第15話 戦闘
「わわわわ……! 丁度眠りが浅い時に来てしまったみたいですっ……!」
後ろからロッテの声がするが、そんな時に案内するんじゃないと突っ込みを入れたい。
だが、目の前の巨大熊から一瞬でも目を逸らしたら、命はないだろう。
とりあえず———、
「ん?」
デスグリズリーを睨みつけたまま、【魔王】を右腕で後方へ追いやった。俺が先頭に立ち【魔王】をかばう形だ。
「【魔王】なんだから、本気を出せば楽勝だろう。だけど、ロッテがいる前でお前は力を見せられないだろう。だから、下がってろ」
腰に下げた剣を抜き、デスグリズリーへと構える。
「フ———」
「何だよ。何で鼻で笑った」
「自信がない、ようなことを言っておいて、その時になったらしっかりと戦う男の顔になったもんだから嬉しくてな」
「何だよそれ。馬鹿にしてるのか?」
「喜んでいるのだ。それよりも———来るぞ」
ゴオオオオオオオオオッッッ………!
雄たけびを上げて、デスグリズリーが巨大な爪を振り下ろす。
「ガッ……!」
ギィィィン、と響き渡る金属音。
防いだ。
何とか、一撃目は———防いだ。
爪を剣で受け止め、全身の筋肉を使って、衝撃をある程度受け流し、デスグリズリーの振り下ろしの勢いがある程度殺しきれたところで弾く。
それでも手がびりびりとしびれ、少し体が吹き飛ばされた……が、
「この程度なら、何とか、受けきれる———」
通常攻撃。
デスグリズリーの繰り出す攻撃が爪……あるいは、牙による単純な攻撃ならしのぎ切り、隙を見つけて反撃に出るのは可能だ。
大型の魔物の行動パターンはある程度は把握しているし、それによって生まれる隙もある程度は想定できている。
今の一撃でデスグリズリーの実力はわかった。
負ける相手じゃない。
だが————、
ガァン……! ガァンッ……‼
二撃目、三撃目と再び攻撃が襲い掛かり、難なく剣で攻撃を受けきり、
「ここだろう、なッッ!」
三撃目の防御の際、強めに、全力の力を込めて押し返す。
ゴオッ………!
のけぞった。
今だ————ッ!
一気に駆け寄り、開いた右わきに渾身の剣撃を叩きこむ————!
ギィィィィン!
「————ダメか」
弾かれた。
頑丈な体毛に阻まれ、剣が肉まで到達しなかった。
俺が切りつけた場所は、右わき。爪の攻撃が弾かれて、のけぞり、がら空きになった場所だ。
その右わきに、薄い緑の光で波紋が走っている。
魔法の光だ。
デスグリズリーの体毛は単純に頑丈なわけじゃない。体毛の一本一本に魔力が通い、魔法の力によって物理攻撃に対する耐性を上げているのだ。
単純に硬くなっている……防御力が上がっているわけではない。
バリア————そう、いわゆる「魔法による拒絶の壁」という例えが一番近い。
『物理無効スキル』というのは、常に全身が物理的に固くなっているのではなく、攻撃を受けた個所だけ、物理的な衝撃を受け付けない魔法の壁を作る———そういったスキルだ。
そうでないと四六時中全身が物理攻撃を受け付けない鋼の肉体となり、関節部分が曲がらなかったり、温度や風などから感じる周囲の情報なども感じ取れなくなってしまう。
魔物だって生物だ。常に鉄のような鉱物ではいられない。多少は柔らかさがないと異常が生まれてしまう。
魔法による拒絶の壁は無意識で、攻撃箇所を感知し、そこにピンポイントで壁を生み出す。
だが、それはあくまで通常の物理攻撃に対しての壁であって、魔力が込められた攻撃ならば、物理無効の壁を突破し、デスグリズリーを倒すことができる。
「ま、俺には無理なんだけどな……クソッ!」
ゴオオオオオオオオオッ!
四撃目、五撃目、次々とデスグリズリーの攻撃が襲い掛かり、段々と攻撃は苛烈さを増していく。
爪の攻撃だけではなく、蹴りだったり、突進だったりの攻撃が繰り出され、そのたびに俺は剣で受け流したり、躱したりするが、こちらの攻撃が全く通らないのでは、体力が一方的に減り、じり貧になっていく。
どうした————ものかな……。
「まだだ!」
勝つのを諦め、どうにか逃げる策を考えていると、突然後ろの【魔王】が声を上げた。
「何だ⁉」
そちらを見ている余裕はない。
デスグリズリーの声をさばきながら、声だけを飛ばす。
「奴が最大の攻撃を吐く。その時まで待て!」
「何の話をしている⁉」
「来るぞ! 今だ!」
だから、何がだよ⁉
心の中で【魔王】に疑問をぶつけながらも、俺の視界の中ではすでにその答えを得ている。
デスグリズリーの口の端から火炎が漏れ出ている。
ブレスだ。
火炎ブレスが来る————!
「逃げるしか————!」
ない。
【凡人】の俺は魔法耐性が低い。
魔物が生み出す火炎ブレスなんて少しでも食らえば致命傷に……違いない!
かかとで地面を勢いよく蹴り、後方へ下がろうとした———その時だった。
「逃げるな! 今が勝機だ! 立ち向かえ!」
【魔王】に、止められた。
立ち向かえって言ったって……!
正面から受けたら、死ぬ————!
「あ—————」
迷った。
迷ってしまった。
結果、火炎ブレスから逃げるタイミングを失ってしまった。
魔法の業火が迫りくるが、もう……俺がこの場から飛びのく速度よりも炎が辿り着く方が速い。
死んだ————。
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