第44話 レクスvsエ……、

 エルと共に酒場の表に出る。

 主役が消えたというのに、酒場の中は相変らず盛り上がっていた。


「宴じゃあ~‼ 宴じゃあ~‼ 何はなくとも、宴じゃあ~~~~~~‼」


 中から声が聞こえる。

 ベイルが頑張ってエルがいなくなったのを気づかれないようにしてくれているのだろう。


「レクス」


 エルが俺に背を向けた状態で、口火を切る。


「どうして、【魔王】と一緒にいたの?」

「…………」

「時間が経って、冷静になって……考えてみたんだけど。やっぱりおかしいよね。何で旅館の部屋で【魔王】と二人きりでいたの? その上さ、誤魔化したよね。妻だって、結婚して、奥さんがいる。【魔王】のことを奥さんだって嘘ついたよね?」

「嘘、ねぇ……」

「嘘なんでしょ?」


 振り返るエル。

 射抜くように俺を睨みつけていた。


「————ね?」


 圧を込めて、確認する。


「まさか、本当に裏切ってるわけじゃないわよね?」

「…………」

「なんでさっきから黙っているの?」


 エルの声に怒気がこもっている。


「ハァ~~~~~~~…………!」


 観念した。

 観念して、大きくため息をはき、頭をガリガリと掻いた。


「その通りだよ。その通りだ! 俺は、この村で【魔王】と暮らしていた。お前たちと別れて直ぐだよ!」

「嘘……」


 エル・シエルの目が————絶望と共に見開かれた。


「でもな、」


光弾レイス


 ドッ————!


 腹部に、衝撃が襲う。


「ガッ————⁉」


 魔法の光弾だった。

 エル・シエルが手をかざし、俺に魔法の攻撃を加えてきたのだ。 

 吹き飛ばされ、木に背中を叩きつけられる。


「ガハッ……! おい、エル……ちょっと待てって……」

「信じらんない! 別れたと思ったら、魔族に寝返っていたなんて……アランを裏切るなんて!」


 カチンッ……!


 その言葉は、流石にないだろう……それを言われたら、怒っていいだろう……!


「そっちが先に裏切ったんだろうがッッッッッ‼」


 怒号を———上げてしまう。


 感情のままに、心の底から湧き上がる感情を————怒りの奔流を抑えきれない。


「いきなり役に立たなくなったから! もう、ついて行けてないからって見捨てたのはそっちが先だろう! 俺は、俺はお前たちの仲間でいたかったのに! 裏切ったのはそっちだ!」

「だからって、【魔王】に寝返るなんて!」

「寝返ってない! あいつも……あいつも、俺と同じ、疲れてこの村に身を寄せてる。それだけなんだ……だから、だから……」


 拳を握りしめ、唇を噛みしめる。


「だから、何?」

「そっとしておいてやってくれ……この村で、あいつを【魔王】なんてしがらみにとらわれないように、何も言わずにこの村を出て行ってくれ……」

「できるわけない!」


 エルの手に魔力の光が再び宿る。


 また、俺に対して攻撃をしようとしている———ッ!


「……ッ!」


 反射的に腰に下げている剣の柄を握ってしまった。 


 抜くのか———?


 俺は、仲間の、【賢者】の、同じ村出身のエル・シエルに対して、武器を向けるのか———?


「レクス……!」


 エルの目に涙がたまっている。


 本当に、裏切ったの⁉


 そう———瞳が語っていた。


「………クソッ」


 戦うしかないのか———、【魔王】を、守るために————。


「……………」



 スタスタスタ……、



「「え?」」


 俺たちの間に、人影が割って入った。


 金髪のシスターだった。


「…………?」


 ルカ……ラング……。


 ペコリ。


 俺たちを交互に見やり、会釈をした。

 この人たちいったい何をしているんだろう、と。全く空気を読んでいな様子で……。

 そして、そのまま俺たちの間を通り過ぎて酒場へと入っていく。


「「……………」」


 間……通るか? 普通。

 通れるか……? 普通。

 ルカは俺たちを止めようと思って間に入ったわけじゃない。

 ただ、酒場に入るためにはどうしても間を通っていかなきゃダメだった。それだけだ。

 一色触発の雰囲気をまるで感じなかったのか、感じることができなかったのか、感じてもどうでもいいと思ったのか。とにかく、ルカは何も考えずに戦おうとしている俺たちの間を通って、酒場の中へと入っていった。

 驚くほどの———空気の読めなさだ。

 おかげで空気が、すっかり弛緩してしまった。


「なに、やろうとしてたんだっけ?」 


 呆けた表情でエルが尋ねる。


「戦おうと……してたんじゃなかったか?」

「ああ、だよね。そうだよね……………………やめよっか」

「そうだな。一応、今日の宴の主役はお前だからな……」

「そうよね……また機会があったときに問い詰めるから」

 

 冷たい目で一瞥し、エルは酒場へと戻っていく。


「機会って……多分すぐに来るだろうな……」


 明日、またエルに詰め寄られると思うと気が滅入る。


「【魔王】……」


 主役が戻り、おお……! と歓声が上がる酒場の声を聴きながら、彼女へと思いを馳せる。

 彼女に会いたくなった。

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