第43話 また開かれる宴
「ようこそ! ユノ村へ歓迎しますよ!」
翌日になり、ユノ村酒場にエル・シエルは招かれる。
スタン中心のユノ村警備隊が大々的に勇者パーティ、エル・シエルの歓迎の宴を開いている。
「ど、どうも……って、こんなに大げさに……」
ユノ村警備隊全員が集まって、どんちゃん騒ぎ。あちらこちらで酒を食らい、大騒ぎをし、音楽隊が音を奏で、それに乗ってさらに騒ぎが大きくなる。
スタンの娘が回復して宴を開いたというのに、一週間も経たずに再び宴を開いている。
「飲めや踊れや! はしゃげやはしゃげ~~~~!」
テーブルの上で大ジョッキのビールを一気飲みして踊り狂うベイル。
ガハハとと笑い、他のユノ村警備隊に「おぉ~……」と尊敬のまなざしを受けながら、ジョッキを空にしている。
「あいつ、関係ないだろ……」
「レクス。この村っていつもこうなの?」
エルが耳打ちする。
若干彼女は引いてた。
「いや……どうだろ」
俺もこの村に辿り着いて一ヶ月程度しか経っていない。ベイルのノリはあんなもんだと理解しているが、まさかスタンまで……。
「いやぁ~……また勇者様ご一行の方が訪れてくれると言うのは嬉しい限りですよ。全くいやはや」
大ジョッキを持ったスタンが俺とエルのテーブルにやって来る。
「ちょっとスタン」
「? なんです?」
こそっとスタンの肩を掴み、隅の方へおいやり、二人きりで話ができるようにする。
「エルが来たぐらいでなんだよこの歓迎ムード」
「仕方がないでしょう? 勇者様のお仲間の一人が来たのだから、これだけやってやらないと。あなたが初めて来たときもしたでしょう?」
確かにアランと一緒にこの村に訪れた時はこのぐらいの規模の歓迎の宴を開いてもらったけれども。
「二度目はなかったぞ?」
「逃げたと思ってたからですよ。ボクだって開きたくはないですよ。この席全部ユノ村警備隊の経費から引かれるんです! いろいろと冬に備えて節約しなければならない時期だっていうのに……」
「じゃあ開くなよ!」
「面子ってもんがあるんですよ!」
「さっきから何をこそこそ話してるの?」
「「!」」
エルがいつの間にか近くに来て、聞き耳を立てていた。
俺とスタンは同時に飛びのき、
「な、何でもないですよ!」
「そうそう! 何でもないんだよ、何でも!」
「なんか、面子がどうとか……」
「あ~あ~……! それよりも!」
スタンは強引に別の話題に切り替えようとする。
「エルさんは何しに、ユノ村に戻ってきたんです?」
「————ッ!」
聞くよなぁ……やっぱりそれ、聞いちゃうよなぁ……。
「ああ、連れ戻しに来たんですよ。レクスを」
「!」
平然と、こともなげに俺を指さして言った。
「お、おお……」
なぜか、スタンが震えている。
「おおおおおおお!」
そして拳を握りしめて……感涙にむせび泣いていた。
「え、何……怖い……」
明らかに、オーバーリアクションだった。
「怖いことがありますか! やっぱり必要だったんですよ! レクスさんは世界を救うために!」
そして、涙をダラダラと流した汚い顔で俺の手を握りしめて、何度も何度も頷いてみせる。
「エル・シエルさん‼ そういうことですよね⁉ やっぱりレクスさんがいないとダメになるという……そういうことですよね⁉」
「え、ええ……」
スタンのリアクションにはエル・シエルはさらにドン引く。
「戻りましょう!」
「え?」
「勇者パーティにです! やはり、レクスさんは【魔王】を倒して全てを救う人です!」
「…………」
【魔王】というワードが出た瞬間に、エルの表情が変わった。
スンと落ち着いた表情に———冷たい表情になり、何も映していないような瞳で虚空を見つめる。
いきなり夢から現実に戻されたような、そんな表情———。
「俺、俺は……」
「あれ、そう言えば……」
スタンは急にきょろきょろとあたりを見渡した。
「奥さんは、どこに?」
おいおいおい……!
このタイミングでそれを言うかね!
「……レクス」
エルに、名を呼ばれる。
そちらへ視線をやると、彼女は満面の笑みを浮かべていた。
「ちょっと外に出て話さない?」
その笑顔には迫力があり、とても逆らえるような雰囲気ではなかった。
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