第2話 最弱庶民、襲われている商人を助ける。
「ばあっはっはっはっ!!」
家の中。
オレはエイルと一緒に、家族と夕食を取っていた。
『父さん』が、酒を飲んで笑う。
「すごいじゃないか! 訓練とはいえ、中級剣士のエイル様に勝てるなんて!」
「彼には、独特のナニカが………ある。」
模擬戦が終わったあと。
オレはエイルに再戦を挑まれ、何回も戦った。
そして勝った。
それを見た父さんが、エイルを夕食に誘ったわけだ。
父さんが上機嫌に叫び、弟が続く。
「本当にすごい話だ!」
「兄ちゃん! 今度オレにも教えてよ!!」
みんなはオレを、温かく祝福してくれた。
しかしそれが、やはり寂しい。
(オレを家族と思ってるのは、偽の記憶のおかげなんだよなぁ……。)
母さんが言う。
「エイル様と言えば、生まれながらの中級剣士。
そして剣士なのにB級入りした、『天才剣士』だもんねぇ」
(中級でB級の天才??)
これはおかしい。
下級剣士はFからE。中級剣士はDからCが相場だった。
『B級は上級者の入り口』、『上級職につかないとB級入りは難しい』とも言われていた。
実際ゲームの中のエイルは、D級にあがったばかりだ。
年齢的にそこそこ優秀な部類ではあるのだが、『そこそこ』で止まるのだ。
(なのにこの世界では、B級の天才剣士??)
疑問しか残らない。
そんな疑問を残しつつ、去っていくエイルに手を振った。
『弟』にも剣の基本を軽く教えて、眠りについた。
◆
次の日の早朝。
速やかに起きたオレは、書き置きを残して家を出た。
「この世界には、わからないことが多すぎる。
まずは冒険者ギルドで、情報を集めないと」
スクルド機関は、『最善を尽くせ』と言った。
自分で考えて動くことによって、その行動にやる気と責任を持たせる。
きっと恐らく、そういう意図があるんだろう。
だからオレは動くのだ。
『最善』を尽くす第一歩として冒険者ギルドへと向かい、この世界の情報を集めるのだ。
朝もやのかかった家を見やる。
(オレが去ったら、みんなオレを忘れるんだよな……)
それを思うと、少し寂しい。
村の門に辿りつく。
朝もやのかかった門の端に、背を預けている人がいた。
『姉さん』だった。
「アナタ……ウチの家族じゃないわよね?
ウチの弟は生意気だけど、料理は毎回、『おいしい』って食べていたはずだもの」
オレは思い出す。
オレが料理を作った時、『弟』は『相変わらずうまくない』と言った。
(偽記憶の植え付けは、そんな確固たるものじゃないってわけか)
オレは素直に頭を下げた。
「すいません。もう出ていくから許してください」
「そうじゃないわよ」
『姉さん』は苦笑する。
「アナタはウチの家族じゃないのに、私たちを見て温かそうな顔をしていた。
私にとって、大切なのはそっち」
いったいどういうことだろう?
「あなたが何者かは知らないけど……。すべてが終わったら、また来てもいいわよ?
『本当の家事担当』の私が、料理をごちそうしてあげる」
「どうしてそんな……?」
「ウチの家族を好きな人に、悪い人はいないもの」
『姉さん』は、にっこりと笑った。
温かいものがこみ上げる。
なんということはない。
目の前にいるこの人は、『いい人』なのだ。
(最高の脇役として『主人公』を助け、世界を救う礎になろう)
心からそう思った。
◆
森へと入った。
腰には木剣をぶら下げている。
エイルの金で買ったものだ。
『すごい技、見せてもらった。おれ、い。』
と言ってもらったお金で、購入したのだ。
(本当は、ショートソードを買いたかったんだが……)
重量制限で持てない。
(ゲームでも、『筋力以上の重量の武器は装備できない』とかあったもんなぁ……)
ショートソードの重量は4。
最弱庶民のオレは1。
木剣以上を装備できない。
「木剣が、地球の木刀より強くて軽い素材でよかったよ」
そんなことをつぶやいて、警戒しつつ進む。
この森に出てくるモンスターは、主に三種類。
ぽよん→雑魚
荒ぶるウサギ →雑魚
ファングウルフ→100億回死んだ雑魚。
(最弱庶民でも、プレイヤースキルで勝てる範囲だ)
などと思ったその時だ。
「助けてくれえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」
声がした。
オレは急いで駆け寄った。
馬車が襲われている。
護衛の兵士が三人倒れ、二人が傷を負っている。
(まがりなりにも護衛の兵士を、追いつめているモンスター。いったい……?)
敵を見る。
100億回死んだ雑魚――ファングウルフが三体だった。
ファングウルフの死体もあって、最初は五対五だったことが伺える。
(五対五で、ファングウルフに苦戦していた??)
(ファングウルフに苦戦するとか、よほどの初心者ぐらいだぞ???)
まぁしかし、見過ごせる話ではない。
オレは横手から、ファングウルフの一体に攻撃をしかけた。
ズガンッ!
ファングウルフの弱点に、クリティカルを叩き込む。
ファングウルフは絶命した。
護衛の兵士たちが驚く。
「ファングウルフを、一撃で?!」
「Bランクの剣士様かっ?!」
二体のファングウルフがオレを睨んだ。
オレは二体の足を見た。
飛びかかる仕草が始まるタイミングで、木剣を振る。
(先読みが、最弱庶民の生命線!!)
斬りが入ってクリティカル。
先頭のファングウルフを絶命させて、二体目に払い攻撃。
こめかみ打ってクリティカル。
ファングウルフは絶命した。
(一応初めての実戦だったが、ゲーム感覚でうまくいったな)
ゲームでもっとも殺されている雑魚といえ、勝てたことは素直にうれしい。
これに勝てなければ詰んでいた。
なんて思っていると――。
『『『うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!』』』
歓声があがった。
「すげぇ! すげぇよアンタ!!」
「ファングウルフを一撃なんて、初めて見た!」
「しかもアンタが使ってるの、木剣じゃねぇか!!」
護衛兵がオレを褒め、馬車の奥からポニーテールの少女が出てくる。
「私の命とお父様の積み荷を助けていただき、ありがとうございます!
この恩、一生忘れません!!」
「そんな大袈裟な……」
「大袈裟ではありません! もしもあなたが来てくれなければ、命がなくなっていたところです!!」
大袈裟に褒めた少女は、言葉を続ける。
「それでもしよろしければ、街までご同行いただけると…………」
少女は、慌てて続ける。
「もちろんお礼は、しっかりさせていただきます!!
相場の十倍でいかがでしょうか?!」
「相場通りの額でいいよ」
オレは護衛たちを見やった。
三人はオレを褒めた後、仲間の治療を始めている。
(ファングウルフに負ける初心者しか護衛につけられないとか、相当貧乏な商人だろうしなぁ)
親切心というよりは、良心の問題だ。
「なんと高潔な……!」
少女は両手を重ね合わせて、祈るようにオレを見つめた。
「もしも今後なにかございましたら、お声がけくださいっ!!!」
少女は深く頭を下げる。
自分の行為で人が笑顔になるのは、気分がよかった。
ゲームにはない感動と温かさが、胸の奥に芽生える。
(この世界、やっぱり救っていきたいよな)
心からそう思った。
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