第22話 行こう

「そんな花……本当に存在するのか?」

「わっかんね。だけど、俺はあると信じてる。何故なら……」

「何故なら?」

「俺が魔族と結婚したいと思っているからだ!」


 根拠なし。

 ガクッと肩が落ちた。

 テンションが下がる俺たちを気にも留めず、ベイルは拳を突き上げ、


「俺は思ったね。待っててもダメだって、だから会いに行く。俺自身が魔族となり、魔界に行って運命の魔族の女の子と出会い……あっちでハーレムを築くのだ!」

「ハーレムって……一人に絞れよ」

「俺の愛は一人に収まりきらないのだ」

「最低だ……こいつ」


 段々とロッテが呆れた態度を取る気持ちがわかってきたような気がした。


「……リコリス?」


 気が付けば、【魔王】は『黄昏の花』のページを食い入るように見ていた。


「何か気になることでもあったのか?」

「いや……別に」


 そうは言いながらも、しっかりと古文書を掴み上げ、ペラペラとページをめくる。

 完全に夢中になっていた。

 まぁ、【魔王】だし、学はあるだろうし、何かしら興味がそそられる個所もあったのだろう。


「で、これを探して欲しいってことか?」

「そういうこと。報酬は弾むよ? だって俺、王族だもん」


 胸を張るベイルだが、何となく不安になった。


「お前のあだ名、追放王子だろ?」

「ギクッ!」

「親から勘当状態のお前に、そんなに高い報酬が払えるのか?」

「まぁ……親父から生活費程度は貰ってるし、そこそこは払えるよ?」

「そうなのか?」


 ロッテにベイルの話は本当なのかを視線で問いかける。 

 ロッテは首を横に振った。


「お金を貰っているのは多分本当ですよ? ユノ村で一番大きな屋敷に住んでいらっしゃいますし。でも、ベイルさんは金遣いが荒くて……使用人に払えるお金もなくなって、そこに一人で住む羽目になっているんです」

「そうか。じゃあ依頼は受けられないな」


 ダメ人間の依頼を受けても、一銭の特にもならない。


「…………仕方がない。お前がそうまでいうんだったら、俺の秘蔵のコレクションの〝人魚の鱗〟を渡そう! それか〝ユニコーンのたてがみ〟でもいい!」

「コレクションって……もしかして、お前金のない原因はそれか? そんなものばかり買い漁っているから、親の仕送り亡くなっているんじゃないのか?」

「てへ☆」

「可愛くないんだよ!」


 パァンと今度は頭を思いっきりはたいてしまった。


「イッタィ! 何、王族に対して気楽に暴行を振るっているの⁉ 死罪よ? これ普通なら死罪よ⁉」

「うるせぇ! 勘当されておきながら親のすねをかじって、挙句の果てにはその金を趣味に使いやがって! そんな恩知らずは殴られて当然だ!」

「おっと、物理で殴った上に正論まで……どっちかっていうと、そっちを止めて、正論で殴られる方が心にきく……」


 胸を押さえ、落ち込む様子のベイル。


「とにかく、別に依頼を受けるのは構わないが、それ相応の報酬を用意してもらわないと」

「じゃあ〝人魚の鱗〟でいいじゃん。マニア相手に高く売れるよ?」

「そういったコレクションは普通の人にはイマイチ価値がわからないから、売れるかどうかわからないの。この村だと下手すればお前しか価値がわからないかもしれないし」


 俺はしばらくこの村を出るつもりはない。だから、そんなマニアックなものを報酬とされても困る。

 だから、その依頼は断ろうと思った。その時だった。


「受けよう。この依頼」


 【魔王】が口を挟んだ。


「受けるって、ほぼ報酬なしの依頼だぞ?」


 何を言っているんだ。冗談かと思い、彼女を見みるが、彼女の表情は真剣そのものだった。

 古文書は開いたまま、顔を上げ俺たちを睥睨へいげいし、


「かまわない。たとえ旦那様、お前が探しに行かないと言っても、私は行く。私はこの『黄昏の花』を探しに行く」

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