。その考えはなかった。フーちゃんは、きみの再婚相手の娘。

 荻奈雨おぎなう二帆ふたほだよ」


 ん? 荻奈雨おぎなう……? なんで、苗字がちがうんだろう。

 俺の疑問を察してか、二帆ふたほさんは話をつづけた。

 湯船からでて、ボディーソープをふわふわに泡立てて、ボディタオルで身体をごしごしと洗いながら話をつづけた。


「フーちゃんは、ママの苗字を名乗ってるの。ママは会社では苗字変えるのメンドウだったから、パパの苗字で通しているみたい」

「へー、そうなんですか……」


 おれは、二帆ふたほさんの家のなんだかややこしい家庭の事情を、初対面で一緒にお風呂に入るというもっとややこしい状況で聞いた。


「どころで、スーちゃんは、ゲームはやるかい?」


 スーちゃん?? あ、俺のことか……。


「はい。一応は」

「今遊んでいるゲームはなんだい?」

M・M・Oメリーメントオンラインです」


 それを聞くと、二帆ふたほさんはシャンプーで髪の毛をわしゃわしゃ洗いながら、はしゃいだ声をあげた。


「おー! そうなのか! じゃあ一緒に遊ぼう! すぐ遊ぼう! お風呂なんかにのんびり入っている場合では無い!」


 二帆ふたほさんは仁王立ちになると、ぐわしとシャワーをつかんで、豪快に頭と身体の泡を洗い流し始めた。

 二帆ふたほさんの、ここには書いてはよろしくないところが、俺の目の前に大写しになる。やばい……心臓にやばい。

 そして、お風呂場を飛び出して、バスタオルでわしわしと頭をふきながら、M・M・Oメリーメントオンラインの質問をしてきた。


「環境は何をつかっているんだい?」

「ゲーミングPCです」

「あ、そこじゃなくて出力」

「ディスプレイです」

「そーなんだ。フーちゃんはVRゴーグル派!」

「へー、そうなんですね」


 M・M・Oメリーメントオンラインは、マルチプラットフォームがウリのゲームだ。スマホやタブレットでも遊べるし、PCでも遊べる。そしてマニアの人には、VRゴーグル、つまりヘッドマウントディスプレイで遊ぶのが流行っている。


「スーちゃんは、VRゴーグルでやんないの?」

「一度、店頭で遊んでみたんですが、酔っちゃって……」

「あー、合わない人はいるよね。なんでラノベやWeb小説の人たちって、みんなもれなく平気なんだろう……?」

「フィクションですから。あと多分便利な技術があるんだと思います」

「そうなのかー。フーちゃんは作者があまり深く考えていないからだと思っていた」


 二帆ふたほさんは、色々と各方面にケンカを売るようなことを言いながら、身体をふいて、大きなサイズのパーカーをスポンとかぶると、


「そんじゃ、お風呂上がったらフーちゃんの部屋にきて。ディスプレイ環境もあるから、スーちゃんはそのマシンでログインすればいい」


 そう言ってとっととお風呂から出て行った。

 俺は、二帆ふたほさんのおっぱいとか、ここには書いてはよろしくないところを特等席でみてしまい、眠気なんて遥か彼方にふっとんでしまったから、お風呂場を出て二帆ふたほさんの誘いのまま、M・M・Oメリーメントオンラインを一緒に遊ぶことにした。


 そして俺は知ることになる。二帆ふたほさんが、M・M・Oメリーメントオンラインのレジェンドプレイヤーだってことを。

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