エピローグ⑥:彼女たちと共に
「貴様!
「ミルダ!」
誰もが驚く中、いの一番に叫んだのはミルダ王女だった。
予想外だったのか。思わずザイードが窘めようとするけど、彼女は収まりはしなかった。
「あの時どれだけ
「ミルダ! 止めよ! お前にも話したではないか。カズトは仲間と共に──」
「関係ありません! 兄上が
ザイードの苦言にもしっかりと言葉を返す彼女に、周囲も思わず静かになる。
……まあ、ミルダ王女がそんな不満を持っているとは思ってた。
だってあの子はまだ十二、三歳くらいなんだぞ。
だから、あそこであれだけ必死に助けを求めたし、あの時すごく怖かったはずなんだ。
それでもこの場に至るまで、その思いを堪え、我慢してくれただけ凄い子だよ。
これがきっと、ミルディック王とミストリア女王の血筋なんだろう。
そして、だからこそ俺は自分を認められないんだ。
みんなと共に頑張って、Lランクっていう評価を得られた事は嬉しい。
けど、結局あの時だって、ディアやワースが現れてくれて、ロミナ達が助けてくれたからこそ、彼女を助けられただけ。
俺自身、まだまだ実力が足りてないのは変わらないから。
「ミルダ王女」
俺はすっと立ち上がると、彼女に向き直る。
「その節は、俺の実力不足で、怖い思いをさせてしまい、大変申し訳ございません」
そして、はっきりと己の非を認め、頭を下げた。
予想しなかった反応なのか。彼女は大きく目を見開いている。
「今回、とても辛い想いをされたと思います。その気持ちから俺の不甲斐なさを責めるのも最も。ですから、俺のことは好きだなけ非難してもらって構いません。その代わり、できればあなたが味わった苦しみを、この国を支える国民達が味わうことのないよう、ミストリア女王やザイード王子、そして仕えし者たちと共に、力を尽くしてください。お願いします」
俺がそこまで言い切ると。
「ふ、ふん。そんな事はわかっておる」
彼女はむっとしつつ、視線を泳がせる。
けど、それ以上俺を責める言葉は口にしなかった。
未だ沈黙する謁見の間で、俺は改めてミストリア女王に向き直る。
「女王陛下。あなたを始め、各国が俺なんかをLランクと認めてくださった事は、本当に嬉しいし有り難いお話です。でも、俺自身が今回の件で納得できる戦いができたかといえば、それは別です。俺が王女を助けられたのは、仲間達の尽力があったからこそ。結局俺一人では成せなかったことです。こうやって王女に心の傷を負わせてしまった事もまた、俺の実力不足であり俺の責任。だからこそ、今回はお断りさせてください。もし、また何時かミルダ王女が同じような危機を迎えた時、俺ひとりでも彼女を無事助けられるよう、精進致しますので」
「まさか……カズト……貴様は……」
ザイードが唖然とした声をあげる。
そんな声を出されるような話をしたつもりはなかったから、何か変なことを言ったか心配にはなったけど、敢えてそれにツッコミはしなかった。
「良いのか? 早々このような機会はないが」
そんなミストリア女王の念押しにも、俺はしっかりと頷く。
「はい。元々俺の仲間は、俺のランクなんて気にせずパーティーに加えてくれたんです。彼女達は、俺がどんなランクにあっても気にしないでしょう。それに、俺は別に、今回ランクを上げたくって女王の申し出を受入れたんじゃありません。ミコラの故郷であるこのフィラべを救う力になりたい。そう思っただけですから」
俺の返事に、彼女はふっと目を細めると、小さくため息を漏らす。
「……まったく。ダラムの言う通り、
「まあ、それでダラム王にも色々ご迷惑をお掛けしたので」
「そうか。まあよい。では、いずれまた
「えっと……俺が納得できる形であれば、是非」
「よろしい。では、皆の者。我が国を救いしLランクの聖勇女一行。そして、Lランクとならずとも、英雄となりしカズトに、盛大な拍手を」
俺とミストリア女王のやりとりを終えると、周囲から多くの拍手が聞こえた。
ザイードやヴァルクさんやロドルさんも。他の兵士達もまた、笑顔で俺達を称えてくれた。
ミルダ王女もまた、気まずそうな顔をしながらも、ゆっくりと拍手してくれる。
それには申し訳無さも感じたけど、それでも俺は、みんなのそんな拍手を仲間と共に受けられた事に、気恥ずかしさと喜びを感じていた。
§ § § § §
女王達と謁見を終えた俺達は、ヴァルクさんの案内で王宮のエントランスまで戻ってきた。
「では、晩餐会は明日の夜。宿に迎えをよこしますので」
「わかりました」
「では、
「あ、ちょっと待ってください」
俺は王宮に戻ろうとしたヴァルクさんを呼び止めると、彼の側に歩み寄り、小声でこう尋ねた。
「あの、最後にひとつだけ質問させてください」
「はい。何か?」
「あなたの師匠の名前は、ムサシで合ってますか?」
瞬間、ヴァルクさんが目を
「どこでその名を……」
「風の噂です。とはいえ、別にあなたの師匠が悪さをしたという話ではないので。ご安心ください」
光導きし者。
その二つ名を師匠が知っていたからこそ、ヴァルクさんの頭には、ミルダ王女誘拐事件の裏にムサシって人がいる可能性がずっとこびりついていたはず。
俺はそんな悩みを払拭するように笑みを浮かべウィンクすると、彼はその意図を察し、ふっと笑い返してくる。
「そうですか。これでこれからも、あの方の弟子だと胸を張れそうです」
「そうしてください。では、失礼します」
話を手短にまとめた俺は、軽く会釈をすると、そのまま俺達を不思議そうに見ていたロミナ達の元に駆け戻った。
「お待たせ。行こうか」
「うん」
俺達は改めてヴァルクさんに一礼すると、そのまま中庭を歩き始めた。
「何の話をしてたの?」
「ああ。ちょっとヴァルクさんの師匠の事を聞いてたんだ」
「あら? 何かあったのかしら?」
「いや、俺としてちょっと気になったことがあっただけ。大した意味はないさ」
ロミナやフィリーネの問いかけに、そう軽くごまかした俺だったけど、それを訝しんだのはルッテだった。
「そうやって、お主はすぐ色々と隠そうとするのう」
「おいおい。別にお前達に関係ない話だしいいだろって」
「本当か? この間の件でも、まだ聞いておらぬ話もあるんじゃが」
「ん? 何の話だ?」
俺が思わず足を止め振り返ると、後ろをついて歩いていたルッテが、周囲に衛兵が居ないのを確認すると、いつもの彼女らし悪戯っぽい笑みを浮かべた。
「お主が、
「は? まじかよ!?」
「それ、初耳」
ルッテが語った言葉に、思わず耳をピンっと立てミコラが驚き、あのキュリアを目を丸くしてる。
って、俺は別に、あいつらの前でそんな話を語ってないよな!?
「ちょ、ちょっと待て。何でそんな話に──」
「あら? あなたと四霊神達の会話を聞いてたらバレバレじゃない」
俺が何とかごまかそうと驚いて見せたけど、それを一蹴したのはフィリーネだった。
「
……あ。
──『うるさい! そんな約束をしたから、あの時二人を見殺しにする事になったんじゃない! ディアもワースも、何で二人を助けなかったよの! 何でカズトだけ救ったのよ!』
確かに、ディアとワーストのやりとりで、キャムはそんな事を口走ってた。
よくよく考えたら、あの時みんなは精霊界にいたけど、そのやりとりは聞こえてたって事かよ……。
バツが悪くなり、俺は思わず頭を掻く。
「折角だもん。後でみんなで聞かせてもらおっか」
「そう致しましょう」
「ま、別にお前が何者だってもう関係ねえけどな」
「うん。関係ない。カズトは、カズト」
「とはいえ、好いた男の事は知っておきたいのでな」
「そうね。明日はまた大変でしょうし、今日はゆっくりお茶でもしながら、貴方の秘密、聞かせてもらうわよ」
「……はいはい。わかりましたよ」
ため息を
「でも、明日の晩餐会は、どんな服で行けばいいのかな?」
「やはりドレスくらいは新調すべきかのう」
「……ザイード、面倒」
「キュリア。あのお方も随分と心を入れ替えられておりますから。心配なさらなくても良いのではないでしょうか?」
「まあ、対応に困ったらカズトに泣きつきなさい。どうにかしてくれるわ」
「はっ!? 俺かよ!?」
「カズト。助けてくれる?」
思わず肩越しに後ろを見ると、キュリアが少し目を潤ませてこっちを見てるし、見守るみんなも楽しげな顔をしてる。
「……まあ、何とかするよ」
結局俺かよ、とも思うけど。
あいつが絡んできたら、どうにかできるのも俺だけだろうし、みんなが嫌な気持ちになる事は、名ばかりでもリーダーなんだし、ちゃんと護ってやらないといけないもんな。
……しっかし。ほんと、癖が強くて、美少女で。優しくて。わがままで。
だけど、本当に頼りになる仲間達だよ。
俺はそんな彼女達とだから、
流石に全員に想いを寄せられてるってのは、流石に出来すぎじゃないかとも思うけど。そうであってもなくっても、俺はみんなが許してくれるなら、今まで通りに彼女達と共にいたい。
彼女達との絆を信じてるし、一緒にいられるのが嬉しいから。
……再び世界を救った聖勇女達。
それと共にいる俺が英雄だなんて、未でも思えないけど。
いつかちゃんと、俺もLランクだって胸を張れるよう、もっと強くなって、みんなを護れるようにならないとな。
……まあ、そう何度も世界を救うなんて話、勘弁してほしいけど。
〜Fin......?〜
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