7話 ▽クロノス
クロノスが太陽神殿の奥深く、太陽神アマテラスの部屋に入るとその部屋の主である太陽神は背を向けて机に座っていた。
「なんで俺を寄越したんですか!弱いって分かってたでしょ!?」
クロノスはそんな太陽神にギャンギャン文句を言うが、太陽神は意にも返さない様子で反論した。
「主が弱いと知ってはいたが、他の神もお主も皆妾の前では等しく弱い。じゃが、まさかお主がまさかそこまで抜きん出た弱さだとは知らなんだ。
すまんな、お主の弱さを見くびっていた」
「弱い弱い言わないでくれません!?本当のことではあるけど!!」
はぁ……と溜息をついたクロノスは本当に太陽神は信者の皆が思っている以上に毒を吐くなぁと考える。
しかしリラも話した印象では雰囲気の割に何気なく毒を吐くと考えると、この二人はある意味似ていると言えるのか。
「今回はどうしたんですか?アンタが行けないとはいえ俺じゃあ勝てないって分かっていたでしょう。
リラ様を助けられなかったら本末転倒だったと思いますけどー?」
「別に誰を行かせても、リラを助けに行ったというだけでケイはリラを殺そうとするのを止めたじゃろう」
思いの外考えていたのか、とクロノスは驚愕した。
誰が行っても変わらなかったのかよ、じゃあ俺が行かなくてもよかったんじゃ……。
そう考えると、アマテラスは素早くペンを持つ手を動かしながら答えた。
「単にリラが手紙でお前の名前を知っていたから行かせただけじゃ。リラは目の前に現れたお前に助けを乞い、そしてケイはそんなお前に嫉妬する」
え?それってどういうことだ?
どうしてケイ卿が俺に嫉妬をするんだ。
「ケイはリラ中心主義じゃ。常にリラにどう見られるべきかと考え、敬語を喋りにこやかに振舞っている。
そんなやつがぽっと出の知らない男、しかも神と名乗っているやつにリラが己にそっぽを向いて助けを乞う。
そうなるとリラはもう自分の方を向かないかもしれない、リラは自分を敵として見てしまうんじゃないか。
そうあのボケは考えるはずじゃ。
そしてお主は負け、そうなれば彼奴はリラを食べようとするのを止める。
ここで改心した振りをしなければ嫌われてしまうからな」
いや何その細かい予想。
その上そんなヤバい奴だったのかアイツ、とクロノスはしかめっ面をしたかと思うと、何かに気がついたのか真っ青な顔で苦笑いになった。
「…………ま、まさか〜!その言い方だと止めるフリをしただけでまたやらかすつもりみたいに聞こえるんですけど!?」
「彼奴の欲が無くなることはないのだから、そうではあるだろう。
まあリラが手綱を握ればもう大丈夫だとは思うが……ところで、写真撮ってくるって言ったよな?」
そうか、手綱を握れば大丈夫なのか。
ならまあいいのか?とホッとしたクロノスはああ写真ねと撮影して印刷したピースツッコミ顔写真を差し出した。
「なんと愛らしいことか!ピースとこのツッコミ顔がたまらん!
ありがとのうクロノス、良い働きをした」
「お礼には及ばないぜ。助けて貰った恩ってやつだ」
「それもそうじゃの。じゃあ24時間体制でこれから頼むぞ」
「はいはい。…………え?」
なんか不穏な文字が見えたんだけど、今。
神とはいえぶちのめされたやつにかける言葉じゃなかったんだけど。
太陽神はハテナを飛ばす俺にも動じずカリカリと……何書いてんのそれ!?
「ちょっと、何書いて……漫画?」
「ケイとリラの恋愛漫画じゃが!?」
「いや意味わからなねーよ!?」
ダンッ!!!と迫力を出して言われても言動と行動が会ってねぇじゃねーか!!!
ケイ卿に対して『吐き気がする』みたいな反応してた癖になんでだ!??
「うるせーーー!!!己が内から湧き上がる欲望は仕方がないんじゃ!!!現実はそうなって欲しくない、でも描きたいのは事実!!そう思ってしまえば己の心に嘘はつけないのじゃ!!!
妾はこれを現実にしない為にここに描き、己を奮起する!!!!
妾は妾の責務を全うする!!!!」
いやそれ言いたかっただけだろ。
「というかこれはなぁ、失恋話じゃ!!!
ケイとリラが兄弟だと分かって結局は妾とリラがくっつく本なんじゃよこれは!!!!」
「いやどんな本だよ。
というか本人に許可とか取らずにやっていいもんなんですか、コレ?」
「同人活動で本人に許可取ろうとするなんて愚行をする訳ないじゃろう。これは妾が描いて妾が見るもの。
即ち妾の為の創作物じゃ!」
それならいいのか?いいのか。
いやそうじゃない、話が逸れてるじゃねぇか。
「これからってなんですかこれからって!」
「これからはこれからじゃ。お主の透明化のスキルを使って、リラの監視につき、あの獣からリラを守る。
そしてリラの写真を四六時中撮るのじゃよ」
「いやそれ俺がストーカーみたいじゃねぇか!!
やりませんよそんなこと!
ていうかサラッと写真を要求するなどっちが獣だよ!!」
「仕方ないであろう?妾は皆が言う通りあの旧神々を地中深くに封じ閉じ込めた野蛮な女。
ああ、そうじゃ、妾はかようにも炎で簡単に何もかも燃やしてしまう。
土地も魔人も魔獣も…勿論この紙ものぅ」
そうわざとらしく溜息をつきながら彼女が取り出したのは何の変哲もない紙だった。
何の変哲もない……電話番号が書かれた紙。
しかし、それはクロノスの最も欲していたものだった。
「?…………アッ、まさかそれは!」
「そう、こちらに出したるはお主が求めて止まない死に別れた双子の兄弟、カイロスに繋がる電話番号だ。
冥府の固定電話番号じゃがな」
「!!!」
クロノスは咄嗟に紙を奪おうとするが、太陽神は素早くそれを躱していく。
クロノスと太陽神アマテラスの力の差は歴然だった。
「クロノス、分かっておるな?交換条件じゃよ。
冥府は本来死んだ者しか行くことの出来ない土地。
閻魔大王の収める死者の国。
その電話番号を手に入れるのに妾がどれだけ苦労したと思う?」
「いやそれ固定電話番号じゃねぇか!!それにリラの召喚スキルは暗に言えば冥府に繋がっているんだ、そんなに難しくないだろ!?」
「そうだな、全然苦労しておらん。
そもそも妾は閻魔大王とは仲良くしようってことになってるんでな、固定電話番号くらい全然わけないわ」
こ、コイツ!悪びれもせず言いやがるッ!!
「交換条件にならないんじゃないですか?ほら、労働24時間と固定電話番号じゃあ全く釣り合いませんよ」
「お主、最近働いてないじゃろう」
ギクッ。
突然繰り出した太陽神の言葉はクロノスにとって図星だった。
ダラダラと汗を流して目を泳がせる。
「部下から聞いたぞ、冥府に行ってカイロスを探すと決めはしても手がかりもなく毎日ダラダラしてると。
お主、そんな調子では固定電話番号ですら手に入らないのではないか?」
「い、いやぁ……そのぉ」
「そんなだらけて初心忘れまくりなお主に透明になりながら適当に写真を撮るだけの仕事と絶対手に入らない冥府の固定電話番号を渡す。
妾も優しくなったものじゃな、昔ならお主のような堕落者に渡すのは引導だったというのに」
怖すぎだろ。
我ながらよく太陽神様に口出ししたと思う。
しかしリラを助けに行ったのは自分が行った方がマシというのもあったが、自分の能力を生かせる場面が最近無くて気まずかったからというのもあった。
あの時俺はこのままだと何も出来ないのではないかと、何か足掻きたかったのだ。
「どうする?引き受けるか、死か」
「引導渡す気満々じゃねーか!!
やります、やりますよ!」
「よし」
太陽神はニコッと笑って電話番号の書かれた紙を俺に渡した。
やった、これでカイロスに電話ができる!
カイロスの安否を確認できるんだ!
俺は電話をする為にダッシュすると人のいない場所で電話をかけ始めた。
ドギマギしながら「カイロスはいますか」と問いかけた俺が「カイロスは今外出しています」と言われてガクリと項垂れるのはその後の話だった。
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