第4話 最弱庶民、異世界の住民が弱すぎる理由を知る。
「疑って、申し訳ありませんでした!!」
受付嬢さんが頭を下げる。
「謝らなくて大丈夫ですよ? 業務上、必要だったことなんでしょう?」
「それは確かに、そうなのですが……。それでも文句を言う人は多くて……」
受付嬢さんは、泣きそうな顔で目を伏せている。
なんだろう。
他人事と思えない。
オレも現世で少しとはいえ、コンビニでバイトをしていた。
少しの期間であったというのに、理不尽に怒鳴りつけてきた客と遭遇した経験もあった。
(この人には、できる限りやさしくしよう)
オレはそう思った。
「それでファングウルフの牙は、いくらで買い取ってもらえる?」
ファングウルフの牙は二〇本。
犬歯を四本ずつ取ったので、五体かける四本で二〇。
ゲームだと、二〇〇ジルド程度にしかならない品だ。
しかしBランクの強敵だったら、査定も手厚くなるだろう。
オレは内心、ワクワクしていた。
「二〇本ですと…………五〇〇ジルドになりますね」
微妙……!
ゲームよりは高いけど、ランクの高さには釣り合っていない。
「ファングウルフは強敵ですが、素材的な価値は薄めです。
討伐報酬も、ギルドの依頼を通さずに討伐された場合は無効となりますので……」
「ギルドの依頼を通していたら?」
「これの五倍は出せました」
「それでも安いな」
「過去にはもっと、報酬を出していた時代もあるのですが……」
「ですが?」
「ファングウルフを養殖する冒険者グループが現れました」
悪いやつうぅ~~~~~~~!!!
ゲームでは、そんなことできなかった。
牧場を入手して動物を育て、出荷することはできたけど、そんなことはできなかった。
だけどここは現実だ。
『悪いこと』もできる。
「報酬と悪用のバランスに頭を悩ませ調整しているのが、私どもの現状なのです……」
受付嬢さんは、心の底から暗い顔をしていた。
心なし、人魂が見えている。
(仕方ない。必要アイテムでも買って帰るか)
「報酬の五〇〇ジルドは、全部ポーションに変えてくれ」
ポーションは、一個一〇〇ジルド。
五個買える計算だ。
受付嬢は、目だけを動かしオレと銅貨を交互に見つめた。
オレを見つめた。
銅貨を見つめた。
オレを見つめた。
銅貨を見つめた。
オレを見つめた。
見つめて言った。
「ポーションは、ひとつ三万ジルドなんですが……」
「三万ッ?!」
ゲームの『ぼったくり商店』でも、一〇〇〇で購入できたぞ?!
流石のオレも、取り乱してしまう。
「貴重品の『薬草』を、煮込んで作るのがポーションですので」
「薬草なんて、西にある『薬草の森』で取りまくれるじゃないか!!」
「西と言えば、『ファングウルフの森』じゃないですか!」
ここでもファング先生かよ!
ゲームでは初心者が挑む、100億回死んだ雑魚だったのに!
もう本当に、取り乱してしまう。
「ファングウルフがいるからなんだ?!
みんなで倒して、薬草を取ってくればいいだけじゃないか!」
「単体でも厄介な上に、群れで行動することも多いモンスターですよ?!
スグルさんのような『本物の天才』は、一握りしかいないのです!!」
ウソを言っている気配はなかった。
(住んでる生き物は同じなのに、どうしてここまでゲームと違う??)
オレは深く考え込んだ。
(ゲームとの違い。
ゲームとの違い。
ゲームでは当たり前だけど、現実にはありえない現象……)
閃いた。
「この世界では、死んだらどうなる?」
「それは…………消えてなくなってしまうのでは?
生まれ変わりとか、宗教の話をしているならわかりませんが」
(やはりか)
オレは確信した。
(この世界では、死んだらそれでおしまいだ)
だからゲームと、常識が違う。
(ゲームなら、死んでも所持金が半分になるだけで済む。
どんな敵にもガンガン挑んで、キャラのレベルとプレイヤーのスキルを磨けばいい。
だけど死んだら終わりの世界じゃ、それができない。
99%勝てる敵でも、『1%で死ぬんだぞ? 死んだら全部終わりだぞ?』と言われてしまう)
ファング先生との戦いも、ゲームなら『死にながら覚えろ』でいい。
この世界ではできない。
一度死んだらおしまいだ。
ゲームなら『ミスして死んでも大丈夫。所持金が半分になるだけ』と言える練習が、『失敗したら死ぬかもしれない、狂気の訓練』になる。
だからしない。
だから弱い。
しかしそれはある意味で、当然の弱さ。
(両手斧やハンマーを使う〈漆黒のケルベロス〉が強者なのも、そういうことか)
この世界の住民は、ファング先生でクリティカルの練習ができない。
やるという発想がない。
だから『クリティカルが出ないことを前提にした攻撃力』で武器を選ぶ。
(でもこれで、ひとつ決まったな)
オレは拳を、空高くかかげた。
(ファング先生を倒しまくって、『薬草の森』を取り戻す!!)
オレにとってはただの雑魚だが、この世界の人には強敵となっているファング先生。
そんな先生に乗っ取られている森を、『薬草の森』にする。
そして今後『主人公』が、基本アイテムである薬草やポーションを、安価で買えるようにする。
オレが目標とする『カッコイイ脇役』に、相応しい立ち回りと言えるだろう。
(凶悪なモンスターに占領されていた薬草の森を解放して立ち去る名もなき剣士。
最高にカッコイイじゃないか……。
フフフ)
――――――――――――
周囲の人たちが弱い理由に、納得がいった人は星をくださるとうれしいです!
今後はスグルがtueeする横で、スグルを慕うヒロインたちも強くなっていく予定です!!
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