晴明にぃのお祓いカレー飯

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晴明にぃのお祓いカレー飯

この町には妖が大量にいる。

狐にタヌキに口裂け女、果てには最近妖に騒がれているバクまで。

人間の多くは妖が存在することすら知らないが、俺は知っていた。

何故なら俺は生まれつき妖が見えるからだ。

妖が見える奴はなかなかいない、現に俺の妹のリラも見えないらしい。

俺は妖狐である師匠に陰陽術を教えてもらい、悪さをする妖を退治したりしていた。


「なあ師匠、どうして俺に陰陽術を教えてくれるんだ?」

「そりゃ決まっておろう、そなたが晴明という名だからじゃ。晴明なのに陰陽術が使えなかったらなんかガッカリじゃろ?

そなたが学校に行って

『安倍晴明と同じ名前なんだ!?ねぇねぇ陰陽術使ってみてよ!』

『いいよー!』ボッ

『すごーい!火つけるのうまーい!』

みたいなことになるかもしれんじゃろ」

「いやなんだその会話、学校でそんな話題になるわけないだろ」

「じゃが妖は晴明という名前の輩がいたら興味津々になるぞ。お前ら人間だってあれじゃろ?土方という名字の者がいたら土方十四〇が頭によぎるじゃろ?」

「そこは土方歳三だろ、なんでそっちなんだ?」

「妖は土方十四〇が頭によぎるんじゃよ」

「お前らただの日本カルチャー大好き集団だろ!?」


この場合は師匠が日本カルチャーが大好きなだけかもしれない、と考えてこの時は陰陽術の練習の為に考えるのを止めた。

しかし後日、師匠の言っていることは事実だと俺は身をもって知ることになった。


「ねぇねぇ君って晴明なんでしょ?陰陽術できる?」

「あ、ああ」ボッ

「すごーい!火がついたー!」


ものの見事に当たってしまった。

公園で遊んでいたところに現れた妖にせがまれて火をつけるとキャッキャと喜ばれた。

…待て、考えてみれば何故妖が安倍晴明と同じ人物の名前で喜ぶんだ?


「なあ、安倍晴明なんてお前ら妖の天敵なんじゃないか?その上俺は安倍晴明じゃあないのに、どうしてそんなに喜ぶんだ?」

「決まってるでしょ、安倍晴明は僕達妖に優しくしてくれたらしいからさ!

僕はそんな昔に生まれてないから会ったことないけど、じぃじのの話じゃ

『晴明様は儂ら妖にも優しくしてくれておった。悪さをする者には容赦なかったが、悪さをする妖と優しい妖どちらもいるということを分かってくださる方じゃった』

って言ってたんだ!耳にタコができるくらい!

ゲームの始まりの村の村人みたいに会う度言ってくるからちょっと怖いくらい!」

「そ、そうなのか。慕われてるんだな、安倍晴明ってのは…」


というかえらくゲームに詳しいな!?


「どこでゲームについて学んでるんだ?」

「ほら、僕達妖って子供驚かせようとするでしょ?

公園でよく子供がゲームしてるからよく見るんだよ。まあ驚かせるって言っても僕はトカゲだから壁とか天井を這い回ることしか出来ないんだけどね。動きをヒー〇ランにちょっと寄せたりしてるよ」

「ほとんどの子供にはそれ見えなくないか…?」


どんな高度な驚かせ方だよ。

そんな話をしていると友達と遊び終わったらしい妹のリラが俺のところに来た。


「おにぃちゃん、お話おわった?」

「ああ。すまん一人で喋っちゃって、不気味だったよな?」

「おもしろいからいーよ」


面白いで済ますとは、毎度ながら心の広い妹だ。

俺はリラのこういう所に救われているんだろうなと思う。


「りくとくん、しつじの人と帰っちゃった。

おにぃちゃんもはやく帰ろう?」

「ああ、そろそろ帰らなきゃな!」


リラに見えないようにトカゲに軽く手を振って歩き出した。

日が落ちかけて赤と橙色を混ぜたような色に染まり、妖も増えた。

夜になる前に家についた。

手を洗ってリラの手を拭かせていると、リラが話しかけてきた。


「おにぃちゃん、今日のごはんなに?」

「カレーだよ」

「やった!おにぃちゃんのカレー大好き!」

「可愛いヤツめ〜どれくらいおにいちゃんのカレーが好きなんだ?」

「おにぃちゃんの作ったカレー以外のカレー食べたくないぐらい!!」


思った以上に強火だった。


「でも給食のカレーは食べるんだぞ?」

「う……ちょっとだけ食べる」

「えらい!」

「えへへ」


リラの様子を見て嬉しくなった俺は意気揚々と仕込みをしておいたカレーを完成させた。


「カレーできたぞ」

「やった!食べる!」

「母さん呼んできてくれ」

「うん!」


楽しそうに2階に行ったリラを見て微笑ましい気持ちになる。やっぱり俺の妹は可愛いな!


「これがお主の作ったカレーか、どれ…うむ!めちゃくちゃ美味いの!リラがお主のカレー以外食べたくないと言うのも納得じゃ」

「師匠!?」


なんで師匠がここに!?


「腹減ったから食いに来たんじゃ。カレーなら量あるしいくらか食ってもバレないじゃろ?うまうま、ヤバッ肉うまっ。

命名するなら『晴明にぃのお祓いカレー飯』ってところかの」

「なんでちょっとコラボメニューみたいなタイトルなんだよ!?

……まあいい、それ食べたら帰ってくれよ」

「まだ帰る訳にはいかん。件くだんが災いを予言してな、それを伝えに来たのじゃ」


なるほど、師匠はそれを伝えに来たのか。

件くだんとは半分人間で半分牛の姿をしており、災いを予言をする妖だ。

それが一体どんな予言をしたっていうんだ?


「ああ。件が言うには『十四年後、晴明の妹が首を斬られる災いが降りかかる』そうだ」

「なっ!?」


リラに災いが!?

しかも首を斬られるだと…十四年後にそんなことが!?

十四年後ならリラは恐らく19歳だ。

今は5歳なのに十四年後なんて、どう対策を立てればいいんだ!?


「まだ先とはいえ、忘れるなよ。

それとリラには秘密にしておけ」

「当然だ、教える訳ないだろ」

「ご馳走様、用件ようけんは伝えたぞ」

「ああ」


師匠は皿を洗って片付けるとスッと消えていった。

後からドタドタとリラが2階から降りてきた。


「おにぃちゃん遅れてごめん!お母さんがパソコンに張り付いてて、連れてきたよ!」

「おう、ありがとう」


食った人の記憶を食べるバクの話もあるのに、十四年後の話まで……!

いいや、俺がリラも母さんと父さんも守ってみせる。


だから今だけは、とリラに不安を悟られないようになんとか微笑んだ。

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