第5話 「なら、我も一緒に諦めよう」
「お前は、ここで何をしている」
「は?」
【魔王】が話しかけてきた。
初めて聞く【魔王】の声はハープの音色のように綺麗に響いていた。
ってそんなことはどうでもいい。
「何をしているって……」
こっちのセリフだ。
俺たちをボコボコにして、魔王城に帰ったと思っていたのに。何でこんな近くの温泉の村で、わざわざ不法侵入までして、家の風呂に入っているのか。
意味不明だ。
「
「は?」
こいつ、一人称我かよ。メチャクチャ綺麗で少女のような外見をしているくせに、話す口調はオッサンみたいだ。
……また、どうでもいいことに思考回路を裂いているな。
「我は、お前になら殺されてもいいと思っていたのに。こんなところで一体何をしているのだ?」
「…………ん?」
というか、さっきからこの魔王は何を言っているのだ。
なんか、俺のことを因縁の相手か何かだと思っているかのような、そんな感じのことを言っている。
「何で、お前に責められなきゃいけないんだよ。俺は【魔王】。お前のせいでアランたちと旅できなくなったんだぞ?」
「我のせい?」
「お前にボコボコにされたから。戦力を洗練するために足手まといの俺はクビになった。なんの才能も持っていない【凡人】の俺は魔法も使えなければ、才能持ちにどんどん能力も抜かれて……勇者パーティにふさわしくなくなった。まぁ、その事実は前々から気が付いてたけど。【魔王】と戦って、対面してその事実に向き合わざるを得なくなった。だから、役立たずの俺はクビにされた。お前のせいで」
殺されるかもしれんな。こんな生意気な口をきいて。
【魔王】がその気になれば、俺一人どころか、ユノ村を一瞬で滅ぼせるほどの力は持っているだろう。だから、慎重に、【魔王】が癇癪を起さないように言葉を選ぶべきだったのかもしれないが、段々感情が溢れてきて止まらなくなってしまった。ごめんオットーさん。ユノ村が滅んだら俺のせいだ。
「そうか、お前は自分のことをそう思い込んでいるのだな」
「思い込むも何も【凡人】だよ。俺はそれ以上も以下でもない。本来なら勇者一行なんかに加われずに、ただの村人で一生を終えるはずだった。ここまで来たのが奇跡みたいなもんだ。ただ、勇者の家の隣に住んでいた。それだけだったんだよ」
「お前は、全てを諦めるのだな」
嫌なことを聞いてくる奴だ。
「そうだよ。俺は諦める。【凡人】としてこの村で一生を過ごすよ」
改めて言葉にすると、ものすごく悔しい。涙が出そうになる。
「なら、我も一緒に諦めよう」
「は?」
この【魔王】は唐突に何を言い出しているのだ?
「おい、諦めるって……何をだ?」
「世界征服。人類を滅ぼす。この世界を魔族の世界にする。そういった全てをだ」
「……待て待て待て待て!」
いきなり何を言い出しているんだ? 頭を抱えたくなる。
「……とりあえず、服を着ろ」
湯船に入っている【魔王】とでは真面目な話なんてできない。
どこ見ていいかわからないし、何より目に毒だ。
それほど彼女の裸はエロかった。
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