第23話 なぜかやる気の魔王様

 『黄昏の花』を探すために俺たちは準備を整えて森へと入った。

 【魔王】とロッテと俺……そして、


「なんでお前まで来るんだ?」


 なぜか、ベイルも一緒に着いてきていた。


「いいじゃ~ん。楽しそうだし。それに、俺がいなきゃ『黄昏の花』正確な位置はわからないでしょ?」

「一応来る前にロッテに場所を教えていたじゃないか」


 ここら辺の地理には俺は詳しくない。

 だから、ロッテに場所を伝えるように言ったので、ロッテが把握しているはずだが、


「大体の場所はわかるだろうけど、どういう場所に生えて、どういった場所が探しやすいとか、そういうのは古文書を読める俺しかわからないじゃない」

「でも、なるべくはついてこない方がいいですよ。これから行くメリダ渓谷は本当に危ない場所ですから」

「メリダ渓谷? そういう名前の場所なのか?」

「はい。レッカ火山の西の方向にある険しい渓谷で、足場も不安定で危ないんですけど、何よりハーピィがたくさん出てくるんですよ。ハーピィは見かけは人間に近くて魔族に見えるんですけど、その実肉食の魔物で弱い人なら頭からバリバリ食べられちゃうんですよ」


「ムフ」


 ベイルがにんまりと笑った。


「何笑ってんだよ。不気味だなぁ」

「いや、そのね。いや、そのね」

「そのねしか言ってないけど……え、何? マジで何?」


 ロッテがジト目でベイルを見つめる。


「ハーピィって女の人の腕が翼になっているだけの魔物で、要は裸なんですよ」


 つまり、見かけがちょっとエッチだと言うだけだ。


「そんな魔物を見たいと思ってついて行こうとしていたのか⁉」


 不埒にもほどがある。


「ちなみにこんなものもある」


 悪臭を放つ黒いドロッとした液体が入った瓶を懐から取り出す。


「うわっ、なんだそれ⁉」


 蓋が閉じられていると言うのに、鼻をつく非常に不愉快な刺激臭だ。


「ハーピィ避けですか? だったら助かるんですけど」


 ロッテが、たまにはいいところを見せるじゃないかと感心した顔でベイルを見つめるが、


「いんや。ハーピィ寄せ。できれば捕まえてほしいんだよね!」


 ロッテはベイルの手から瓶を奪い取り、思いっきり地面に叩きつけた。


「あ~……! 何すんだよ、コカトリスの羽とかケルベロスのフンとか貴重な素材を混ぜて作ったんだぞ!」


 パリンと音を立てて割れるハーピィ寄せの薬。


「いいからお前もう帰れよ。こっから先は危ないぞ。ロッテもいるし、今日絶対に見つけなきゃいけないってもんでもないんだし。見つからなかったらまた来れば」

「ダメだ」


 否定は意外なところから来た。


 【魔王】だ。


「『黄昏の花』は今日、私たちが見つける。これは決定事項だ」

「……? どうしていきなりそんなやる気に?」

「いいから、見つけるんだ」


 【魔王】はそう言い切ると、俺たちを放っておきズンズン森の奥へと進んでいく。


「おい、待てって……リコリス!」


 急ぎ足で【魔王】に追いつく。


「どういうことだ? どうしてそんなに『黄昏の花』見つけたがる⁉」

「…………」

「おい、無視すんな」

「いいじゃん、いいじゃん!」


 いつの間にか隣に追いついてきた、ベイルが嬉しそうにスキップしている。


「奥さんがやる気満々なんでしょ? それに目的も同じ。なら、今日、直ぐに、見つけるしかないじゃない『黄昏の花』を!」

「………」


 全く。

 理由はわからない。だが、【魔王】がやる気になってしまったおかげでベイルが調子づき、結局俺たちは『黄昏の花』さがしをする羽目になった。


「さ~どんどん行こう! ついでに捕まえられるだけ魔物を捕まえよう! モンスターハンターだ! 目指せ、モンスターマスター!」


 一人、余計な人間を連れて……。

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