第10話 なんで、喧嘩を売るの?
青年———スタン・ラングが口の端を釣り上げて、一礼をする。
「ああ……そうですか。俺はこの村で狩りをして過ごそうと思っています。それで、この村のギルドを仕切るあなたに一度ご挨拶を、と」
神はいない……。
あまりこの男は好きになれそうにない。
何だか敵対心をむき出しにしているような気がするし、言葉やしぐさがいちいち厭味ったらしい。
この青年、スタンと何かあるたびにいちいち顔を会わせないといけないと思うと気が滅入る。
「そうでしょうねぇ。わかりました。初めての環境でいろいろ戸惑うことがあるでしょう。この街の狩人は基本的にギルドに所属しています。ですので、ぜひレクスさんにはギルドに所属して欲しいのですが……」
「————ッ」
まぁ、そう言われるだろうなとは思ったが、できればまだギルドには所属したくない。
郷に入っては郷に従えと言う言葉があるが、まだその環境がどんなところなのか全然情報がない状態だ。下手に入ると痛い目を見る可能性がある。
まだ、まだ様子見をしたい。
「ギルドなど必要ない」
「———え」
【魔王】が口を出してきた。
「こいつは【凡人】だが、どんなものよりも才能がある。貴様ら凡夫とは違う。我らは我らの道を行く。今日は同じ郷で過ごす者に一言挨拶に来ただけだ」
————ちょ!
「馬鹿……っ! お前何てことを……!」
いきなり無礼なことを言いだす【魔王】の口を慌てて塞ぐ。
モガモガと抵抗する【魔王】。最凶の魔の王だけあって力が強く、段々と引きはがされてしまう。
「プハッ……レクス。お前もお前だ。いつまでこんなところで時間を無駄にするつもりだ。今のボスに一言挨拶をしたのだからもういいだろう。帰るぞ」
「そういうわけにはいかないんだよ!」
「今の、ボス。とはどういう意味です? フィラリア婦人」
笑顔を張り付けたスタンが、【魔王】に問いかける。
涼しい顔をしているが、絶対に内心怒っている。部下の目の前でこんな無礼な口を利かれているのだから。
現に、【魔王】が口出しをしてから、フロア全体にピリピリした空気が流れ始めた。
そんな空気を【魔王】は全く関知していないようで、ニッと笑った。
「そんなことわかりきっている。こいつはここにいる誰よりも強い。お前が偉そうにふんぞり返っていられるのも今のうちだと言うわけだ」
ざわっ。
再び、二階が騒めきに包まれた。
そして、スタン・ラングは笑顔を全く崩さず、
「面白い奥様ですね。レクス・フィラリアさん。これからの生活が楽しくなりそうですよ」
俺に向かって、そう言った。
【魔王】も笑みを浮かべている。不敵な笑みを。自分たちこそが最強で誰にも文句を言わせないと言うような、唯我独尊な性格をしているというのが一発でわかる表情だ。
「……なんで、喧嘩売るのよ」
誰にも聞こえないよう、小さくつぶやいてうなだれた。
【
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