第21話 ベイルの依頼

「とにかく、ベイルさん。それを食べたら帰ってくれますか?」


 変わらず、ロッテのベイルに対しては冷たい。ジト目で一刻も早く帰ってほしいというオーラを全身から迸らせている。


「あ~ん、冷たい態度。王族よ? 俺、王族よ?」

「さっきそういうのは嫌だって言ってなかったか?」

「別に嫌とは言ってな~い。そういう扱いはしなくていいって言っただけで~……それに、用がなくはなくはないんだよね」

「どっちだよ……」


 妙につかみどころがないベイルは、まだ食べ物が乗った皿を横にどけ、一冊の本を置き、広げる。


「古文書?」


 それは、古代語で書かれた古い本だった。紙が日焼けした独特の匂いが鼻につく。

 ベイルは広げたページのある一斉を指さし、


「ここを読んでくれ」

「読めん」


 古代語なんて元村人が読めるわけない。


「え~、学がないなぁ、まった」


 バキッ!


「うるせぇよ。お前みたいにみんながみんな教育を受けてるわけじゃな……あ」


 ……なんてことをしてるんだ俺は!


 気が付いたら、ベイルの頬を殴っていた。

 本当に力を込めておらず、軽い突っ込みのつもりで殴ったが、ベイルは王族。普通に国家反逆罪が適用される罪だ。


「殴ったね! 親父にも殴られたことがないのに! もう、衛兵呼んで逮捕してもらうわよ!」

「なんでオカマ口調なんだよ! いいから話を進めろ!」

「あ、え~っとですねぇ……」


 ベイルは、先ほどのことが何もなかったかのように、古文書に目を落とした。


 あれ? 

 こんなノリでいいの?


 思わずまた突っ込んでしまったけど……ベイルは気にしてない様子だし、ロッテも気にしていない……というか、全く興味がなさそうに食べ物がなくなった皿を片付けている。

 【魔王】も、当然気にしていない様子だし……、


「あぁ……」


 思わず、感嘆のため息というものが出た。

 何だか居心地が良かった。


「何よ。ため息何て出したら幸せが逃げるわよ?」

「だから、何でオカマくちょ……まぁいいや。話進めて」

「俺、探し物があるんだよね」


 ベイルが指し示していたページには、挿絵が付いていた。


「花?」


 色がついてないので、よくわからないが、普通のユリに似た花の絵だった。


「こんな普通そうな花がどうしたんだよ?」

「これを一緒に探して欲しいんだよね」

「花を? 何で? 誰かにプレゼントするのか?」

「お相手の魔族がまだいない俺に、そんな悲しい質問しないでよぉ~……違うって、まぁ、言うならその相手を探すために必要なものかな」

「探すため?」


 俺がチラリとベイルを見上げると、よく聞いてくれましたと言わんばかりに満面の笑みを浮かべていた。


「俺はさ。このユノ村にしばらくい続けたけど、魔族の女の子が村に来てくれるってことはなかったわけよ。そこの奥さんを除いて。魔界に一番近い村だって言っても所詮はその程度の遭遇率! 俺は落胆したね。だから、自分から愛に行かなきゃダメだと思ってね。魔界に行くことにしたんだ」

「行けよ」

「お~う! 冷たぁ~い! そういうわけにはいかないでしょ? 俺は剣も魔法もろくに使えない王族よ? 魔界になんか入って言ったら即・ジ・エンドでしょ?」


 親指で首をカッ切るジェスチャーをする。


「まぁ、普通にそうなるだろうが……それが、この花とどうつながるんだ?」

「この花は『黄昏の花』って言う伝説の花でね。魔力溢れる魔界と、魔力の薄いこちら側———昔は人間界って呼んでたらしいけど、その境目に生えているって話らしい。で、こっからが本題なんだけど、この花の蜜にはある効能があるって話だ。それを俺は求めてやまないわけ」

「で、効能って?」


「〝魔族化〟」


「「————ッ!」」

 馬鹿なと思い、反応してしまったが、【魔王】も反応していた。

 俺たちの驚愕の反応は、ベイルが求めていたモノだったらしく、ニコニコと笑っている。


「『黄昏の花』の蜜を飲むと、人間は魔族になる。この本にはそう書いてある」

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