第2話

 目を開けるといつも通りの光景だった。


「なあ?さっきのはなにかな?」

「転移したんですよ!あっ、その顔は信じてませんね!?だったら外見てくださいよ!」


 俺は言われた通りに窓越しに外の景色を見る。


 木造、あるいはレンガ造りの街並みを頭にモフモフのケモミミをつけた獣人や耳の尖ったエルフの女の子がアスファルトではなくレンガが敷き詰められた道を歩いていた。


「これが……異世界ってやつか」

「ですです♪やっと信用してくれたみたいですね」

「疑ってすまんな。ところで女神、ひとつ気になることがあってだな」

「なんですか?」

「店舗ごとこの世界に転移したってことでいいんだよな?」

「そうですね」

「じゃあ俺がいた世界ではこのコンビニはどうなってるんだ!?」

「ご安心を!バイト全員がバックれたせいで潰れたということにしました!」


 ……バックれた方が悪いけどどうなってるんだろうな?アイツら。まだ学生の人もいるのに。まっ、いっか。しかし、そんなことを既にやっているとは流石女神を名乗るだけはあるな。


 さて、これからこの世界でのコンビニ開店に向けて動き出さなければ。


「まずは人員確保をしなければならないが……予算がないな?」

「ご安心を!私のポケットマネーから出しますよ!」

「ちなみに資金ってどれぐらいある?」

「大国の国家予算ぐらいですかね……って!?あれ!?どうしましたか雷牙さん!?」


 女神だからなんでもアリ、だからもう驚かない。そう思っていたが、どうやら無理そうだ。


 ※


 総合ギルド、通称ギルド。女神曰く、昔は色々と分裂していたらしいが効率化及び事務的ミスを防ぐために融合したのだとか。


「お店を始めるのですね?人員がいないということなのでまずは人員確保ですね。人員がいなければ営業許可はおりませんので。では、この書類に求める人材、時給などをあちらのテーブルでご記入の上持ってきてください」


 というわけで相談しながらやっているのだが。


「何故朝と夜とでは時給を違うくするのですか?それだと平等ではありませんよ?」

「夜は割増手当がつくんだ。まあ、心身の負担が大きいからな。こればっかりはしょうがない」

「なるほど。これも一種の平等なのでしょう」


「制服の支給ですか?いりませんよ。コンビニは軍隊ではありませんよ?」

「これはユニフォームと言ってだな、このコンビニの一員であることを証明するためのものなんだ。それに、お客様と区別がぱっと見でできるだろ?」

「ふーん、まあいいです」


 俺の世界の認識とこの世界の認識にギャプがあり、ひとつひとつ見直しながら決めているため、めちゃくちゃ時間がかかっている。


 でも、たしかに俺も薄々いらんだろこんなものというルールがあったのでこれを機に無くせればなと。


「コンビニの廃棄は以前は捨てていたようですが持ち帰っていいことにしましょう!」

「だな、捨てるのはもったいないし」

「よしっ!」

「……言っておくが、店員優先だからな?」


 女神がシナシナになったのは言うまでもない。


 ※


 あとは俺の名前と女神の——。


「おい女神。名前は?」

「ないですよ?女神は女神なので。だから言ったじゃないですか。様はいらないですよと」

「んじゃ、勝手に決めるぞ」

「いいですけど……可愛い名前にしてくださいね?可愛くなかったらやり直しですよ」


 そんなこと言われてもなぁ……あっ!


「ディアなんてどうだろう?」

「ディア?いいですね!」


 俺は書類に記入して窓口に提出した。

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