第46話 対峙
夜道をベイルと共に帰っていた。
俺は、ベイルにリコリスが【魔王】であることをばらし、全てを話してしまった、が……、
「グカァ~……グカァ~……!」
ベイルの家の前に辿り着く。
大きないびきを上げるベイルを肩に乗せ。
「信じらんねぇ、かなり重要な話をしていたのに。途中でガチで寝やがった!」
ベイルの家の玄関を開け、乱暴にベイルを放り込むと「グガッ!」とうめき声をあげた。そのまま起きるかと思ったが、また「グ~! グ~!」と寝息を立てて眠り続けたので仕方なく俺は中に入り、ベイルをベッドに連れていくことにした。
「ほら、立てよ」
「んが?」
反応はするが、完全に起きる様子はない。
重たい体を引きずって、奴のベッドにまで持って行く。
それにしても、ベイルの家は驚くほど質素だった。
俺の借りている家よりも小さい、木組みの家。
部屋は一つしかなく、あとは風呂場とトイレが付いているだけの王族が暮らしているとは思えない部屋。
暖炉の上だったり、机の上だったりはベイルの趣味前回の〝魔族〟や魔物の毛皮だったり、骨だったりのレプリカが置いてある。
「お前も、苦労しているのかも、な」
ベイルをベッドに寝かせて、毛布を上からかけてやる。
「じゃあ、な」
ありがとう……。
心の中で礼を言って、ベイルの家を後にする。
話を聞いてもらえただけで、だいぶ楽になった。
「さて」
俺には、やることがある。
【魔王】を探さなければ……、
「あ?」
顔を上げると、目の前に人影があった。
月明かりをバックにたたずむシスター服。
ルカ・ラングだった。
「また、お前かよ……」
「また?」
何の話だと、ルカは首をかしげる。
「いや、別に……さっきは悪かったな。酒場の前で喧嘩してて……驚いたろ?」
「まぁ、いろいろ納得しましたけど」
「納得?」
「ずっと聞いてたんですよ。エルさんとレクスさんの話」
「———ッ!」
こいつにも、バレた⁉
「兄さんに呼ばれてたっスけど……私は教会での仕事があるから、それを終わらせてから宴会に参加しようとしてました。そしたら、その表でお二人が喧嘩してるから……ずっと喧嘩が終わるのを待ってたんですけど……そうしたら全部話聞いちゃって……すんません」
ペコリと頭を下げられる。
「いや、お前が謝ることじゃ……でも、全部聞いたってことは……」
「ええ、聞いちゃいました。奥さんのリコリスさんの、正体……」
「そっか……で、それを聞いたルカはどうするんだ? 通報でもするか? スタンと一緒に、【魔王】を討伐でもするか?」
「そのことで……聞いてほしいことがあるんス」
ルカは、ユノ村警備隊トップの妹は真剣な目で、俺を見据えて———言った。
× × ×
ベイルの家の前でルカと遭遇し、別れ、俺は自分の家へと帰った。
冷たい夜の風で頭が冷える。
玄関の扉に手をかけると、何となくだが、予感がした。
「ああ……」
中に誰かいる。
誰かは———もう、わかっている。
「どこに行ってたんだよ!」
扉をあけ放つ———。
中にいたのは、銀髪と蒼い瞳。
【魔王】———。
彼女は呆れたような瞳を向け、ゆっくりと口を開く。
「どこに行っていたのか……それを尋ねるのは我の方だ。我はずっとこの家にいた」
「あ、あぁ……そうか」
そう言えば、旅館にいって、エル・シエルの歓迎のために奔走して、昨日今日はいろいろと大変でこの家に戻っていなかった。
「そりゃ悪かったな……だけど、この家に戻ってきてくれたってことは、お前はずっとここに居てくれるってことでいいのか?」
「いや、我はもうダメだろう」
彼女はゆっくりと俺に向かって歩み寄る。
「ダメ? ダメって何がだよ。何もダメなんてことは」
「レクス―—――我を殺せ」
「は⁉」
いきなり何を言い出しているのかわからない。
【魔王】はゆっくりとした足取りで俺の横を通り過ぎ、外に出る。
「表に出て始めよう。勇者パーティを追放された【凡人】が、本物の【魔王】を殺すと言う快活な終幕を———」
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