第5話 最弱庶民は、三人の美少女を弟子にする。

 ファングウルフに占領されている『薬草の森』を、人の手に取り戻したい。

 そのために、ファングウルフを倒しまくる。

 

 そんな決意を固めたオレは、西の森に出向こうとしていた。

 三人の影が、オレの前に立ちふさがる。


「話は聞かせてもらったケル!」

「お前ほどの才能でも、ひとりで行くのは危ないぜベル!」

「Bランクチーム、〈漆黒のケルベロス〉もお供させていただくロス」


(こういうところが、憎めない三人ではあるんだよな)


 だからこそ、危険に巻き込みたくはない。


「その気持ちだけで十分だよ」


「遠慮することはないんだケル!」

「人はひとりでは生きられないぜベル!」

「人に頼り頼られる。生きるとは、そういうことの連続だロス」


(やんわり言ってもこの調子なら、ストレートに言うしかないか)


「オレに負ける程度だと、足手まといにしかならない」


 けろべろすゥーーーーーーーーーーーーーンッ!!!

 

 三人娘はショックを受けた。


「それはハッキリ言い過ぎケルぅ!」

「言葉を包んでほしいぜベルぅ!」

「話がホントに正論だから、心の底から傷つくロスぅ……」


「ハッキリ言われて文句を言うなら、やんわりと断られた時点で察してくれ」


 オレは心からの本音を言った。


「正論ベルぅ……」

「言い返せないロス」


 ベルロスが地面に手をつくと、ロスロスが落ち込んだ。

 しかし元気なケルロスが、オレをビシッと指差した。


「人は成長するものだケル!

 今日弱くとも、明日も弱いとは限らないぜケル!」


 それは正しい。

 実際ここがゲームであれば、ケルロスに同意しかない。


「だけど死んだら、そこで『おしまい』だろ?」

「ケルっ」


 心に深く刺さったようだ。

 ケルロスは、何も言えずにカチンと固まる。


「そ、そ……」

「い?」

「それでも連れて行ってほしいケルっ!!」


 ケルロスは土下座してきた。


「弱いことが問題だったら、強くなるケル!

 強くなって役に立つケル!

 だからアタシたちも、連れて行ってほしいケル!」


 ケルロスは地に頭をこすりつけ、懇願してくる。


「どうしてそこまでする?」

「アタシたちは『教官』として、新人の子たちに色々と教えてきた。

 心の底から、正しいことを教えてきたつもりだった。

 先輩から教わった『正しいこと』を、後進にも伝えてきたつもりだった。

 なのに今日、スグルにあっさり負けた。

 そんな間違っていたことを、今まで教えていたのかと思うと……」


 ケルロスは、土下座したまますすり泣く。


「薬草の森を手に入れるぐらいしないと、申し訳が立たないんだ……!」


 ひっく、えっくを嗚咽を漏らし、細々と進める。


「だから……少しでも。

 スグルのお手伝いを……。

 させて……ください…………」


 責任感のある理由であった。

 その姿を見て思い出す。


(ゲームの時から、ドジはするけど仲間を見捨てはしないやつだったな)


 教官となった今は、その感情が責任感として発揮されているのだろう。

 オレはケルロスの肩に手をおいた。


「お前は間違っていない」


 まっすぐに告げる。


「オレのやり方は、百回死んでもおかしくない訓練を前提にしている。

 極めれば強いけど、途中で死ぬ可能性も高いんだ。

『死の回避』を優先して考えるなら、お前の教えもそれほど間違った考えじゃないんだ」


「スグル……」


 ケルロスが、うるんだ瞳でオレを見つめた。


「その上で『オレのやり方』を学びたいなら、全力で教えてもいい」


 オレ以外の『脇役』にも、ゲームの知識を伝える。

 この方針には、大きなメリットとデメリットがある。


 まずはメリット。

 オレ以外の『脇役』が強くなれば、敵の勢力は弱体化できる。

『主人公』が知識を獲得して強くなれば、平和に大きく近づくだろう。


 デメリット。

 ゲーム知識を不用意にバラまくと、『敵』が知る可能性も高まる。


 ゲームの知識を獲得した敵vsゲームの知識を知らない主人公。


 これがヤバい。

 最弱庶民で無双を続けてしまったからこそ、ヤバさがわかる。

 ゲーム序盤の雑魚ボスに、『主人公』が食われる可能性さえ出てくる。


(RRの『主人公キャラ』は、全部で12人。

 そのうちの半分……せめて3人か4人の居場所は、把握してからにしておきたいよな)


 というのが本音だ。

 

 オレは静かに考える。

 技術を教えるメリットと、

 技術を教えるデメリット。


 目の前で両手を地につけ、瞳をうるませる美少女。

 自分の弱さに責任を感じ、土下座してまで教えを乞う少女。


(悩むことはなかったな)


「技術は教える。人に伝えるのは禁止。もしも破った場合には――」


 固唾を飲み込む三人の前で、木剣を構えた。

 オレの首に当てて言う。


「オレが死ぬ」


「そっちがケルぅ?!?!」


「オレは最弱庶民だからな。

 技術を覚えたベルセルクに反攻されたら何もできん」


 ケルロスが持っているジョブ(ベルセルク)は、そのぐらい強い。

(オレが弱いとも言える)


「だからって、死ぬことはないけるぅー!」

「お姉ちゃんが言う通りだぜべるぅ!」

「強くなっても、恩を忘れたりしないロス」


「自分が殺されるより、オレが死ぬほうが辛い。

 そう思ってくれる相手にしか、この技術は教えたくない。

 これはそれほど、大切な技術なんだよ」


 ケルロスが、震えながら手をあげた。


「ケルたちが使っているのを見て真似された場合、どうなるける……?」

「それは仕方ない。悪党だったら速やかに殺せ。悪党以外は、オレに連絡をくれ」


 三人は話し合った。

 そして揃って頭を下げた。


「「「よろしくお願いしまケルベロス!!」」」


 こうしてオレに、三人の弟子ができた。

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