第11話 警備隊ルーキーの少女・ロッテ
まだ、この村のことも知らないでしょうし、ギルドに所属を無理強いするつもりはありません。
そう、スタンは言った。
この村や他のギルドを見て、時間をかけて判断すればいい————とも。
優しさか、試されているのか。とにかく俺は猶予を貰った。
「とにかくヒカリダケというのを取ればいいんだな?」
フードを被った【魔王】が木の根を見ながら俺に問いかける。
【ランク1依頼———ヒカリダケを三十株採取する】
それがこの村に来て最初に俺が受けた依頼だった。
依頼ランクはその土地で難易度が変わる。その土地に住んでいる者が誰でもできそうな難易度で数字が設定されるので、ユノ村と俺の故郷の村とでは周囲に住んでいる魔物の強さが違うのでランク1と言っても危険度が天地ほどの差がある。
今回受けたのは採取依頼だが、ここいらに生息しているヒネズミウルフやフレアリザードなどの炎属性魔物はすばしっこく攻撃力が高い。熟練の冒険者でないと即死してしまうレベルだ。
「まぁ、最初はランク1ぐらいでいいだろう」
あんまり難しい依頼をいきなり受けて、痛い目は見たくない。
頑張ってください……ああ、そうそうはじめのうちはわからないことが多いでしょうからウチの警備隊から一人、助手を付けます。困ったことがあったらその子に聞いてください。そう……最後にスタンは付け加えて、俺の依頼申し込みを受領した。
「警備隊からの助手、か」
要は、見張りだ。
どういうわけだか知らないが、俺と【魔王】はギルドの連中にえらく警戒されている。流石に【魔王】の正体がバレているからとは思いたくないが、見張りをつけられるほど警戒される理由は知りたい。
助手のことを「子」とスタンは言っていたので恐らく警備隊の中でもルーキーの方だろう。
その助手とは、この依頼中に合流することになっているが、具体的にどこで合流するとか場所は聞いていない。
「まぁ、依頼内容は知っているだろうし、先に言っているだろう。【魔王】、行こうか」
森に向かって歩く。
村との境目で退屈そうにしていた【魔王】に声をかけると、無言でうなずき俺の後に続く。
「そういえば、【魔王】ってレベルは何なんだ?」
ユノ村に隣接している深い森。
俺たちはそこに入り、ヒカリダケを探していた。そんな折、世間話的な感じで俺は話題を振った。
「……レベル?」
【魔王】が眉を顰める。
「ああ、流石に高いと思うけど、炎の魔神イフリートはレベル70だったんだから」
「レベルってなんだ?」
「そこからか……え、全く知らないの?」
「知らん、そんな人間の価値観など」
さすがは【魔王】……。
ポリポリと後頭部を掻き、
「レベルっていうのはそいつの強さの指標だよ。
「強さの指標……ちなみにお前はいくつなんだ?」
「俺? 俺は80だよ」
「それは、強いのか?」
「まぁ、数字だけで見るとそこら辺の冒険者よりは上だな……ただ、レベルっていうのはその人が何時間訓練を積んできたか、っていう時間の指針みたいなもので、レベルが高いからって強いわけじゃない。訓練を積めばレベルは上がるけど、持ってる【才能】によって同じレベルでも強さが全く違ったりもする。俺は、レベルが高くても【才能】がないから持ってるやつに比べるとステータスが低いんだよ」
本当にそれがコンプレックスだった。
「そうなのか」
【魔王】は心底興味がなさそうにヒカリダケ探索に戻り、足元を見ながらフラフラと歩き始めた。
まぁ、そうだよな。
その程度の興味しかないよな、【凡人】が努力した証しなんて、何にも知らない奴が聞いても、その程度で終わるよな。
ステータスの低いレベル80。
【才能】のない哀れな【凡人】のあがきの証し。それでも、俺が必死こいて周りに負けないように頑張った証でもある。
だが、なんだか、その【魔王】のリアクションで本当に全部無駄になったんだとわからせられたようで……悲しい。
「レベル80って本当ですか⁉」
びっくりした。
聞き覚えのない甲高い声が近くで響いた。
「———え、誰?」
声のする方を振り向いてみたら、そこにはベレー帽をかぶった女の子がいた。
緑のベレー帽に鳥の羽飾りをつけたあどけなさの残る顔立ちの少女。
表情を引き締め、ビシッと敬礼をする。
「ユノ村警備隊第十番隊員・ロッテ・メッサーラです! 元勇者様ご一行の一員であるレクス・フィラリア殿の助手を務めさせていただくことになりました! 未熟ながら宜しくお願いします! レクス殿!」
そして、敬礼の姿勢のまま、満面の笑みを浮かべた。
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