エピローグ⑤:Lランク
翌日。スニック港に戻るため砂上艦での航海が始まったけど。
流石にこっちもあれだけの戦いを終えた後。ミストリア女王もそこは気を遣ってくれて、スニック港に到着するまでは、俺達に自由にしていいと話してくれていた。
とはいえ、砂上艦と自由というのも考えもの。
つまり、俺はあいつらと落ち着いて顔を合わせる時間が増えるって事だから。
スニック港までの二日。
結局俺は、ロミナ達の部屋で一緒に過ごしたり、甲板でミコラやロミナと稽古したり。ある意味普段どおりに過ごすことになった。
正直、みんなが普段どおりじゃなかったらどうしようかと悩んではいたんだけど、そこは流石にみんなも心得ていてくれて、できる限り普段どおりに接してくれていた。
……キュリア以外は。
「ねえ。お昼。あーんしてほしい」
とか、普通に仲間の前で口にするもんだから、それを制するのに俺やみんなも苦労したし、それを利用し茶化してくるルッテにも手を焼いた。
とはいえ、流石に困り顔をした俺が、
「本当に悪いんだけど、そういうのは、二人の時だけにしてくれないか?」
と、顔を真っ赤にしながら本音を口にすると、少し不満げながらも、キュリアは「うん」って頷いてくれて、何とか事なきを得た。
「これで二人っきりなら、何しても良いと確約されたわけじゃな」
なんて笑うルッテには、思わず「良いわけないだろ!」って突っ込んだけど。
§ § § § §
スニック港からフィラベまでの馬車では、俺とロミナがまたミストリア女王と同席になったんだけど、もうひとりはヴァルクさんじゃなくってロドルさん。
そこで、二人から今回の蜃気楼の塔について質問をされた。
何でも、伝承でしか語られなかった塔について、よりしっかりと記録に残したいっていうロドルさんの希望があったからだったんだけど。
俺は少し考えた上で、それに断りをいれた。
「
「はい。あの塔がただのダンジョンのようなものであれば、俺は迷わず全てをお話したと思います。ですが、今回の件はあの塔の守護者の悲哀があり起こったもの。その全てを話し、伝承に残すのは忍びないですし、今回の件でより安易に塔に近づこうとする者が増えるのも、俺は望んでないんで」
そんな事情を説明すると、残念そうな顔をしながらも、ロドルさんは受入れてくれた。
「さすが、聖勇女が惚れ込んだ男であるな」
なんて、皮肉めいた称賛をしてきたミストリア女王には、流石の俺達も真っ赤になったけど、この間の告白があったからこそ、それを否定できないもどかしさも感じていた。
§ § § § §
そして、フィラベに無事戻って数日後。
俺達は、再び王宮の謁見の間で、ミストリア女王、ザイード、ミルダ王女やその側近達と謁見することとなった。
以前の謁見とは流石に空気が違い、俺達に向けられる目は奇異でもなんでもなく、称賛と感謝の籠もった温かい目。
その空気が少し俺を安堵させた。
既に玉座に座るミストリア女王の前に跪く俺達。
以前宣言をしていたからこそ、先頭には俺とロミナが並んで座っている。
とはいえ、よくよく考えると、俺ってこういう場での会話って全然慣れていないし、俺が口を開くことでまた揉め事が生まれるかもしれない。
だから、基本的な応対はロミナに任せることにしていた。
「さて。聖勇女一行よ。改めてこの国と娘のミルダを救ってくれた事、感謝する」
「聖勇女としてお力添えできて光栄です」
「うむ。
「提案、ですか?」
ん? 提案?
その言葉に俺とロミナがちらりと視線を向け合うと、少し気構える。
いや、別に悪い話じゃないんだと思うんだけど、あまりに急な話だったからな。
そんな俺達の空気の変化を感じ取ったんだろう。
「そう固くなるでない。
「へ? 俺にですか?」
思わず素っ頓狂な声をあげると、ミストリア女王はその表情に笑みを浮かべる。
「そうだ。光導きし者、カズトよ。聖勇女一行の中でも、
その言葉に、周囲の人達が「おおっ!」と感嘆の声をあげる。
「
「そうだ。
それは突然の申し出。
俺は肩越しに後ろのロミナを見ると、流石に彼女も目を丸くして驚いていた。
だけど、そこは流石アンナ。
片膝を付いたまま、恭しく頭を下げると、こう言葉を返した。
「
それを見て、女王は小さく頷くと、今度は視線を前に戻した俺の方を見た。
「カズト。
……確かに、悪い話じゃない。
俺がLランクとして認められれば、きっとみんなが足手まといを連れているなんて思われずに済むかもしれないし。
ただ、ミストリア女王の申し出とは言え、はいそうですかと受けられるかは別だ。
「あの、一国の女王の意見のみで、勝手にランクを決めてもよいのでしょうか?」
俺は、素直に気になった一言を確認したんだけど。それを聞いた女王は、表情を変えずにこう返してきた。
「この件は既に伝書にて各国に連絡し、許可を得ておる。ウィンガン共和国の評議会。ロムダート王国のマーガレス王。そして、
この短期間にそこまで取り付けたってのかよ。
俺はそんな女王の行動力に舌を巻く。
「カズト」
隣のロミナは、俺をじっと見つめてくる。その表情は少し嬉しそうだ。
ちらりと後ろを見れば、仲間もみんな同じ笑顔を向けてくれている。
あのザイードですら、それに異議を唱えようとしないし、周囲もそれを歓迎する空気をひしひしと感じる。
……そうか。俺はそこまでの事はできたんだな。
その場の空気で改めて沿う感じられたのが嬉しかった。
親父やお袋に少し近づけた気もするし。
そして、だからこそ俺は、こう返したんだ。
「その申し出、謹んでお断りいたします」
って。
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